接触

歓迎会前夜

日が完全に沈んで空は烏の羽のようになっているが、地面に目を向けると歓迎会の準備に追われる者やせっかちな人が屋台を出し、美味しそうな匂いが漂っている。僕と多朗はそこで夕飯をいただいた。イカの丸焼きがとても美味しかった。

そして劇場に着くと制服をかっこよく着こなしている人々が集まっていた。

いかしたネクタイを締め、髪型も決まっている。

いまだ制服に着られている感じが抜けない僕らは少し場違いな感じがして恥ずかしかった。

少し待っていると、いつもとは違う制服をきた姉さんがやって来た。

「姉さん、その制服は?」

「ああ、この制服は役員用さ。一応、役員として席を

取ったから役員の恰好で行かないとね。」

と説明してくれた。その制服は金色の装飾がしており、袖に紫の線が二本入っていた。

「さらに付け加えると普段もこの制服を着てもいいけど全校生徒会がある中央高校以外だとすごく目立つからね。あと階級によっても制服のデザインが違うからこの袖の紫の線があるだろう?この線が1~3本まであって、線が多いほど階級が上ってこと。あと、紫色の線は特別な地位にいる証だから1本線でも紫だとただの3本線でも権力を振りかざしにくいという注意点があるから。」

と袖を見せながら言った。

急に、周りが騒がしくなり一つの生き物のように動き出した。どうやら開場時間になり扉が開いたらしい。結構なせっかちである姉さんはすでに歩き始めていた。僕たちは姉さんとはぐれないように速足でついていった。

劇場の中に入ると赤と黒の落ち着いた制服に身を包んだ美人な女性がチケットを確認している。姉さんと一緒にチケットを見せた時、少し驚いた顔になったのは僕しか気づいていないだろう。他にも中学生がオレンジエードを売っていた。僕はこんな劇場でオレンジエードを飲まないのは損と思い、オレンジエードを買ってみた。そんな僕を多朗はやれやれと肩をすくめていた。そんなに子供っぽいだろうか?

エントランスは由緒正しいクラシックのような内装でオーナーのこだわりが垣間見える、少し暗めの証明にその光を反射し空気を煌びやかにしている金細工とふかふかな深紅のカーペット、その全てがこれから始まる劇への期待が高まる。隣を見ると多朗が口を大きく開けて固まっていた。そんな様子に気が付いたのか姉さんは少し強めに背中を叩き、正気に戻していた。自分たちの席に座ったって少しオレンジエードを飲むと甘味料の甘さとオレンジの爽やかさが口に広がった。

少し経って、全ての席に全員が入り終わると劇場は暗闇に包まれた。

僕たちが見に来た『愛と罪』は全四章で構成されている愛憎劇である。

舞台は王国の民と帝国の民が共に勉学に励む学園。しかし、二国間の関係はとても悪く、学園内でも派閥が出来ていた。そんな学園に入った主人公である王国の女の子が、入学早々にトラブルに会う、その時助けてくれた男の子に主人公は恋をする。しかし、惚れた男は帝国の皇子だった。この恋が学園をそして二つの国を破壊し、新たな世界を作るというあらすじだ。姉さんがいうにはいつもはシェイクスピアなどの古典を基にした劇をやるらしいが、今回は完全新作ということでとても話題になったらしい。

花蓮さんは主人公のウツギ役だ。新人を主役に抜擢することはとても異例で、とうとうオーナーの頭が狂ったのかという噂が流れたらしい。そんな下馬評をものともせず主人公を僕の目の前で演じていた花蓮さんはすごいと思う。僕が劇の主役になるとしたら殺人劇かな。笑えないな。

第一幕が終わり、少し疲れた僕は席を立ち通路で少し体を伸ばした。急展開がなかったとはいえ体が固まっていたらしい。

そして、自分の席に戻ろうとすると後ろから肩を叩かれた。後ろを振り返ると、そこには僕よりも少し背丈が小さい女の子がいた。少し焦げた色の茶髪のおさげに大きな髪留めをしており、丸眼鏡をかけていて少し幼い雰囲気を醸しだしている。首から少し大きめのカメラをかけていて、腕には『記者』と書かれた腕章をつけていた。

「一応、先輩なんやでぇ。死神くん?」

目の前の先輩の声を聴き、僕は得体の知れない恐怖を感じた。なぜ僕の渾名を知っているのか?噂のことについて知っているのか?そんな疑問が頭の中でぐるぐると回って立ちすくんでいると、先輩は大きく笑窪を作り、近寄ってきた。

「もちろん噂も知ってるんだけど、あれって事実なあん?話きかせてや。」

と言ってきた。先輩の後ろにどす黒い渦が見えた。僕はこの先輩を妖怪のように見え始め、にじり寄ってくる先輩を突き飛ばし、急いで席に戻った。後ろで何かを拾い上げ、笑っている妖怪に気づかず。


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