第六話 シルヴィアの気持ち

 廃棄物発電所の運用に必要なごみがどれくらい集まるのか調査している。ロイ様が率先して調べているようだけど、大切なことを忘れている。それは、私とロイ様が婚約者同士ということだ。今は調査で忙しい。けれども、私とのお付き合いを少しは考えてほしい。そんな我儘を私は考えていた。


 「ねえ、サラ。ロイ様は何時になったら戻ってくるの?」

 「そう言えば、出掛けてから一度も戻ってきていませんね」


 ロイ様が辺境の地を離れて一週間が経った。廃棄物発電所を作ることに関しては準備万端。あとは、ごみに関する調査のみ。

 この調子だと街灯まで作ってしまいそう。


 「シルヴィア様、今日も野菜がたくさん売れました」


 プリム村に野菜を売りに行ったマリアが戻ってきた。

 最近、マリアは野菜作りに没頭している。本来の職業を忘れるほどに。


 「良かったわね。でも、少しは休んで」

 

 マリアが家の中を見渡している。ロイ様を探しているのかな?


 「そう言えば、ロイ様が戻ってきませんね。助手としての仕事を頑張っているのでしょうか」

 「王都に発電所を作って電化製品を使いたいのは分かるけど、少し頑張り過ぎよね」

 「電化製品を使いたいと仰ったのは、ベネディクト国王陛下ですよね? ロイ様も同じ考えなのでしょうか」

 「そうでしょうね。でも、私は王都に住まないわよ」


 この辺境の地で自由気ままに生活したい。好き勝手できるのは、この辺境の地だけ。王都に移り住んだら、こき使われるに決まっている。現に廃棄物発電所の準備や燃料になるごみを調査している。これ以上、仕事をしてたまるか!


 「まあ、シルヴィア様は婚約破棄を経験された身ですし、王都に行きたくないのは分かります」

 「マリアはここを離れてもいいと思っているの?」

 「私はベネディクト国王陛下からご指示があるまで、ここに滞在しないといけないので何とも言えませんね」

 

 そうだよね。ベネディクト国王陛下の指示があるまで私を監視しないといけないよね。私が元気になったらどうするんだろう。王都に戻るのかな?


 「ん? 誰か来たみたいですよ」


 馬の蹄鉄が地面を打つ音が聞こえる。ロイ様が帰ってきた?


 「シルヴィア様、ロイ様がいなくて寂しいですか?」

 「うん。寂しい」

 「そうですか。私達も彼がいなくて寂しいです」


 私の気持ちとしては、ロイ様とたくさんお喋りがしたい。そして、毎日飽きることなく世間話をして笑い合いたい。

 私をひとりにしないでほしい。ただそれだけが願いだ。


 「ただいま戻りました!」

 「ロイ様、おかえりなさい。シルヴィア様が首を長くして待っていましたよ」

 「シルヴィア様、遅くなって申し訳ありません」

 

 ロイ様が頭を下げている。仕事だから仕方がないけど、ちょっと時間が掛かり過ぎ。連絡くらいしてほしかった。


 「おかえりなさい。お仕事だから仕方ありませんよ」

 

 私の気持ちを察したのか、ロイ様が再度頭を下げた。なんて思いやりのある人なんだろう。その優しさが好きだ。


 「それで、調査の方はどうでした?」

 「燃料となるごみですが、各家庭に聞いたところ、生ごみは毎日出るとのことでした」

 

 生ごみだけだと異臭の問題がある。無理ではないけど、発電所で働く人が嫌がるだろうな。


 「生ごみだけですか? 木くずや紙切れなどは?」

 「生ごみと比べたら少量しかないと言っていました」


 やはり、この異世界ではごみが少ない。これはどうしようもないな。


 「分かりました。ありがとう御座います」

 

 木を伐採して燃料にするという手もあるけど、そんなことをしたら自然環境が変わってしまう。化石燃料があればいいのに。


 「シルヴィア様、廃棄物発電所は作れそうですか?」

 「今のところは難しいですね。風力発電所なら可能かもしれませんが」


 生ごみで肥料を作れば、農作物が良く育つ。でも、ベネディクト国王陛下は発電所をご所望だ。さて、どうしたものか。


 「シルヴィア様、他に何かありませんか?」

 「太陽光発電というものがあります。太陽電池に太陽の光を当てて発電するのですが……、発電量が安定しないので蓄電池と併用しないといけません」

 「そうですか。もし太陽光発電所を作るとしたら、どれくらい土地を使いますか?」

 「多く発電したいのでしたら、広大な土地が必要になります」

 

 廃棄物発電所と太陽光発電所の両方を作れば、発電量が安定するはず。でも、問題がある。


 「ロイ様、廃棄物発電所と太陽光発電所の両方を作るというのは?」

 「可能なのですか?」

 「土地さえあれば可能です。如何なさいますか?」

 

 私としては、太陽光発電所を作って電力を供給した方が無難だと思っている。廃棄物発電所はごみが少ないから使用が乏しくなるかもしれない。さあ、ロイ様の答えは?


 「シルヴィア様、太陽光発電所を作りましょう」

 「分かりました。では、準備しますね」

 

 太陽光発電システムを各家庭に導入すれば、多くの電力が得られる。それを考えたら、実用性があるのではないだろうか。


 「ロイ様、各家庭に太陽光発電システムを導入するのは如何ですか?」

 「各家庭にですか? それは良いですね」

 

 各家庭と発電所の電力を合わせれば、街灯だって灯せる。良いアイディアだ。


 「ロイ様。話を変えますが、何で連絡をくれなかったのですか?」

 「すみません。夢中になり過ぎてしまって……」

 「仕事だから仕方がありませんが、少しは私のことを考えてください」

 「……僕はずっとシルヴィア様のことを考えていましたよ」


 ロイ様が真剣な眼差しを私に向けている。言っていることは本当みたい。

  

 「ごめんなさい。私、てっきり……」

 「シルヴィア様のことを考えなかったことは一回もありません」


 心苦しい。変に責めてしまった。罪悪感が。


 「シルヴィア様、僕は貴女が好きです。それだけは本当です」

 「私もです。ロイ様」


 ここでキスしたいところだけど、マリアとサラがいるからできない。


 「シルヴィア様、無理だけはなさらないでくださいね」

 「分かりました」


 お互いの気持ちを知るというのは良いことだな。もっと親睦を深め合おう。


 「ロイ様。私、ロイ様のことが好きです」

 「僕もです」


 私はロイ様と微笑み合い、お互いの気持ちを再確認した。

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