第五話 シルヴィア、ロイと模索する

 ベネディクト国王陛下から大役を仰せつかった。これは重大なことだ。

 

 「ロイ様。まず、廃棄物発電所を作る前に正確な情報が必要となります」

 「正確な情報。それはどんなものですか?」

 「廃棄物、すなわちごみがどれくらい集まるかです」


 廃棄物発電所を作る前にごみが毎日どれくらい集まるかをシュミレートする必要がある。ごみが集まらないのに廃棄物発電所を作ってもなんの意味もない。これは王都に住んでいる国民に聞いて回るしかない。ロイ様なら可能か?

 

 「ごみですか。料理の際に出る生ごみもですよね。どれくらい集まるかが問題なのですね」

 「そうです。廃棄物発電所はごみを焼却して熱を生み出し、その熱を利用してボイラーで蒸気を発生させ、タービンを回して発電するものです。まずは、燃料となるごみがどれくらい集まるか調べる必要があります」


 ロイ様が混乱している。何を言っているのか分からないと言った顔だ。


 「廃棄物発電所の燃料はごみだけなのですか?」

 「はい、ごみだけです。他にも火力発電所というものがありますが、燃料が化石燃料なのです。私はこの世で化石燃料という言葉を聞いたことがありません」

 「化石燃料? 確かに聞いたことがありません」


 原子力発電や火力発電、地熱発電は恐らくこの世界では実現できないだろう。でも、風力発電は実現できる可能性がある。


 「その他に風を利用した風力発電というものがあります」

 「風を利用したものがあるのですね。でも、風がないと発電できませんよね?」

 「その通りです。風がないと発電できません」

 

 ロイ様が真剣に考え事をしている。頭の中を整理しているのかな。


 「話を戻しますが、王都で集まるごみがどれくらいか、ですよね? 僕の近衛騎士団に調べてもらいましょうか」

 「可能なのですか?」

 「可能だと思います。毎日暇しているので大丈夫でしょう」

 

 毎日暇しているって……、ロイ様の護衛はどうした。サボっているのか?

 

 「では、ロイ様の近衛騎士団に調べてもらいましょう」

 「分かりました。手紙を書いて指示します」


 まず、ごみがどれくらい集まるのか調べてから運用できるか判断しよう。もし集まらないのなら運用できないときっぱり報告し、今回の件はなかったことにしてもらおう。そうすれば、ベネディクト国王陛下も諦めがつくはず。よし、行動あるのみだ。


 「ロイ様。廃棄物発電所の設計図を作ったのですが、ご覧になりますか?」

 「少し見せてもらってもいいですか?」

 「いいですよ。どうぞ」


 ロイ様が廃棄物発電所の設計図に目を通している。頷いているということは、理解しているということでいいのかな。


 「なるほど、ごみを集めて燃やし、ボイラーという設備に熱として伝え、蒸気を発生させてタービンを回し、発電機を回して発電する。シルヴィア様はやはり天才ですね」

 「そうですか? ありがとう御座います」


 ロイ様も凄い。設計図だけで構造を理解するなんて……、本当に頭が良い。


 「では、近衛騎士団宛に手紙を書いて調べさせます」

 「よろしくお願い致します」

 

 さて、私はこれからどうしようかな。なんかお腹が空いてきた。


 「サラ」

 「何でしょう? シルヴィア様」

 「ごめんなさい。お腹が空いたの。何かつまむものある?」

 「クッキーならありますが、お召し上がりになりますか?」

 「ついでに紅茶もお願いするわ」

 「かしこまりました。すぐにご準備します」


 サラがお湯を沸かしている。

 そう言えば、ベネディクト国王陛下が電化製品を使いたいと言っていたな。使いたいのは分かるけど、発電所がないとなんの役にも立たない。だから、私に廃棄物発電所を作るという大役を仰せつかったのか。

 よく考えたら、それってベネディクト国王陛下の個人的な頼みでは……?


 「シルヴィア様、少し出掛けてきます」

 「どちらに?」

 「プリム村です。手紙を配達させます」

 

 またプリム村に護衛を待機させているのか。別に構わないけど、なんか可哀想に思える。

 

 「いってらっしゃいませ」

 「行ってきます」


 ロイ様が出掛けてから間もなくして、クッキーと紅茶が運ばれてきた。

 

 「シルヴィア様、どうぞ」

 「頂きます」


 クッキーが意外にも美味しい。誰が作ったんだろう。


 「サラ、このクッキーは誰が作ったの?」

 「スレナさんです。今はお部屋でお休みになられていますが」

 「そう……。本当に美味しいわ」


 スレナ、グッジョブ。


 「シルヴィア様、ベネディクト国王陛下と何をお話になったのですか?」

 「この生活についてお話したの。そうしたら、電化製品を使いたいと言ってきたわ」

 「つまり、この環境と同じ環境を作り出せと?」

 「その通り。もう大変だわ」


 サラも学があって頭が良い。聞いたところによると貴族の娘で末っ子らしい。

 何で私の専属メイドになったのかは知らないけど、私を慕っているのは間違いない。


 「サラ、いつもありがとう」

 「いえ、仕事ですから」


 以前、何か企んでいるのか聞いたことがある。そうしたら、『シルヴィア様が好きだから』と返事が来た。この子は本当に私を慕っている。大切にしなければ。


 「シルヴィア様、おはよう御座います」

 「スレナ、おはよう。よく眠れた?」

 「はい、ぐっすり眠れました。シルヴィア様はお休みにならないのですか?」

 「クッキーと紅茶を頂いたら部屋に戻るわ」

 

 スレナがクッキーを見て驚いている。


 「シルヴィア様、クッキーのお味は?」

 「甘くて美味しいわよ。紅茶によく合うわ」

 「ありがとう御座います。お気に召していただけて光栄です」


 さすが、料理係。クッキーも焼けるなんて最高。


 「それじゃあ、私は部屋に戻って休むわ」

 「おやすみなさいませ」

 

 私は廃棄物発電所の設計図を手に取り、自室に戻ってベッドに横たわり、ゆっくりと目を閉じて仮眠をとった。

 

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