第14話 帰ろっか

『警察に連絡しなきゃ』なんてことは頭からすっぽ抜けていた。とにかく見つけなきゃ、という一心で、やみくもに走り回った。


 皐月に何かあったらどうしよう。

 連れ去りや事件に巻き込まれていたらどうしよう。

 事故に遭っていたら——


 パトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。それは私を追い抜き、近所の公園の前で停まる。

 私の顔から血の気が、ザアァーっと引いていった。

 なんで最初にここに来なかったの、私のバカ!

 ここは大事な場所じゃないの!

 皐月が、コハナちゃんと一緒に、あんなにも飽きるくらい遊んだじゃないの!!

 私はもつれる足もそのままに、公園へと駆け込んだ。


 結論から言うと、皐月じゃなかったけど、皐月はいた。

 いや、これだと言葉が足りなさすぎる。

 救急車に運ばれたのは皐月じゃなかったけれど、桜の木の下、ベンチの上で、あの青いハンカチを握りしめて膝を抱えた皐月がいた。

 ストレッチャーで寝ているのが皐月ではなかったことへの安堵と、運ばれていく少年に対する申し訳なさを味わい、次の瞬間『だったら皐月はどこにいるの!?』とすっかり狼狽えた。

 しかし、そこにきて振り返ったら皐月がいて、拍子が抜けしてしまったのだ。

「さっちゃん。ここで何してるの?」

 私は皐月の隣に腰を下ろした。

「ここにきたら、せんさーがきくかなって」

「……【せんさー】?」

 なんのことだかさっぱりわからないでいると、皐月は鼻先を膝の間に埋める。

「おかあさん、よく言ってたじゃん。さっちゃんにはコハナちゃんせんさーがある、って」

 あー、そっか。それでここに来たのか。

「だけど、ぜんぜんだめ。せんさーこわれちゃった。コハナちゃん、どこにいるのかわかんないよ……」

 ひっく、ひっく。

 小さな肩が震えたかと思ったら、私の首根っこにしがみついてきた。

「……帰ろっか」

「っく、ひっく……」

 皐月はすっかり落ち込んでいて。でも、こういうときくらいは甘やかしてもいいと思うのよ。

「さっちゃんの大好きな、かぼちゃのシチュー、作ってあげる! 食べてくれるよね」

「おなか、すいてない」

「空いてないなら空くまで待つわよ」

 よしよし、しっかりお泣きよ、我が娘よ。木漏れ日を受けて輝いく緑髪を指で梳いた。


 甘やかしついでに家までおんぶをしてあげることにした。

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