第8話 決断
それから一ヶ月が経った。
俺はその間、ずっと魔力強化と身体強化の訓練を続けていた。
ここに来た頃と比べて目に見えるほど成長できたと思う。
現に――
俺は身体強化を使って高速で赤猿の股の下に滑り込む。
そのままの勢いで背中まで回ると、中級の氷魔法〈フローズン・スピア〉を放つ。
「魔力よ、呼応せよ、フローズン・スピア――!」
呪文を唱えると同時に目の前に氷で出来た槍が複数出現する。
その槍は赤猿の心臓めがけて飛んでいき、背中から貫くように突き刺さった。
「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアア!!」
赤猿は絶叫を上げ、地べたに倒れ伏す。
そしてそのまま動かなくなった。
「ふむ。相当成長したな、ジン。ものの一ヶ月で赤猿まで倒せるようになるとは」
「……まだまだだ。この森には赤猿以上の魔物がもっとたくさんいるからな」
そう。
あれから森の中で生活していく中でこの赤猿が最弱級に弱い魔物であることを認識させられていた。
流石は人類がまだ開拓できていない未踏の森だ。
生半可な過酷さではないことをひしひしと実感していた。
「向上心があることは結構。ではこれから上級以上の魔法を教えていこうと思う」
「……ついに来たか」
サーシャの説明によると、魔法には五つの等級が存在するらしい。
初級、中級、上級、超級、神話級の五段階だ。
大抵の人間は初級や中級が使えるのがやっとで、上級以上となると選ばれた人間にしか使えないとか。
超級や神話級になってくると、ほとんどの人間は使えず、ハイエルフや竜人、魔王、吸血鬼など、長命の一族にしか使えないものだという。
が、サーシャはそれらも俺に一年で教え込むのだと言う。
本当にそんなことが可能なのかは甚だ疑問だが、サーシャ曰く俺になら出来るらしい。
しかしこれまたそれ相応の代償を支払う必要があるらしく、神話級に至っては今までの比じゃないと言った。
ま、どれだけ代償を支払おうとも俺は成し遂げるつもりである。
強くなるためになら、どんな代償だって――。
あの冷たい高架下、冷たいスラムの隅、そんな場所で孤独に死んでいくのは嫌だ。
何としてでも力を手に入れる必要があった。
ちなみに神話級を習得したら、その後は〈無詠唱〉を教えると言った。
無詠唱は神話級すらをも超える超高難易度の技術らしく、こればっかりは一年では習得できないかもしれないと言っていた。
ただ単に詠唱を省くだけなのではと俺は思うのだが、どうもそういうわけじゃないらしい。
この無詠唱を習得することによって、魔法に対する理解がまた別のステージに移るみたいだった。
「さて。一つ質問だ。魔法を使い慣れていない一般人がいきなり上級の魔法を使おうとしたらどうなると思う?」
小屋の裏庭に戻ってきてサーシャは腕を組み俺にそう問うてきた。
俺は一瞬考えて、すぐに答える。
「魔力が足りなくなる?」
「じゃあ魔力だけが十分にあるとしたら?」
「……それだったら発動するんじゃないか?」
俺の言葉にサーシャは首を横に振った。
「それで発動したらこの世にはもっと上級を使える奴らが増えているはずだ」
「じゃあどうなるって言うんだよ」
「脳みそが丸焦げになる。もしくは爆発する」
「…………は?」
俺は間抜けな声を出してしまった。
何だそれ。
上級ってそんな危険なものなのかよ……。
「魔法っていうのは〈詠唱〉を利用して自動的に脳みそに演算させて、魔力を魔法という〈現象〉に変換する技術のことを言う」
「……なるほど」
「そう。だから〈詠唱〉を使って強引に上級魔法を使用しようとした結果、脳みその演算能力が足りずオーバーヒートを起こし、それでも〈詠唱〉のせいで演算が行われ続けて、放熱が間に合わずに丸焦げになるというわけだ」
サーシャの言葉を聞きながら俺は少し疑問に思う。
「そんな簡単に脳みその演算能力を向上させられるのか?」
「出来ないな。こればっかりは慣れと遺伝で全て決まる。最初からその負荷に耐えられる能力があれば問題ないが、そうでない場合は何千年ってかけて詠唱というものに慣れていくしかない」
じゃあ無理じゃないか。
俺はそう口にしようとして、サーシャはそれを遮るように言った。
「おそらくジン、お前には上級を使えるほどの才能がある」
「……そうなのか?」
「ああ。しかもそれに止まらない、もっと圧倒的で未知数の才能が」
……圧倒的で未知数の才能。
それを聞いてワクワクしない男はいないだろう。
だが――
「もし万が一失敗したら?」
「お前は死ぬ。間違いなくな」
……なるほど。
これよりももっと強くなりたければ死ぬリスクを背負えというわけか。
まだこんなところで死にたくない。
だがここで逃げ出してしまえば俺は何も変わっていないということにもなる。
「……少し考えさせてくれ」
「もちろんだとも。一日、じっくりと考えるんだな」
俺の言葉にサーシャはそう言った。
俺は自分の部屋に戻ってベッドに身を投げ深く思考に潜り込む。
死ぬリスクを取るか、このまま停滞を取るか――。
結局答えが出ないまま俺は考え続けて、日も落ちて暗くなり始めた頃、俺の部屋にユキハがやってくるのだった。
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