第三話 シルヴィア、王都へ

 ロイ様に辺境の地での生活についてお話をした。

 

 「自給自足の生活なんですね。だから、畑仕事を……」

 「そうなのです。畑仕事はマリアに任せておりますが、思いの外、野菜が売れていまして、生活ができています」

 

 マリアが胸を張って威張っている。ロイ様にはできまいと思っているのだろうか。まさにその通りだ。


 「シルヴィア様が農業の知識を持っていたから成し遂げられたようなものです」

 「マリアさんは農業の知識はあるのですか?」

 「私ですか? 多少心得がある程度です」

 

 ロイ様がこの辺境の地に来れば、男手がひとり確保できるのに。第二王子だから無理かな。


 「シルヴィア様、少しよろしいですか?」 

 「何でしょう?」


 何だろう。緊張するな。


 「シルヴィア様は僕のことを好きだと仰ってくださいました。それはつまり、お付き合いしたいという事ですよね?」

 「はい、可能なら」

 「でも、この辺境の地を離れたくない。つまり、僕がここに来れば問題ないということですよね?」

 「はい、その通りです」


 ロイ様が真剣な眼差しを私に向けながら考え事をしている。

 もし、ロイ様がこの辺境の地に長期滞在するなら、私の恋は実ったも同然になる。でも、そう簡単にいかないことも分かっている。ロイ様はヴァリアント王国の第二王子。勝手な行動は制限されている筈。それ即ち、ベネディクト国王陛下のお許しがないとできないってことだ。しかも、ロイ様はベネディクト国王陛下からお許しをもらっていないと言った。

 私が王都に赴いて嘆願たんがんしないと駄目か。


 「やはり、シルヴィア様と共に父上のもとに行かないと駄目か」

 「ベネディクト国王陛下はクリフォード様が私と復縁したいと言っているから、ロイ様と私の婚約を許してくれないのですよね?」

 「そうです。兄上が邪魔しているからです」

 「クリフォード様はどうして私と復縁したいのですか? 公爵令嬢だから?」

 「恐らく、公爵令嬢だからだと思います」


 私がクリフォード様ではなく、ロイ様と結婚したら王位継承はどっちがするんだろう。その点もあると思うけど、クリフォード様が復縁を申し込んできたのは立場上、そうしないと示しが付かないからだと思う。


 「兄上はエレナを凄く責めています。『お前のせいで俺は不利な立場になった』、と」

 

 やはり、立場の問題か。困った。


 「シルヴィア様は兄上に復縁を断ったのですよね? 何か言っていませんでしたか?」

 「『絶対に諦めない』と仰っていましたよ」

 「やはりそうですか。困ったな」


 絶対に諦めないということは、考えを改めるということかな。なら、エレナのことを忘れて私だけを見るってこと?

 でも、私はロイ様のことが好きだ。クリフォード様が何を言おうと、私はロイ様と婚約する。


 「私としてはロイ様と婚約したいです」

 「僕もそうしたいのですが、邪魔をされて動けないのです」

 

 ロイ様が悩んでいる。やはり、私が王都に赴くしかないか。


 「ロイ様。私がベネディクト国王陛下を説得しましょうか?」

 「シルヴィア様が? 大丈夫ですか?」

 「大丈夫です。恐らく、ベネディクト国王陛下は私の考えや思いを直接聞きたいだけだと思います」

 「では、夜が明けたら王都に行きましょう」

 「そうしましょう」


 もう夜も遅い。ベッドに入って寝よう。


 「ロイ様は客間でお休みください」

 「分かりました。布団は押し入れにありますか?」

 「ありますよ。敷きましょうか?」

 「いえ、自分で敷きます。では、おやすみなさい」

 「おやすみなさい」

 

 ロイ様にお辞儀をして、私は自室に戻り、ベッドに横たわってゆっくりと目を閉じた。




                   *




 ――翌朝。

 スレナがサンドイッチとコーンスープを作って待っていた。


 「おはよう。スレナ」

 「おはよう御座います」


 ロイ様がリビングで寛いでいる。挨拶しないと。


 「ロイ様、おはよう御座います」

 「シルヴィア様、おはよう御座います。よく眠れましたか?」

 「はい」


 サラとマリアは、ダイニングの席に着いて朝食を食べている。残っているのは私だけ。ゆっくり寝すぎたかな。


 「ロイ様、すみません。朝食を摂ります」

 「どうぞ、ごゆっくり」


 席に着いてサンドイッチを手に取り、口に運んだ。

 さっぱりしていて美味しい。しかも、軽い。


 「シルヴィア様、いかがですか?」

 「美味しいわ。ありがとう」

 「いえ」


 スレナが何か言いたそうだ。何だろう。


 「スレナ、どうしたの? 何か言いたいことがあるなら言って」

 「あの、王都に行って本当に大丈夫なのですか?」

 「大丈夫だと思うわよ」

 「それでも心配です。誰か付き人を連れて行きませんか?」


 幸い、マリアとスレナは馬を持っている。馬車で休んでいる馬にとっても良い運動になるはずだ。


 「……分かった。スレナ、ついて来てくれる?」

 「はい、喜んで!」


 スレナを同行させれば、盗賊に襲われても大丈夫だよね。


 「シルヴィア様。護衛がプリム村にいるのですが、連れて帰ってもいいですか?」

 「護衛も来られているのですか? もちろん構いませんよ」

 

 今回、ひとりで行くのはやめた方が良い。スレナを連れて行くのは絶対だ。


 「ご馳走様でした。では、身支度を整えてきます」

 「分かりました。僕は護衛を呼びに行ってきます」


 ロイ様が玄関に向かっていった。

 私は身支度を整えて、スレナと待っていればいいかな。よし、準備しよう。


 「スレナ、着替えてくるわ」

 「分かりました。私も装備を整えてきます」

 

 二階に上がり、自室に戻って準備を始めた。普段着に着替え、髪を整えて身だしなみのチェックをする。


 「これでよし」


 準備を整え、リビングへ。スレナが待機していた。


 「シルヴィア様、ロイ様が来られるまで待ちましょう」


 と言っているうちに、ロイ様が護衛を連れて戻ってきた。


 「シルヴィア様、お待たせしました!」


 家を出る前にサラとマリアに声を掛ける。

 

 「サラ、マリア、留守番をお願いね」

 「分かりました」


 これから、ロイ様と王都に行く。ベネディクト国王陛下にきちんと説明して、ロイ様との婚約を許してもらおう。


 「シルヴィア様、後ろにお乗りください」

 「うん」


 スレナの馬に乗った。結構高い。


 「では、参りましょう」


 私は振り落とされないようにスレナに抱き付き、王都に着くのをひたすら待った。

 

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