カチューシャ

水里 葦

プロローグ

『毎日が憂鬱』それが僕の学園生活だった。

僕自身の体質のせいで友達はとても少ないことも理由の一つだった。

そんなことが幼稚園の頃から続いているので期待はしていなかった。

けれど、実際に灰色の学園生活はとても疲れる。

しかし、僕は最初から諦めていたわけではない。

そんな僕の学園生活が灰色ではないと信じ、色がつきそうだった時の話だ。



「おーい!真!一緒に帰ろうぜ!」

そう言いながら、少しぶかぶかな制服に身をつつんだ大男が近づいてくる。

名前は林 多朗。得意なことはスポーツ全般、苦手なことは勉学という一般的な熱血バカだ。僕のほうは、ほとんどのことが出来る天才だったがなぜか小学校の頃から続く腐れ縁だ。僕はそれが全人類よりも大切なものの一つだ。

「深財くん私も一緒に帰ってもいい?」

そう言いながら多朗の影から芦渡あしわたり花蓮さんが現れた。花蓮さんは高校から知り合った仲で僕の噂を聞いてないからなのか、とても仲良くしてくれてる。

一緒に帰ろうと誘ってくれている二人に対し、

「いいけど、尼子先輩も一緒だけど大丈夫?」

と答えた。すると多朗は分りやすく狼狽し、花蓮さんはキョトンとした。

「尼子さんというとミステリー研の水里さんのこと?」

そう花蓮さんが言うと、多朗が勢いよく口を開き、

「そうさ!その水里先生、地獄から来た悪魔、天使の顔をした鬼、s」

「誰が悪魔や鬼だって?」

少々怒気?を含んでいるだろう声が多朗の言葉を遮った。

最後まで言えなかった多朗の口は半開きになり、ギギギと後ろを振り返った。

そこには、長身のJKが立っていた。ショートヘアーの髪を揺らしながらいつものように真顔のままで口を開くと、

「林くん?」

少し笑いながら、コテンと首をかしげた。

その瞬間、多朗はすさまじい速度で土下座をした。

「申し訳ありません!なんでもします。」

その綺麗な土下座は、大抵の人なら渋々許してしまいそうになるほどだった。

ただ、相手が悪かった。

「今、何でもすると言ったね?じゃあその言葉に免じて許してあげよう。君を私が卒業するまでパシリとして有効活用してあげよう。」

多朗は自分の失言に気がついたのか顔を青白くさせ、少し震えながら

「いえ、何でもといいましたがさすがにそれは....。」

少々噛み噛みで声を出した。

しかし、姉さんは

「あなたは人に謝っている時に嘘を吐くのかい?自分でコンクリに埋まりに行く?」

と多朗の上げ足をとって真顔で脅している。さすがに見てられなかったのか花蓮さんが、多朗と姉さんの間に割り込み、

「水里先輩!さすがに言い過ぎです!多朗くんが100%悪くてもそれはイジメです!」

と声高らかにいった。僕はそんな花蓮さんを少し可哀そうに思った。

「バカなの?冗談に決まっているでしょ?そんなことをしたら私、退学になるでしょ。多郎!いつまで土下座してるの他の人に迷惑でしょ。あとパシリにするのは色々な理由があるの。」

怒涛の言葉に花蓮さんはフツフツと顔を赤らめて、姉さんの顔をみて深い溜息を吐いた。何をいっても無駄だと分かったようだ。

そんなことを考えて立っていると、姉さんと目が合った。

「真、帰るよ。」

そう一言告げると、踵を返しスタスタと歩きだした。

その後ろを僕たちは急いでついていった。

ーーーーーーーー

学校を出て、少し歩いていると、花蓮さんが姉さんの近くに寄り、

「水里先輩、なんで林くんをパシリにしようとしたんですか?」

と聞いた。僕自身も不思議に思っていたことだ。昔から多朗をパシリにしようとしていたけどあくまで冗談だったけど、さっきは本気に聞こえたからだ。

「まず、この学園都市は生徒数が実権を大人と同じぐらい持っていることはしっているな?」

「はい。確か生徒間のことは大事じゃなければ大人が介入しないんですよね?」

「そうそう。例えば、全校生徒会直轄の風紀委会が警察の代わりにしているようにな。だけどな、そうなってくると生徒のグループがとても大切になる。権力が強いグループに入ればイジメなんかから守ってくれる。反対にどこにも入らないと、悪い奴らにイジメられることになる。だからこそ知り合いである私の庇護下に入らせようとしたのさ。一応、全校生徒会役員だからな。」

そう言って、姉さんは肩をすくめた。

「まあ、まだ四月だし。そういうのは歓迎会後だしな。もし、なにかあればこのカードを見せろ。大体の悪はこれをみればどっか行く。」

そう言うと、姉さんはカードをくれた。

カードは銀色で紫色の太い線が斜めに走っている。そして、『全校生徒会二級役員水里尼子 補助事務員』と書かれていた。

「姉さん、この補助事務員て何?」

「ああ、補助事務員ってのはその役員の雑用係であり、お気に入りということ。私は二級だから衆議院議員秘書ぐらいの地位だと思えばいいよ。」

と言った。

横を見ると多朗がそわそわしており、意を決したのか、勢いよく姉さんに詰め寄り、

「どうしたら役員になれるんだ?」

と尋ねた。

「まず、私の場合は、私に向かってきた悪い奴をちぎっては投げていたらなってた。

まあ、普通は中学生の頃から部活で活躍し総部会の幹部になるか、一級役員のお気に入りになって推薦してもらうかだね。」

と姉さんは多朗を残念な目で見ながらいった。

「それは、絶対無理ということですか。」

多朗は夢を絶たれ少し肩をがっくりさせた。

そんな多朗を無視して姉さんは

「普通は部活に入れれば、3年間安泰だよ。どこか入る所は決まってる?」

と励ますように話題を変えた。

「「いや、決まってない」」

と男二人は答えた。

「じゃあ。あなた達は私の事務員どれいになりなさい。一応、給料出すよ。

それで、芦渡さんはどこか入っているのかしら?」

一瞬で僕たちの運命を決めたご主人さまは、花蓮さんに尋ねた。花蓮さんは少しモジモジさせながら、

「私、中央演劇団の役者にスカウトされているの。」

と答えた。すると、姉さんは少し面食らったようで

「あのナルシストがスカウトした‼?」

いや、とても驚いていた。姉さんの言うナルシストさんはとても自分と劇団、そしてオーナーである劇場に誇りを持っており必ず厳しいオーディションをするらしく(従業員も例外ではない)スカウトなんてしないという。そんな人にスカウトされた花蓮さんはすごいと感心してしまった。

「それで、歓迎会の前夜祭に私の初デビューがあるの。見に来てくれてもいいよ?」

と少し揺れながら提案してくれた。

すると姉さんが、

「歓迎会前夜というと『愛と罠』という新作だったか?今までと趣向が違うから脚本家があいつの顔に泥を塗るドジをしたのかって噂になってたな。まあガセだったらしいけど。」

と劇について軽く説明してくれた。

「でも、そんなに有名だと席を取るのは難しくないか?」

と多朗が心配した。すると、姉さんはおおむろに鞄をガサゴソとしたかとおもうと3枚のチケットを取り出した。

「まあ、お前たちと見ようと思ってすでに席は取ってある。役員は2階席が普通なんだが私は1階席が好きだから1階席だな。」

と僕たちに見せびらかした。花蓮さんはとても驚き

「1階席の予約はまだのはずなのにどうして⁉」

と言った。

姉さんはその驚いた顔を満足げに眺めて、答え合わせを始めた。

「役員席は1カ月前に優先して取れるんだよ。」

「すげー。役員様様だぜ。」

と多朗は感嘆した。その後、劇について談笑しながら帰路についた。

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