第7話 剣術

「どうだ、義手の調子は」


 本格的に特訓が始まって一週間が経った頃。

 俺はサーシャから左手用の義手を授かっていた。

 彼女の問いに俺は義手の指をグーパーと開閉する。


「……まだ慣れないが悪くはないな」

「そうか。なら早速剣術の特訓も始めるとしよう」


 やはり彼女の辞書には手加減という言葉がないらしい。

 義手をつけたばかりだというのに訓練を始めると言う。

 俺はそんなストイックなサーシャの性格がこの頃好ましく思うようになっていた。


 彼女の言う通りにしておけば間違いなく成長できる。

 そのことを理解したからだった。


 俺は特訓を始めてからと言うもの、かなり成長中毒になっていた。

 やればやるだけ成長できる。

 そのことがとても楽しかった。

 確かに魔石を喰らい魔力を制御し続けるのは苦しいししんどい。

 が、それよりも楽しさの方が勝った。


 だから——


「ああ。ビシバシと鍛えてくれ」

「……ハッ。当たり前だろう? ジンには私の持てる全てを教え込まなければならないのだからな」


 俺の言葉にサーシャはそう不遜に笑うのだった。



   ***



「剣術において何より大事なのは剣を持ち、剣を振るうことに慣れることだ。人間は何事においても単純化し、理解しやすいようにする。肉体のピーク期間が短いからな。だから誰でも簡単に強くなれる〈型〉というものを生み出した。しかし型を十年練習した人間より、型を習わずひたすら数百年剣を振り続けた長命種の方が圧倒的に強い。それは必然だ」


 確かにサーシャの言うことは理に適っている。


「しかし……ジンに剣術を教えられる期間も限られている。百年も教え続けることは不可能だ」

「それはそうだな」

「だから剣を長い間振り続けた私が辿り着いた究極の〈型〉というものを教える」

「ほう……そんなものが……」

「だが。これも短時間で高度な技術を身に付ける方法だ。それなりの代償が伴う。覚悟は出来ているか?」


 そう問われ、俺はニッと笑みを浮かべて言葉を返した。


「もちろんだ。覚悟はとうに出来ている」

「それは何よりだ。ではまずは身体強化魔法について教えよう。ま、今のジンであれば簡単に習得できるだろうがな」


 それから俺はサーシャに身体強化魔法の使い方を教わった。

 今までちゃんとした魔法すら使ったことなかったが、すんなり身体強化魔法を使うことが出来た。


「魔力よ、呼応せよ。身体強化——ッ!」


 呪文を唱えた瞬間、俺の身体能力は一瞬で向上する。

 魔法を使った俺を見たサーシャは「ふむ」と頷きながら言った。


「魔力操作の精度に関しては十分だな。持続させられそうか?」

「おそらく問題ない」

「それは結構。では早速〈型〉を教えようと思うのだが……注意点が一つある」

「注意点?」

「ああ。——身体強化は諸刃の剣だ。調整をミスったり、身体の動かし方をミスるだけで簡単に身体がバラバラになる」


 それを聞いて俺はゾッとする。

 そして緩みかけていた気持ちを引き締め直す。


「だから……精々必死になって魔力と身体を制御するんだな」


 その突き放すような言葉に俺はゴクリと唾を飲み込む。

 サーシャはおそらく俺がその程度だったと分かれば簡単に切り捨てるだろう。

 この一週間で彼女の性格は何となく掴めてきていた。

 まだ伸びしろがある俺に対する期待が高い反面、その期待が裏切られた時は簡単に見捨てるドライさも持ち合わせている。

 そんな気がした。


 だが……俺はサーシャのために強くなりたいわけじゃない。

 俺は俺のためにサーシャを利用する。

 そのスタンスはいまだ変わっていなかった。


「では、これから〈型〉を教える。私の動きを完璧に真似するように」



   ***



「はあ……はあ……」


 俺は一通りの〈型〉を終え、肩で息をしていた。

 身体の節々がちぎれそうなほど悲鳴を上げている。

 特に義手の接合部分が酷い痛みを発していた。


「くくくっ……身体能力さえも特出しているとは……やはりジンには圧倒的な才能がある……」


 そんな俺を見ながらサーシャが暗い笑みを浮かべて呟いているが、俺は息をするのでも精一杯で何を言っているのか聞き取れなかった。

 別に生易しいものだとは一切思っていなかったが、剣術の特訓も魔力強化と同じくらい集中力を使い心身ともに疲弊させた。


 でも、それでも……

 俺は荒い息を無理やり整えるとサーシャの方を向いてこう言うのだった。


「もう一回だ。もう一回やらせてくれ」

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