第二話 新たな一歩

 ロイ様にお願いして労働者を募集したところ、多くの人が働きたいと申し込んできた。


 「ロイ様のお陰です」

 「シルヴィア様、具体的に何をさせるのか教えていただけませんか?」

 

 具体的に何をさせるのか。それは、水力発電所と風力発電所からグランヴェル領に電線を引くという仕事。距離が結構あるから重労働だ。


 「私が水力発電所と風力発電所を建設します。そこからグランヴェル領まで電線を引くのが仕事です」

 「電線を引く……。距離が結構ありますが」

 「はい、その通りです。だから、労働者を募集したのです」


 電線は地中に埋めることにした。それはつまり、過酷な労働が待っているということだ。さて、問題は……。


 「因みに電線は地中に埋めます。なので、地面を掘らないといけません」

 「それだけで重労働ですね。でも、労働者はやる気満々ですよ」

 

 問題は風力発電所。隣国のディアロス帝国との国境沿いにあるアルカディア山脈に建設しないといけない。それは危険を伴う重大な仕事だ。


 「ロイ様、アルカディア山脈の件はどうされます?」

 「現在、王都にて協議中です。しばらくお待ちください」

 

 協議中か。なら、待たないといけない。


 「シルヴィア様、先に太陽光発電システムを設置するのはどうですか?」

 「それは考えてあります。でも、数が多いのですぐには普及できませんよ」

 「では、グランヴェル邸から設置しましょう」


 そうか。実家から先に設置すればいいんだ。これで問題がひとつ消えた。


 「分かりました。そうしましょう」

 

 現在、辺境の地にある家の太陽光発電システムは良好で、発電量も十分ある。問題があるとしたら売電できないことだ。

 売れたらお金になるのに。あ~、惜しいことをしている。


 「では、グランヴェル邸に行きましょう」

 

 護衛としてスレナを連れて行こう。スレナなら私を守ってくれるはずだ。


 「スレナ、護衛を頼みたいのですが」

 「喜んでお供します」


 スレナの馬に乗るのはこれで二回目だ。結構大変だから頑張らなきゃ。


 「マリア、サラ、留守番よろしくね」

 「私にお任せください。この家を守ってみせます」


 マリアとサラなら絶対に家を守ってくれる。頼りになるふたりだ。


 「では、行きましょう」


 私はスレナの馬に乗って、実家のグランヴェル邸に向かった。




                 *




 グランヴェル邸に到着してすぐに、父のアノスと母のミーアが出てきた。

 

 「シルヴィ、おかえりなさい。今日はどうしたの?」

 「お母様、ただいま戻りました。少し仕事をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「仕事? どんな仕事?」

 「この家に太陽光発電システムを設置する仕事です。設置すれば電化製品が使えるようになりますよ」


 父のアノスが母のミーアに説明している。母には説明していなかったから大助かりだ。

 

 「シルヴィが作った便利な道具が使えるのね。良いわよ。仕事して」

 「では、早速仕事をさせていただきます」


 設置の仕方は、グランヴェル邸の見取り図を紙に描き、設置したい太陽光パネルや配線、パワーコンディショナーや分電盤、電力量計やカラーモニターを描き、それらを具現化させる。もちろん、コンセントも屋敷の各部屋に設置する。結構大掛かりだ。


 「シルヴィ、何を描いているの?」

 「この屋敷の見取り図です。今から太陽光発電システムを具現化します」


 お母様が首を傾げている。私の能力を知らないから首を傾げて当然だ。さて、仕事をするか。

 

 「いでよ、太陽光発電システム!」

 

 グランヴェル邸の屋根に太陽光パネルが具現化された。配線なども一緒に具現化されている。成功だ。


 「もう終わったの?」

 「これで太陽光発電システムの設置は終わりです。あとはちゃんと稼働しているかチェックします」


 あっという間に設置は終わったけど、私の体力が消耗された。結構疲れが出ている。お腹が空いてきたな。


 「カラーモニターと電力量計はちゃんと動いている。あとはコンセントから電気が来ているか確認しよう」


 屋敷の中に入って確認している。コンセントの確認はどうしよう。掃除機でも具現化するか。


 「掃除機よ。我が前に具現化せよ」


 掃除機を具現化してプラグをコンセントに差した。さて、どうだろう。


 「動いた。ということは、成功だ」


 お母様が掃除機を見て驚いている。ちょっと使ってもらおう。


 「お母様、これは掃除機と言って、ごみや塵を吸い込んで掃除するものです」

 「今、どうやって作ったの?」

 「私は紙に描いたものを具現化させる力があるのです。驚かせてすみません」


 お父様がフォローに入っている。母として娘の能力を知っておかないといけない。大丈夫かな?


 「シルヴィは紙に描いたものを現実のものにできる力があるのね。凄いわ」

 「でも、能力を使うと体力を消耗してしまいます」


 体が少しふら付いた。これはいけない。


 「シルヴィア様、大丈夫ですか?」

 

 ロイ様が咄嗟に体を支えてくれた。有難い。


 「これだけのものを具現化させたんだ。疲れて当然だ」

 「ロイ様、急いでシルヴィアを部屋へ」

 「分かりました」


 私の部屋に連行された。まあ、これは仕方がない。

 

 「ロイ様、すみません」

 「シルヴィア様、お部屋でゆっくり休んでください」


 グランヴェル邸の太陽光発電システムの導入は成功した。これは新たな一歩を踏み出したと言ってもいい。

 でも、倒れてしまっては元も子もない。


 「シルヴィ、ゆっくり休んで」

 「はい、お母様」


 私は言われた通り横になり、ゆっくりと目を閉じて体を休めた。

 

 


 


 

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