6章: サラリーマン、アルケミーに挑む

「国王陛下、如何いたしましたか?」

「そんなに畏まらなくてもいい!ところで君を呼んだのは他でもない、その難民の件だが……君の助手にしたいと考えておる。いいかね?」

こほん、と一つ咳払いをして続けた。

「こやつは複数の魔法を使える。特に氷魔法は強力だ。ぜひお願いしたい!」

とね。

「そうか。それはありがたいな……」

「あの黒ずくめの組織とやらも、我直々にギルドへクエストを発注した。タカハシちゃんには迷惑をかけて申し訳ないが、もう少しだけ耐えてほしい」

とね……俺は国王に頭を下げたよ。そして言ったんだ。

「いえ!こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ございません!」

すると国王は微笑んで言ったんだ。

「気にするでない!ではまた会おう!」

と言って部屋を出て行ったんだ……


でも俺にはわかっていたんだ……このままだと、俺はこの異世界で居場所を失ってしまうことを……

「あ、タカハシ様、お時間よろしいでしょうか?」

部屋に戻ると、カレンがネコ耳を立てながら俺に話しかけてきたんだ。

「わぁ……すごい資料の山ですね……」

と彼は言ったんだ。確かに今俺の机の上には山積みの書類が置かれてるよ……でも正直、こんな量を片付ける時間的精神的余裕がないんだよなあ……でもそんなことは言えないしなぁ……

「あ!ごめんなさい!私ったらつい見とれてしまって……」

「いや全然大丈夫ですよ!」

「ありがとうございます!それで、私はタカハシ様の助手を務めさせていただくことになったそうです……これからよろしくお願いします」

「うん。よろしく」

「あの、質問なのですが……どうしてタカハシ様は私を受け入れてくださったのでしょうか?その……他種族ですし……」

と言われたので俺は答えたんだ。

「ああ、それは……困ってそうだったし、それに俺がタバコ関係の人間だってことも知ってるから、話が合うかなと思って」

と言うと彼は少し驚いたような顔をした後微笑んだんだ。

「そうだったんですね!ありがとうございます!これから精一杯頑張ります!」

と言って頭を下げたんだ。俺はそんな彼を見て思ったよ。なんかかわいい子だなとね……でも俺にはルナがいるし……いや別に浮気するつもりはないけどさぁ……

「あの……もしよかったらなのですが、タカハシ様のお仕事を見学させてもらってもいいですか?」

と言われたので俺は答えたよ。

「うん、もちろんいいよ」

すると彼は嬉しそうに言ったんだ。

「ありがとうございます!」

そして俺たちは部屋を出たよ。でもその前に……

俺はカレンに言っておいたんだ。

「あの、敬語じゃなくていいよ?」

すると彼は少し驚いたような顔をした後微笑んで言ったんだ。

「はい!わかりまし……むぐう……」とね。なんかちょっとぎこちないけどまあいいか……それから俺達は一緒に仕事場に向かったんだよ。


俺の仕事はタバコの研究開発だ。しかし今はただ穀潰しでしかない……俺はそんな自分が情けなくて仕方がなかったよ。するとカレンが言ったんだ。

「タカハシ様、とても大変なお仕事なのですね」

と言われたので俺は答えた。

「うん……」

すると彼は言ったんだ。

「私も何かお手伝いできることがあれば言ってください!」

とね。俺は思わず泣きそうになったけど我慢したよ。だって男が泣いたらかっこ悪いじゃないか!だからなんとか堪えたんだけどね……でもやっぱり辛かったな……

そんな俺の気持ちを察したのかカレンが言ってくれたんだ。

「タカハシ様?大丈夫ですか?」

とね。俺は慌てて答えたよ。

「うん、大丈夫」

でも本当は全然大丈夫じゃなかったんだ……なのに俺は一体何を考えているんだろう?そんなことをぐるぐる考えているうちに時間は過ぎていったんだ。結局何も作業が進まなかったな……

「ごめんなさいタカハシ様!」

とカレンが言ったんだ。だから俺も慌てて答えたよ。

「いや全然大丈夫だよ!」

と言ったけどやっぱり無理があるよな……でもこれ以上心配させるわけにはいかないしなあ……

そんなことを考えていた時だった。


突然ドアが開いて誰か入ってきたんだ!

「やあタカハシちゃん、久しぶりだね!」

とその人は言ったんだ……そう、それはアレンだった。そして彼は俺に向かってこう言ったんだ……

「タバコ開発、中止だって聞いたよ。タカハシちゃん、これからどうするの?」

とね。俺はその言葉を聞いて絶句してしまったよ……まさかアレンにまで話が伝わっているとは思わなかったからね……でもすぐに我に帰ったよ。そして言ったんだ。

「いや、まだ諦めてないさ」

ってね。するとアレンは言ったんだよ。

「そうか……まあ頑張ってくれとしか言えないな……」

と言われたので俺も答えたよ。

「ああ、ありがとう!」

「ところでこの方はどなたでしょうか?」

とカレンが言ったので俺は答えたよ。

「ああ、この人はアレンっていうんだ。アレン商会の」

するとアレンは微笑んで言ったんだ。

「初めまして!僕はアレンだ!よろしく!」

「アレン商会の教授様じゃないですか……」

心なしか、カレンの口調に尊敬の念が籠もっている気がする……でも、アレンはそんなこと気にもしていないようだ。

「ああ!そうだとも!」

と胸を張っているよ……そして彼は続けたんだ。

「ところでタカハシちゃん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

とね。俺は少し嫌な予感を感じながらも頷いたんだ。するとアレンは言ったんだよ。

「実は君に頼みがあって来たんだ……」とね。

俺は内心ビクビクしながら聞いたよ……一体どんな話なんだろう?すると彼は言ったんだ。それは意外な内容だった。


「食品開発、興味ないかな?」


と言われたので俺は驚いたよ。まさかそんなお願いをされるとは思わなかったからね……でもまあ、タバコ開発はもうできないし……それに異世界で生活する以上、自給自足は必須だと思うしね……だから俺は了承したんだよ。するとアレンは言ったんだ。

「でも、普通の食品開発ってわけじゃないんだ。君には、新しい食品の開発をしてもらいたい」

と言われたので俺は首を傾げたよ……一体どういうことなんだろう?でもまあ、俺にできることならなんでもやるつもりだけどさ……それに、この世界の食糧はなかなかレベルが高い。

元JTの職員だったからわかる。

「実は今、この国では深刻な食糧難なんだ。だから君の知識を使ってなんとかしてほしいんだよ」

とね……

「え、普通にパンとかサラダとかあるじゃないですか?」

「保存が効かないんだ。それに、塩を添加すると味もいまいちだし、手間がかかっているから値段が高くなる。それに、輸送コストも大きいんだよ」

と言われたので俺は納得したよ。確かにこの異世界で干し肉とか見たことないかも。

「だから、君の異世界の知識を使って新しい食品を開発してほしいんだ!頼む!」

と言われたので、俺も協力することにしたんだよ。でもその前に確認したいことがあったから聞いてみたんだ……

「あの……もし俺が開発したものが売れなかったらどうなるんですか?」

とね。すると彼は言ったんだ。

「その時は全額返金するよ。アレン商会の名に懸けて」

まあ、それなら安心かなと思ったんだけど……でもやっぱり不安は残るよね……

でも、ここで引き下がるわけにはいかないと思ったんだ。

「もし俺ができなかったら?」

「その時はその時さ。撤退するよ。ただ、その判断は商売人である僕に委ねてほしい」

と言われたので俺は了承したんだよ。確かに、未知のものを売るってかなりリスクを伴うことだとは思うよ?でも、ここで何もしなければ元JTの職員としてのプライドが許さなかったんだ。それに俺自身も何か新しいことをしたかったしね……だから覚悟を決めたんだ!すると彼は言ったよ。

「ありがとうタカハシちゃん!君ならそう言ってくれると信じていた!」

と言われたので俺も微笑んだよ。そして俺たちは握手を交わしたんだ……

「あの……お話し中すみません……私なら、なんとかなるかもしれないです」

とカレンが言ったんだ。俺は驚いて彼を見たよ。するとアレンも驚いていたようだったけど、すぐに笑顔になって言ったんだ。

「それは本当かい?ぜひお願いしたい!」

と言われたので俺はカレンに聞いてみたんだよ。

「え、でも……どうやって?」

すると彼は答えたんだ。

「はい!実は私、魔法が使えるんです。組織で覚えた氷魔法なら、食糧の保存に役立つと思います!」

「氷魔法か……それはありがたいな」

とアレンは言ったんだ。俺も同感だよ。でも。

「個人の魔法に依存しちゃうのは、食品開発として良くないよね? 俺は知らないけど、みんなが氷魔法を使えるわけじゃないし、そもそも冷凍するんだったら、解凍も必要だよね?」

とアレンが言ったので俺も頷いたよ。確かにその通りだと思ったからね……

こうして俺たちは食品開発に取り組むことになったんだけど……正直不安しかないんだよね……だって俺ただのリーマンだしさ……まあでもやるしかないか!それに俺だって異世界で生きていくために何かしたいと思ってたしさ。

「それじゃあまずは……」

と言って俺は紙の束を戸棚から取り出した。そこにはこれまで作ったタバコの製造法なんかが書いてある。

タバコ葉の乾燥方法や調合の割合、発酵条件などなど……マメにメモを取る癖がある俺は、それらを全てまとめていたんだ。

「タカハシちゃん!これは?」

とアレンが聞いてきたので俺は説明したよ。

「ああ、これは俺が作ったタバコのレシピだよ。何か手掛かりになるんじゃないかって思ってね」

と俺が説明すると、アレンは目を輝かせて言ったんだ。

「それは素晴らしいアイディアだ!早速見せてもらってもいいかな?」

と言われたので俺は快諾したよ。そしてそれらの資料を机の上に並べてみせたんだ。するとアレンが驚いていたよ。

「これはすごいな!」

と言って資料に目を通し始めたんだ……まあ喜んでくれたみたいで良かったけどね。でも少し恥ずかしかったかな……

「特許は取ってないんだよね」

「うん。その代わり国王がタバコの独占販売をしていいって約束だったからさ。でも、こんなんで食品開発の役に立たないんじゃないのかなぁ……?」

「ううん。例えばここの、発酵っていうのはいいアイデアだと思うよ」

とアレンは言った。

「あ、ところで」

俺はふとした疑問が思い浮かんだ。

「この世界でいうところの……冷蔵庫、ええと……食品を冷やして保存する方法ってあるの?」

「ああ、それならあるよ」

とアレンは言った。

「え?そうなの!?」

俺は驚いたよ。だって今までそんな話を聞いたことがなかったから……でも考えてみれば当たり前か……異世界にも文明があるんだもんなぁ。するとアレンが説明してくれたんだ。

「この王都には大きな倉庫があってね。そこに氷属性の魔法使いを常駐させてるんだ。そこから馬車で色んな店に届けてるんだ」

「なるほど……確かにそれなら効率的ですね!」

と俺は感心したんだよ。するとアレンは笑いながら言ったんだ。

「まあね。でも、ずっと専門職である氷魔法使いを常駐させることなんてできないから、シフトを組んで、年中無休で働いてもらってる。その代わりかなりのお金は支払っているはずだよ?」

「コスパ悪ぅ……」

と俺は思わず声が出たよ。でもアレンは苦笑いしながら言ったんだ。

「仕方ないんだよ……」

と言われたので、俺も納得するしかなかったよ。まあ確かに仕方ないよな……その辺はおいおい考えていけばいいし!まずはこのタバコの製法を応用して何か新しい食品を考えなきゃ!

でも。

「解凍方法についても考えないとね……」

と俺は言ったんだ。するとアレンが同意した。

「ああ、確かにそうだね」

俺は工学には詳しくないが、マイクロ波を用いて食品を温める……つまり電子レンジの存在は知っている。でもこの世界には電子レンジなんて存在しないし……

ダメ元で二人に聞いてみたが、そんな技術は知らないとのこと。

「じゃあどうすればいいんだよ……食品を冷凍する案はいいと思うのに、解凍する技術が見つからないんじゃ意味ないじゃん……」

と俺が頭を抱えていると、アレンが言ったんだ。

「まあでも、もしかしたら彼ならなんとかなるかもしれない……」

アレンは苦虫を嚙み潰したような顔をしていたよ。一体誰なんだ?俺はそう尋ねると、彼は答えてくれたんだ。

「大臣だよ……国王陛下直属の。彼は錬金術の上長でもあるんだ」

「ええ!?どうして!?」

大臣って、最初に俺がタバコを献上した時にめちゃくちゃ否定的だった人じゃん!

「実は科学者としても有名でさ……過去には様々な発明もしているんだよ」

「そうだったのか……」

俺は驚きを隠せなかったよ。まさかあの男にそんな一面があったとはね……でも、同時に希望も湧いてきた。彼に協力してもらえるなら、食品開発に大きな前進があるかもしれない!俺は早速大臣に会いに行くことにしたんだ。

「アレン様」

とカレンが言った。

「なんだい?」

とアレンが返すと彼は続けたんだ。

「あの……私もついて行っていいですか?その、お役に立ちたいんです!」

と言ったので俺は少し驚いたよ。でも彼女の目は真剣だったし……それに俺も一人で行くのは不安だったから、助かると思ったんだよね……だから俺は言ったんだ。

「ありがとうカレン。一緒に行こうか」

すると彼も嬉しそうに頷いてくれたよ。そうして俺たちは大臣に会いに行ったんだ……


城を出た後、俺はまず倉庫へと向かったんだ。そこは城から離れた僻地だったものの、王都で一番大きな倉庫で、大量の荷物が保管されている場所なんだそうだ。アレンは俺たちを案内しながら説明したんだよ。

「この倉庫を管理しているのが、さっき話した大臣だよ」

「へえ……」

と俺は言ったよ。でも正直あまり期待はしていなかったんだよね……だって今までずっと否定されてきたからさぁ……まあでも、せっかくアレンが紹介してくれたんだし、ダメ元でお願いしてみようと思ったんだよ……

「あの……」

と俺が言いかけたところでカレンが言ったんだ。

「あの、すみませんが……その大臣ってどんな人なんですか?」

と。まあ確かに気になるよね……俺もほぼ初対面だしさ……するとアレンは答えたんだ。

「ああ、彼はとても頭が切れる人物だよ。でも少し気難しい性格でねぇ……」

と言ったので俺は言ったよ。

「え、そうなんですか?なんか怖いなぁ……」

するとアレンは苦笑いしながら言ったんだ。

「大丈夫!タカハシちゃんならきっと仲良くなれると思うよ!」

と言われたけどさぁ……正直不安しかないんだよね……でも、ここで引き返すわけにもいかないし……俺たちは意を決して倉庫に入ったんだ。

するとそこには大量の物資が保管されているのが見えたんだよ。どれも食料品や日用品ばかりで、中には見たこともないようなものもある。

「すごいな……」

と俺は呟いたよ。するとカレンが言ったんだ。

「そうですね!こんなにたくさんの物を見たのは初めてです!」

と目をキラキラさせている彼を見て、俺も思わず微笑んでしまったよ。そして大臣の姿を探すことにしたんだけど……なかなか見つからないんだよね……するとアレンが言ったんだ。

「あ、いたぞ」

「え?」

と俺が言うと、彼は倉庫の奥を指さしたんだ。そこには一人の老人が座っていて、何やら書類のようなものを読んでいるようだった。

俺は恐る恐る近づいて行ったんだけど……その時、その老人が顔を上げて言ったんだよ。

「なんじゃ?アレンじゃないか」

「あ!お久しぶりです!」

とアレンは笑顔で答えたよ。すると老人は少し怪訝そうな顔をした後言ったんだ。

「……そちらの少女は誰だ?」

と言われたので俺は慌てて自己紹介をしたよ……

「ああ! あの時の! ……ということは、こいつがタカハシか?」

「はい!」

とアレンは答えていた。すると老人は言ったんだ。

「ふむ……」

そして彼はしばらく俺の顔をじっと見つめてきたんだけど……正直ちょっと怖かったよ……だって目が鋭いし、眉間にシワも寄ってるしさぁ……でもやがて彼は言ったんだ。

「まあよいだろう」

と言われたので俺は内心ホッとしていたんだ。でも同時に不安もあったけどね……するとアレンが言ったんだよ。

「あの、実は折り入ってお願いがありまして……」

「ん?なんだ?」

と老人は言ったんだ。そしてアレンは続けたんだよ……

「実は、食品開発をタカハシちゃんにお願いしたのですが、その過程で解凍方法について悩んでいるのです」

「ふむ……」

老人は顎に手を当てて考え込んでしまったよ。俺はドキドキしながらその様子を見ていたんだけど……しばらくして彼は言ったんだ。

「まあよかろう。ワシもちょうど暇していたところじゃしのう」

と言われたので俺たちは喜んだんだ。でもその時ふと疑問に思ったことがあったから聞いてみたんだよ。

「あの……どうして俺たちに協力してくれるんですか?」

とね。すると老人は少し考えた後答えたんだ。

「それは、ワシもタカハシのタバコを試飲させてもらったからじゃよ。国王陛下に直接差し出した時には慌てて止めたりして、申し訳なかった」

「いえ、俺も当然のことだと思いますよ。だって、アレンの紹介とはいえ、俺みたいなやつがいきなり国王に謁見できたことが、普通有り得ないんですから」

と俺は言ったんだ。でも彼は首を横に振った後こう言ったんだよ。

「いや、しかし今ワシはお主のことを信用しておるのじゃよ」

「えっ……!?」

驚いたよ。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったからさ……するとアレンが微笑みながら言ったんだ。

「タカハシちゃん、良かったじゃないか!」

「あ、ああ」

俺たちは顔を見合わせたよ。でもまあ、とりあえず理由がわかってスッキリしたかな?そしてアレンが続けたんだよ。

「では早速ですが……」

と言ったところで俺は慌てて口を挟んだんだ。だってこのまま話を進めたらまた徹夜コースになっちゃうからね!だから俺は言ったんだよ。

「あの!その前に一ついいですか?」

「ん?なんじゃ?」

「少しばかり、カレン……彼にも手伝わせてもらえませんか?彼女は魔法が使えるんです」

とね。すると老人は驚いたような顔をした後言ったんだよ。

「ほう……そうか、なら頼むとしよう」

と言われたので俺はホッと胸を撫で下ろしたよ。でも同時に不安もあったんだけどね……だって俺みたいな凡人と違って、カレンは魔法使いだからさぁ……まあでも、彼女ならきっと上手くやってくれるはずだよね!そして俺たちは早速行動を開始したんだ……


まずは大臣のメインの仕事場……倉庫管理室へと向かったよ。そこはとても広くて、様々な文献が並べられていたんだ。その中から俺たちは目当てのものを見つけ出すことができた。

それはアルケミーと書かれていて、高温物質を常温に戻すという、非常に精密な技術が詳細に記されていたんだよ。そしてこれを使えば食品の解凍も可能だと書いてあったんだ。

「なるほど……これならうまくいくかも!」

「ほう。錬金術か。ワシも錬金術の弟子と一緒に若い頃少し齧ったことがあるが、なかなか奥が深いものじゃよ」

「あの、もしよろしければこの研究に協力してくださいませんか?」

と俺が言うと老人は言ったんだ。

「ふむ……まあいいだろう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

とアレンは嬉しそうにしていたよ。俺もホッとしたし、カレンも喜んでいたんだ。

しかし内容は……高度な工学分野だ。俺には分からん。でも、この老人がいれば何とかなるかもしれないと思ったよ。

「あの、この研究について協力してくれませんか? もちろん謝礼は払いますし、お仕事の邪魔はさせません!どうかお願いします!」

と俺が頭を下げながら頼むと老人は少し考えた後で言ったんだ。

「ふむ……まあよかろう。どうせ暇じゃしな」

「やったー!!」

俺は思わず叫んでいたよ。だってやっと研究が進むと思ったからね……

食品開発。なかなか奥が深い。

あ、そうだ。

俺は以前城の図書館で調べた文献が頭に引っかかっていた。

「すみません。これは食品開発とは関係ないんですけど『賢者の石』について書かれた文献ってありますか?」

と俺は聞いてみたんだ。すると老人は怪訝そうな顔をした後言ったんだよ。

「なんじゃそれは?」

「あ、いや、その……ちょっと気になってしまって」

と俺が言うと老人は少し考えてから答えたんだ。

「ふむ……確か城の倉庫のどこかにそんな本があったような気が……」

「え!?本当ですか!?」

と俺は思わず身を乗り出したよ。だってずっと探していたものが見つかるかもしれないと思ったからね!そして老人は言ったんだ。

「……まあ、ワシにとっても、あれは伝説の代物じゃ。もし本当に存在するならば、是非見てみたいものじゃな……」

百五十センチの、鬱々した女性の研究者、もとい『先生』に抱かれたことは、まあ言わないでおこう。

「ところで城には、大臣様以外にも錬金術の先生がいましたよね?」

と俺は聞いてみたんだ。すると大臣は言った。

「まあ、ワシ以外にも数人おるよ。皆ワシの弟子じゃな」

なるほど。

「もし『賢者の石』が見つかれば、俺のこの身体……女神ってやつに、文句言ってやろうって考えてました」

と俺は呟いたんだ。すると大臣は驚いたような顔をして言ったんだ。

「お?お主女神に会ったのか?」

「はい。この世界に転生するときに、散々な目に遭いましてね」

と俺は言ってから、元の世界であったこと、ついでにルナとの出会いについても話してみたよ。すると大臣は愉快そうに聞いていたんだ。

「ほほ。それは災難じゃな……」

「笑い事じゃないですよ!」

と俺が言うと、彼女も笑いながら言ったんだ。

「まあしかし、女神もそこまで鬼ではなかろう?」

「え?」

「きっと何か意味があるのかもしれんぞ?例えばお主がこの世界に転生する時に何かミスをしてしまった……とか」

「うーん……でも俺、特に悪い事はしてないと思うんだけどなぁ……」

残業の毎日で、仕事を任せた東大の新卒の鈴木に包丁で刺されたけど。

でも、それ以上に悪い事なんてした記憶はないしなぁ……まあここは大人しく大臣に聞いてみるか。

「あの、ところでひとつ質問ですけど……」

俺が言いかける前に、カレンが言ったんだ。

「なんじゃ?」

「その『賢者の石』ってのは一体何なんでしょう?もし手に入れることが出来たら、タカハシ様の身体を元に戻すことできるんですかね……?」

それに対して彼は笑いながら答えたんだ。

「……さあな。ワシも詳しくは知らんが、あれは何かを創造する力を秘めていると言われておる。だからこそ、皆が求めるものじゃ」

「へぇー……」

と俺は思ったよ。すると今度はカレンが尋ねたんだ。

「じゃあ、その『賢者の石』があれば、タカハシ様の願いが叶うということですか?」

すると大臣は。

「まあそういうことじゃな。だがしかし、そう簡単に手に入るものではないぞ?それにもし手に入れても、使いこなせるかどうかわからんしな」

「……確かにそうですね」

とカレンは納得したように言ったんだ。そして俺も同感だったよ。まあでも、何事もやってみないとわからないよね!

まずはアルケミーを使った食品開発についてだ!


倉庫を出た後、俺たちは城へは戻らずにとりあえず近くのカフェに入ろうとしたんだ。そしてアレンは仕事があるとのことで離席した。

二人で席に座って、俺はカレンに話しかけた。

「あの……本当にありがとうね」

すると彼女は笑顔で言ったんだ。

「いえ!お役に立てて嬉しいです!」

と言ってくれたので俺も思わず笑顔になったよ。そして俺たちは注文を頼んだ後、雑談を始めたんだ。

カップにはタイのチャイのような、常温のコーヒーが注がれている。カレンは氷の浮かんだカフェラテだ。

「それで、アレンさんってどんな人なの?」

とカレンが聞いてきたので俺は答えたんだ。

「ああ……彼はね……」

アレンは、俺が異世界に来て初めてタバコを商品化させた人物なんだ。そして、この王都でできた友達でもある。彼はとても明るくて優しい人で、俺みたいな凡人のことも気にかけてくれるような、本当に良い奴なんだよ。でも同時に少し変わり者というか……まあそれはいいとしてさ……とにかく彼は俺にとって特別な存在なんだ!だから俺は彼に感謝しているし尊敬もしているんだよ。

「なるほど……いい方みたいですね!」

「うん、そうだね」

と俺が答えるとカレンは微笑んだよ。そしてさらに聞いてきたんだ。

「それで、タカハシさんはなんで王都で研究員をされているんですか?」

俺は一瞬答えに詰まったけど、正直に言うことにしたんだ。だって隠すようなことじゃないし……それに彼女は信頼できる人だと思ったからね!だから俺は言ったんだ。

「実は俺ね……異世界から来た人間なんだ……」

「……え!?」

カレンはとても驚いた顔をしていたけど無理もないよね。だっていきなりこんなこと言われたら誰だってびっくりするだろうし……でも、彼女はすぐに落ち着きを取り戻してくれたんだ。そしてこう言ってくれたんだよ。

「そうだったんですか!だからタカハシさんはタバコの製法を知っていたんですね!」

「うん……」

と俺は頷いたよ。すると彼はさらに続けたんだ。

「……でも、私は驚きませんでしたよ?」

「え?どうして?」

俺が聞き返すとカレンは言ったんだ。

「だって、タカハシさんが異世界人だとしても何も変わらないじゃないですか」

「そ、そうかなぁ?」

と俺は言ったんだけど、彼女は大きく頷いてくれたんだ。だから俺も嬉しくなって思わず笑顔になったよ。そして俺たちはしばらく談笑した後、城へと戻ったんだ。


数日後。俺は国王から呼び出されていた。

「新しい食品の開発、上手くいっているようじゃないか。大臣が嬉しそうに報告してきたぞ」

「あ、ありがとうございます!」

と俺は頭を下げた。すると国王は続けて言ったんだ。

「アルケミーを使うとは、よく考えたな。あれは非常に高度な技術だ」

「はい、俺もそう思います」

と俺は答えたんだ。すると国王は続けて言ったよ。

「だがな……アルケミーを用いて常温に戻すのにはかなり時間がかかるぞ?食品開発には間に合わんのではないか?それに、その技術は軍事利用も可能だ。もし他国に知られたら大変なことになるぞ」

と国王が言ったので俺はハッとしたよ。確かにそうだと思ったんだ。だから俺はすぐに答えたんだ。

「はい……仰る通りです……」

すると国王は言ったよ。

「ふむ……まあ良いだろう。だがなタカハシよ、あまり無理をするんじゃないぞ?お前は異世界人なのだし、この国のために尽力してくれるのは本当にありがたいが、命あってのものだからな。この世界で病気になっても、医者が治せるとは限らん。自分の体調を第一に考えなさい」

「はい!ありがとうございます!」

と俺が頭を下げると国王は言った。

「では、これからもよろしく頼むぞ?」

「はい!」

俺は元気よく返事をしたんだ。すると国王は少し微笑んでくれたよ。

それから数時間後のことだったかな?カレンが俺の部屋を訪ねてきたんだ。

彼は手に何かを持ってきていたんだけど……それは小さな封筒だったんだよ。

「タカハシさん!これをどうぞ!」

とカレンは笑顔で渡してくれたんだ。俺はそれを受け取ると、宛名を確認して開封したよ。そこにはこう書かれていたんだ。


『非可視光線を用いた食品の解凍方法』


「え?」

俺は思わず声を上げたよ。だってこれは論文だ。つまり……

「あの、これってもしかして……?」

と俺が聞くとカレンは満面の笑みで答えたんだ。

「はい!大臣が書いてくださったんです!タカハシさんが解凍方法について悩んでたのを見て、すぐに書いてくれたんですよ!」

「え!?そうなの!?」

俺は驚いたよ。まさか大臣自ら動いてくれるとはね!しかもこんなに早く……本当にありがたいことだなと思ったよ。そして俺は早速その内容に目を通したんだ。そこにはアルケミーの応用や、非可視光線を用いた食品の解凍法などが事細かに記載されていたんだ。

「すごい……まんま電子レンジじゃん……」

と俺が感嘆しているとカレンが言ったんだ。

「あの、もしよろしければその論文、私にも見せてもらえませんか?」

「え?ああもちろん!」

俺はすぐに了承したよ。そして彼女に手渡したんだ。すると彼女は目を輝かせて言ったんだ。

「うわぁ!すごいですねこれ!これなら食品の解凍も簡単にできそう!」

と彼が興奮気味に言うものだから俺も嬉しくなったよ。だって今まで誰も実現できなかったことを、この若さでやってみせたんだからね!しかもそれをたった数時間で完成させるなんて……本当に天才だと思うし尊敬してしまうよ……まあでも、本人はそんなこと全く意識していないだろうけどね!

「あの、タカハシさん。もしよければこの論文を実際に作ってみませんか?」

とカレンが言ったんだ。俺は一瞬戸惑ったけど、すぐに了承したんだ。


再現実験はとても難しかった。

まず、用意するべき錬金術の素材というものが、この城の在庫にはなかった。

財務管理の人にリストを見せてもらったが、あいにく俺が使う用のタバコの材料くらいしかなかった。

「うーん……どうしようかな……」

論文の仕組みは簡単だった。

まず、電気を安定的に供給する装置。そしてファン、モータ。そしてターンテーブルを回すための装置に、ドア。鏡。

そして、非可視光線を安定して供給できる装置。それだけだ。

少なくとも、ファンやモータ、鏡などの装置はリストに無かった、しかしよくよく探してみると、「前任者私物」の中に入っていた。

まあこれは頂いておこう。

しかしなぁ……この世界では電気なんて便利なものはないし、非可視光線……マイクロ波を出すための電源が必要になる。

もしかすると高圧のトランスも。

それをアルケミーの素材で実現できる、らしいのだが。

「ファンとかモータとか鏡は俺でも分かる。でも、マンドラゴラの根とか、水晶片とか、レッドドラゴンの爪とか、何に使うんだよ」

「タカハシさま、こちらを見てください」

カレンが論文の一節を指さした。

そこには、マンドラゴラの根が安定的なエネルギーを発すること、水晶片が非可視光線を生み出すこと、レッドドラゴンの爪が熱を放射することなどが書かれていたんだ。

その他にも色々書いてあったが、要するにアルケミーの素材を熱して高圧にすることで、非可視光線を発生させることが書かれていた。

「うーん……なるほど」

俺は頭を抱えたね。でも、この論文は俺が解かなければならないんだ。

「よし!やるぞ!」

まずは素材の採取からだ。

手っ取り早く回収するには……この方法しかなかった。


「あら、タカハシちゃん、お久しぶりね」

俺はガイルにもらった杖を取り、ギルドの門を叩いた。

受付嬢のミリアさんは相変わらずだ。

「お久しぶりです、ミリアさん」

俺が挨拶をすると彼女は微笑んでくれたよ。そして俺は事情を説明することにしたんだ。すると彼女の表情はたちまち曇ってしまったのさ。

「……なるほどねぇ」

とミリアさんはため息をついたあとに言ったんだ。

「でもまあ、タカハシちゃんの頼みだし仕方ないわねぇ……いいわよ」

「ありがとうございます!」

「このクエストなんてどう?隣町の森にある薬草の採取クエストなんだけど、これが結構厄介なのよね……特に人気もないし。それにこれは簡単な依頼だから報酬は安いわよ?」

と彼女は提案してくれたんだ。確かにこれなら手っ取り早く素材が手に入るかもしれない。

「わかりました」

「伝説の冒険者のガイルさんがいないけど……受注は二人でいいのよね?」

彼女は俺とカレンを交互に見ながら言った。

「はい、お願いします」

とカレンが返事をしたんだ。俺も一緒に頷いておく。するとミリアさんは笑顔で言ったんだ。

「じゃあ依頼手続きをするわね!あ、その子、もう冒険者登録してあるみたいね。話が早いわ。ちょっと待っててくれるかしら?」

俺はネックレスで自分のステータス画面を表示させる。

カレンも同じように、自分のステータス画面を見ていた。


名前:タカハシ・カズキ

種族:人間

レベル:5

職業:研究者

スキルポイント:15P→0P

体力:1→5/10

筋力:1→2

魔力:1→2

敏捷:1→2

運 :6→3(DOWN)

器用:6253→6347(UP)

スキル:火魔法レベル1、水魔法レベル1、風魔法レベル1、土魔法レベル2

固有スキル:言語理解

称号:異世界転移者、女神に嫌われた者


お、知らない間にレベルがひとつ上がっている。


カレンのほうは……

名前:カレン

種族:人間

レベル:80

職業:闇魔法使い

スキルポイント:0P

体力:10→11/11

筋力:15→17/17

魔力:30→32/33(UP)

敏捷:20→22/22

運 :18→19(UP)

器用:25→28(UP)

スキル:火魔法レベル10、水魔法レベル12、風魔法レベル29、土魔法レベル22、氷魔法レベル40

固有スキル:なし

称号:闇魔導士


「すげえ……」

と俺は思わず声に出してしまった。カレンはレベル80の魔法使いだ。

「え?」

と彼は首を傾げる。俺は慌てて誤魔化した。

「いや、なんでもないよ」

それからしばらくして、受付嬢のミリアさんが戻ってきたんだ。手には一枚の紙を持っている。どうやら依頼書のようだね。

「はい、これが依頼内容と地図よ」

と渡されたので受け取って確認することにしたんだ。


名前:薬草採取(森)

目的:薬草を10個集めること

場所:王都より北へ徒歩1時間ほど歩いたところにある森の泉付近

期限:1週間以内

報酬:1束につき100ダルク

注意事項:森には魔物が出ることもあるので注意すること。また、森の中は暗く見通しも悪いため懐中電灯を持っていくことを勧める。なお、地図は森の泉付近までしか載っていないので注意されたし。


と書かれていたんだ。つまり依頼内容は薬草10個の納品か……簡単だな! よし!早速向かうとするかな!俺はカレンと顔を見合わせるとギルドを後にしたのさ。


「おーい!」

聞き覚えのある声がしたので振り返るとそこにはガイルが立っていたんだ。

「よう!久しぶりだな!」

彼は相変わらず元気そうだったよ。でも、なんでここにいるんだろう?俺は不思議に思って聞いてみたんだけど……

「ああ、ちょっと用事があってな。たまたま野菜を売りに来てたらタカハシちゃん! 久しぶりだね! ルナも元気にしてるよ」

ところで、その子は? と彼が尋ねてきたので、俺はカレンを紹介したんだ。

俺のところまで来た経緯から、闇の組織を逃げ出したことまで、包み隠さずに全部話したんだよ。

「そうか……大変だったな」

と彼は同情してくれたんだ。そしてカレンの肩に手を置いて言ったんだよ。

「いつでも俺を頼ってくれ! って……言っても俺は今日忙しいから、あまり力になれるかは分からないが……それでもできる限り協力するぜ!」

彼はそう言ってニカッと笑ったんだ。その言葉に感動したよ。本当にこの人は良い人だよなぁと思いながら俺も笑みを返したんだ。そして俺たちは早速森へ向かうことにした。

しかし、ギルドを出る前にガイルが言った言葉が引っかかる。


「このクエストは簡単そうに見えるが、基本的に冒険者パーティーは四人構成だ。斥候を行う狩人、味方の盾になる剣士、仲間をサポートする魔法使い、そして道具を使って回復を行う、指令塔の僧侶。この四人が揃ってはじめて成り立つんだ。特に僧侶は、教会とも繋がっているから、教会絡みのクエストも、もちろんある。というか、ギルドで受け持つクエストは、基本的に教会から依頼されてるんだ。僧侶がリーダーである理由の一つだね」


つまり、魔法使い二人の俺らだけでは力不足と言いたいわけだな?


「まあでも、タカハシちゃんなら大丈夫だろ?それに薬草の採取クエストだ。そこまで危険じゃないさ」

と彼は言ってくれたんだ。確かにそうだな……

「タカハシ様、どうかされましたか?難しい顔をしていらっしゃいますが……」

「いや、何でもないよ」


俺は慌てて笑顔を作る。カレンは不思議そうな顔をしていたけど、それ以上追及されることはなかったんだ。多分大丈夫だろう。

「ここが森の入り口ですね」

とカレンが言ったので、俺も辺りを見回してみたんだよ。確かにここは深い森の中だったね。木々が生い茂っていて薄暗い雰囲気だ。それに少し肌寒かったかな?まあでも、これくらいなら平気だろうさ! さて、早速始めるとするかな!まずは地図を見ながら薬草を探していくことにしようかな。

「カレン、まずは地図を見ながら探してみるか」

「はい!」

ということで早速行動を開始したんだ。そして数分後のことだ。俺たち二人は泉の近くに着いたんだけど……そこでちょっとした問題が発生したんだよね。それは……

「あれ?ここってもしかして……」

そう、俺たちはいつのまにか森の奥深くまで来てしまっていたみたいなんだよ。おかしいな……地図に載っていた場所はここではないはずなのに! でもまあ、ここまで来たんだから仕方ないよね?うん、そうだこれは不可抗力なんだ!だから大丈夫さ!

「クエストの受注書にあった薬草はこれだね。全部で10個か……よし」

ちまちまと薬草……シダ植物らしき小さな草を摘んでいく。

「これで全部か……」

袋の中に入っているものを確認しながら呟いたんだ。

よし、時間もあるし、アルケミーの素材の採取といたしますか!

マンドラゴラの根、水晶片はすぐに見つかった。

しかし、問題はレッドドラゴンの爪だった。

「まさかドラゴンを倒すとか……無理だし」

「正直そうですね。私たち二人だけでは、到底敵いません。それにレッドドラゴンは夜行性なので昼間に活動することはないはずです」

とカレンが言った。確かにそうだ。

「しかし、レッドドラゴンは爪を磨くことで有名です。なので、ドラゴンの住処さえ見つかれば、こっそりと採取できるはずです」

カレンは続けて言った。

「ドラゴンの住処か……」

クエストの受注書、注意事項を思い出す。

ええと、たしか魔物が現れる可能性がある……あと、森は暗いから懐中電灯を持っていくように、と。

魔物……ドラゴンの住処があるかもしれない。俺は荷物をまとめて袋に詰め込むと、カレンに告げたんだ。

「よし!森の奥深くまで行ってみるぞ!」

「はい!」


俺たちは森をさらに奥へと進んで行ったんだ。そして数時間後のことだ。

「……これは」

目の前には大きな洞窟が広がっていたんだ。おそらくここがドラゴンの住処だと思われる。しかし……

「どうやって中に入るか……」

入り口は狭く、人が一人通れるくらいの大きさしかなかったんだ。しかも中は真っ暗で何も見えないし……どうしよう?するとカレンが言ったんだ。

「あの……タカハシ様、ここは私に任せてください」

え?どういうことだろう?何か策があるのかな?

「はい、見ててくださいね」

とカレンは言うといきなり魔法を唱え始めたんだよ。そして次の瞬間だった。なんと洞窟の入り口が動いた。ゴゴゴ、という音と共にゆっくりと開いていく。

「カレン……」

と俺が驚いてると、彼は言ったんだ。

「ふふふ、驚きましたか?土魔法はこういうこともできるんですよ?」

そして俺たちは洞窟の中に入っていったんだ。中は少しひんやりしていて薄暗いね。足元が見えないくらい暗いから気をつけないと転んでしまいそうだぞ!さらに奥に進むと大きな空洞に出たんだ。そこにはドラゴンの影があったんだよ!

「おい……マジかよ」

俺は思わず呟いたよ。でもこれはチャンスかもしれないと思ったんだ。だってレッドドラゴンは夜行性だから、今は寝ているはずだよね?

「カレン、今のうちに爪を採取しよう」

と俺が言うと彼は頷いてくれたんだ。そして俺たちはドラゴンに気づかれないようにゆっくりと近づいて行ったんだよ。すると突然!

『グオオオオン!!』

という咆哮が聞こえたんだ!どうやら目を覚ましたらしいぞ!?まずいな……どうしよう?

「タカハシ様!私が囮になりますのでその間に逃げてください!」

と彼が言ったんだけど、俺は首を横に振ったんだ。だってそんなことできるわけないじゃないか!

「カレン、一緒に逃げるぞ!」

と俺は言うと杖を構えたんだよ。そしてそれと同時に走り出したんだ!

「うおおおお!!」

すると、レッドドラゴンは俺の方を振り向いた。そして目が合うと同時に炎を吐いてきたんだけど、俺は間一髪で避けることができたんだ!危なかったぜ……しかし今度は爪で攻撃してきたので俺はそれを土魔法を使って弾き返したんだよ!

ガイルのおかげだな!

そしたら今度は尻尾を振って攻撃してきたんだけど、これもなんとか避けることに成功したんだよね。

「よし!今だカレン!」

俺は叫ぶと彼は魔法を唱えたんだよ。すると、大気から大きな氷柱が出現してレッドドラゴンに突き刺さったんだ! そしてさらに、その氷柱を巨大化させて内部から破壊することに成功したんだよ。

呻き声を上げて、ドラゴンは飛び去っていったんだ。

「やったな!」

と俺は言うとカレンにハイタッチしたんだけど、彼は少し恥ずかしそうだったね。でもこれでクエスト達成だ!やったぜ!! そして俺たちは森を後にしたんだ。帰り道は順調だったよ。そして街に戻るとすぐにギルドに向かったんだ。受付嬢のお姉さんが笑顔で迎えてくれたよ。そしてレッドドラゴンの爪を見せると、彼女はとても驚いていたようだったね!どうやらかなり珍しいものらしいね。あげんけど。


クエスト報酬の1000ダルクを受け取った俺たちは、そのお金を持って酒場に向かったんだ。

「かんぱーい!」

「か、かんぱーい……です」

俺たちはグラスをぶつけると一気に飲み干したんだ。そして、しばらく談笑した後、店を出たんだよ。

「タカハシ様、いいんですか? こんなところで油を売っていて? そろそろ本格的に研究をした方がよろしいのでは?」

とカレンが言ったんだけど、俺は首を振ったんだ。

最近はずっと研究に没頭していたからね。たまには息抜きも必要だと思うんだよ!

俺が新卒でJTに入社してすぐ過労死したワーカーホリックの上司を思い出す。

って、いかんいかん。前世のことを思い出すと鬱になる。今は今を楽しまないとね!

「カレン、次はどこに行く?」

と俺は聞いたんだけど彼は少し考え込んだ後に言ったんだ。

「そうですね……でも、そろそろ戻らないといけない時間なのでは?」

外は日が落ち、夕焼けに染まっていた。そうか、もうそんな時間なのか……

「じゃあまた今度にしようかな……」

と俺が言うとカレンは頷いてくれたんだ。俺たちは城へ戻ると、夕食を食べて風呂に入った後にベッドに入った。カレンにもお風呂に誘ったのだが、彼は個室のシャワーを使うとのことだったので、一人で入ることになったんだ。

はぁ……やっぱり湯船に浸かるのが一番気持ちいいよね! でもまあ、今日は楽しかったからいいか!明日も頑張ろうっと!


「よし!」

俺は気合を入れてベッドから起き上がった。そして身支度を済ませると部屋を出たんだ。するとカレンが待っていてくれたようで、俺の顔を見るなり微笑んでくれたんだ。

「おはようございますタカハシ様」

「おはようカレン」

挨拶を交わすと俺たちは部屋を出て、再現実験を開始したんだ。

まずは、クエストで集めた素材の加工からだな。

俺は作業台にマンドラゴラの根やレッドドラゴンの爪などの素材を並べた。そしてカレンがそれを見て言ったんだ。

「まずは素材の選別から始めましょう」

とのことだったんだけど、俺は首を傾げたんだよ。

「選別?どういう意味だい?」

すると彼は説明してくれたんだ。

マンドラゴラの根を乾燥させたものは薬の材料として使うことができ、レッドドラゴンの爪は武器や防具を作る際に使われることが一般的だそうだ。

でも、種類によっては毒を持つものもあるため注意が必要とのことで、特にレッドドラゴンの血清などは高濃度の魔力が含まれているため、取り扱いには注意が必要だと言われたんだよ。

なるほど……勉強になりますな!

でも今回レッドドラゴンの血清は持ってないから……たぶん彼は熱中すると話したがるタイプなんだろう。

JTの研究者がよくそういう人間ばかりだったことを思い出す。

「では、まずはマンドラゴラの根を乾燥させましょうか」

とカレンが言ったので、俺は頷いたんだ。そして作業台の上に置いたままになっているレッドドラゴンの爪から手を付けた。

「……できた!」

「やりましたね! タカハシ様!」

俺はカレンとハイタッチをした。

全工程が終わり、ちょっとしょぼいが箱のようなものができたんだ。

「では、凍ったものを解凍できるか試してみますね……」

カレンは魔法を使い、その辺にあったペンに目を向けた。

『氷の精霊よ……我に力を与えたまえ。フリージング!』

すると、そのペンは一瞬で凍ってしまったんだ。

「すごいじゃないか!カレン!」

と俺が褒め称えると彼は照れたように頭を掻いていたよ。さすが、闇組織から抜け出してきた実力がある。

「では、次はこの箱にこの凍ったペンを入れてみましょうか」

おれはそのひんやりとしたペンを入れた。

そして箱のダイヤルを回す。

ブウウン

という音とともに箱が振動を始めたんだ。

「お!これは……」

と俺が言うと、カレンも興味深そうに見ていたよ。

そして数分後……ついに解凍が終わったようだ。俺は恐る恐る蓋を開けたんだ。

ペンは水分をまといながら、しかしかなりの高温になっていた。

「できた……のかな?これは」

カレンに聞くと彼は小さくうなずいた。どうやら成功したようだね!

「じゃあこれを商品として売りに出さないとな!」

「あの、待ってください」

カレンが止めた。

「マンドラゴラの根、レッドドラゴンの爪。これらを販路に乗せるつもりなんですか?私は反対です」

と彼が言った。

「え?どうして?」

俺が聞き返すと彼は説明してくれたんだ。

まあ、要するに素材のコストがかかりすぎて、一般向けに電子レンジを行き渡らせるのは困難だろう、とのことだった。

「たしかに……」

俺は納得してしまった。確かにこの商品を売ったとしても、利益が出るかどうか分からない。

アレン商会でも無理だろう。

「じゃあこれはどうする?」

と聞くとカレンは言ったんだ。

「それは……私が買います」

「え?どうして?」

俺が聞き返すと彼は言ったんだ。どうやら彼は電子レンジが欲しかったようだね。でも、なぜ彼がそんなものを欲しているのだろうか?まあ別に構わないけどね。


そして俺はまた、自室で唸っていた。

「たしかに冷凍して保存を伸ばすのは合理的だけど、それを維持して流通に乗せるにはかなりのコストがかかる……それに電子レンジが一般家庭に普及するにはまだ難しいかな……」

もしかして、今まで俺がやってきたことは無駄だったのか。

大臣にお願いしてまで論文を書いてもらったのに。

「はぁ」

とため息をつきながら悩んでいると、突然部屋がノックされたんだ。俺は返事をしてドアを開けるとそこにはカレンが立っていた。彼は俺が頭を悩ませている様子を見て心配になったらしい。だから話を聞いてくれるようだ。

「どうしたんですか?タカハシ様」

「いやさ……常温でも保存がきくような食品開発……そんな夢のようなものがないのかなぁって」

彼は紙袋を抱えていた。

「あれ、これどうしたの?」

「護衛の方と一緒に城下町を歩いてたんです。シェフが体調を崩してしまったため、しばらくは自分で料理を作るしかないんです」

「マジかよ……」

泣きっ面に蜂とはこのことだ。

「あの……以前タカハシ様のステータス画面を拝見したときに、称号があったのが気になりまして」

ああ。

称号:異世界転移者、女神に嫌われた者

ってやつか。

「タカハシ様の運のステータスの低さも気になりました。あの、もしかしたら、大丈夫かなぁ……って」

たしかに今まで自分のことなんて考えてなかった。

この電子レンジ開発の失敗はあの女神もどきの詐欺師のせいだというのか?

「それで、少しでもタカハシ様の力になれるよう考えてみたのですが……ごめんなさい。答えが出ない質問で」

「いや、いいんだ。ありがとうカレン。でも、もう少しだけ考えさせてくれ」

俺はそう言うと、再び机に向かったんだ。

「はい……」

と彼は小さく言うと部屋の隅っこに移動する。


数時間がたったころだろうか?

くう、とカレンのおなかの音が鳴った。彼は恥ずかしそうに顔を赤らめて、フードを深くかぶりなおした。

進捗が一切出ない俺は、彼に暇つぶし程度に話しかける。

「ごめん。お腹すいたよね」

「はい……申し訳ありません」

とは言うが、明らかに無理している様子だった。

「いや、俺の前で遠慮とかいらないから。じゃあさ、この部屋で食べようか」

そう言って俺らはベッドに隣同士に座った。

「って言っても、俺は食事とか全部料理長に任せきりだから、缶詰すら常備してないんだけどね」

「あの、でしたらこれを差し上げます!」

彼は持っていた紙袋を俺に渡したんだ。

中には、フランスパンのような長いパン、肉と魚の缶詰、カサカサで硬いパンが数種類と、そして見たことのない麺類があった。

「ねえ、これは……?」

「クチン合衆国のお菓子だそうです。なんでも、麺を揚げたものを食べながらお酒を飲むのだとか……。あと、この缶詰はクチン合衆国で人気の品です」

と彼は言ったんだ。

「へえ……」

俺は興味深そうにそれを見る。そしてカレンが持ってきたパンを一口食べた。

「うん、おいしい!ありがとうね!」

「いえ……お役に立てたようで何よりです」

と彼は嬉しそうに微笑んだ。

「あとこの缶詰も美味しいですよ」

缶抜きでそれを開けると、いい匂いがした。

これは……

「牛肉と野菜の煮込みです。奮発しちゃいました」

「それを俺に?いいの?」

「はい!頑張っているタカハシ様のためです!」

じゃあ遠慮なく。うん……美味しい! でも、この缶詰、ちょっと味が濃すぎる気がするな。

「あの……タカハシ様?」

カレンが心配そうに俺を見る。

「ああ、ごめん」

俺は謝ると食事を続けたんだ。

缶詰か……俺は缶詰の中身を見た。

「ん?」

これは……まさか? いや、でもそんなことがあるか?

「あの……もしかしてこれ、アルケミーで温められる?」

すると彼は驚いたような顔をした後、嬉しそうに言った。

「はい!もちろんです!」

と。

俺はカレンに例の機械を持ってきてもらったあと、皿に缶詰の中身をスプーンで移し、加熱した。

いや、正直コンセントがないこの世界じゃ不安だったけど、逆に魔法で解決できるならいいのかも。

すると予想が当たったようで、缶詰の中身は温まった。

「やった!できた!」

俺は思わず叫んだんだ。そしてカレンに言う。

「なるほど……だからこの再現実験の装置を欲しがってたんだね?」

すると彼は照れたように頭を掻いていた。

「はい……えへへ」

と彼は言ったんだ。

「じゃあ早速食べてみようか!」

「そうですね!」

そして俺たちは缶詰を一口食べる。うん!やっぱり温めたほうが美味いな!それに牛肉の煮汁が染みてて最高にうまい。

「うん、おいしいね!」

「はい!」

そして俺たちはあっという間に平らげてしまったんだ。

「ごちそうさま」

と俺は手を合わせる。するとカレンが言ったんだ。

「……タカハシ様、これからどうするのがいいでしょう?」

と。俺はうーんと考えることにしたんだ。でも、どうすればいいんだろう?

「わからない」

と答えるしかなかったんだよね。するとカレンは少し困ったような顔をした後言ったんだ。

「でしたら……お酒はないですけど、この乾麵を頂きましょう」

彼はそれを半分に割り、片方を俺に差し出した。

「ありがとう」

俺はそれを口に運ぶ。うん、なんか不思議な触感がする。サクサクしていて、でも油がくどいな。

たしかにビールと一緒に食べるのがいいのかもしれない。

「あれ?」

そういえば俺、これ食ったことあるぞ?

たしかインドネシアに出張したときに……ミーゴレンと一緒にお菓子として振る舞われたんだ。

でもまあ、腹は膨れた。

「ありがとね。カレン」

「いえ、お役に立てることができず申し訳ありません」

と彼は頭を下げる。

「いやいや、十分だよ。ありがとうね」

俺は彼に感謝の言葉を伝えると、再び机に向かったんだ。そして新しい食品開発について考えたんだ。

冷凍はダメ。缶詰はコストがかかりすぎる。じゃあ、他に何か良い方法はないだろうか?俺は頭をフル回転させたんだ。

「あ!」

と思わず声が出てしまったよ。そしてベッドの上にいたカレンが不思議そうにこちらを見る。

「どうされました?」

俺は言ったんだ。

「いや……ちょっと思いついたことがあって」

「それは……?」

「電子レンジを使わないで食品を保存する方法だよ!」

乾麺。

さっき食べて思いついた。や、これは単なる思い付きなんだけど。

「フリーズドライなら、いけるかもしれない」

彼は頭にハテナマークを浮かべた。

「さすがにこの世界にも、お湯はあるよね?お風呂もあるし」

「はい。生活魔法によって常にお湯が出るようになっていますから」

「よし!」

俺はガッツポーズをした。そしてカレンに言う。

「カレン、この乾麺をお湯に浸して戻してくれ!」

彼は再び首を傾げると俺に聞いたんだ。

「それは構いませんが……何をなさるおつもりですか?」

俺は答える。

「いやさ、俺が作ろうと思ったのは保存食品なんだ。フリーズドライだよ」

するとカレンは驚いたような顔をした。そして俺を見る。

「フリーズドライ?それは一体……」

俺は説明する。

「フリーズドライってのは、水分を真空状態?で凍らせるんだ。そしてそれをお湯に浸して戻すことで、元の食品の食感や風味を再現することができる」

カレンはなるほどと納得していたようだったが……

俺はそう言うと早速準備に取り掛かったんだ。まずは大きな鍋を倉庫から持ってきて、水を入れ火にかける。そこに乾麺を放り込む。

よし!これで準備完了だ!あとはこのまましばらく煮込むだけだね!


それは三分ほどで出来上がった。

「いただきます」

と俺は乾麺をフォークで掴むと口に運ぶ。うん、やはり味はしない。まあ当然か。

カレンも食べたそうにしているが、やめたほうがいい、と口出しした。すると彼は言ったんだ。

「この乾麺に味をつけるのですね?」

とね。俺は頷くと言ったんだ。

「そうだ」

カレンはそれに興味津々のようだったよ。

しかし、まさかこの世界でフリーズドライを作ることになるとは思わなかったな……まあでも、俺がゼロイチで考えたわけじゃないんだけどね

でも、今の俺ができるのはこれくらいだ。カレンはフリーズドライの製法を知りたがっているようだったけど、それはまた今度教えることにしたんだ。彼は少し残念そうな表情をしていたよ。

俺はさらに考えることにしたんだ。

その時だった。


どくん、と胸の痛みに襲われた。

「うっ!」

と俺は思わず胸を押さえてしまった。

「大丈夫ですか!?」

カレンが慌てて駆け寄ってくる。そして彼は俺の背中をさすってくれたんだけど……それが逆効果だったようで、ますます痛みが酷くなってしまったんだ。

「うああ!!」

俺は悲鳴を上げた。そして意識を失ったんだ。最後に聞こえたのはカレンの声だけだったよ。

「タカハシ様!しっかりしてください!」


次に目を覚ました時、俺はベッドの上にいた。

「ルナ……?カレン……?」

と俺は言う。すると、俺の視界に二人の顔が映ったんだ。

「タカハシ様!」

とルナは安心したように胸を撫で下ろすと、俺に抱きついてきたんだ。そしてカレンも涙ぐんでいるようだったよ。

「よかった……」

と彼は言った。俺はそんな二人に謝罪する。

「ごめん……心配かけたね」

しかし、まだ頭がボーッとしているようで上手く言葉が出てこないんだ。

「過労だそうです。国王陛下直々に、お休みを頂きました」

とカレンが言った。

「そっか……」

俺は小さく呟いた。そして再び目を閉じる。

たしかに、最近は研究ばかりで自分のことを考えてなかった。

「全く……無茶しやがって」

「しばらくはここで休んでね」

「ガイル……ミレ……」

ありがとう。みんな心配してくれてるんだな……


俺は申し訳ないと思いつつも、再び眠りに落ちていったんだ。

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