第3話 つづく


静かな朝。

理人は、自室のソファに座り、紅茶を飲んでいた。

壁には、これまでの殺人現場の写真。

カラフルな死体たち。その中に、自分の名が書かれた“贈り物”。


 


「……次は、誰かな」


 


理人は、写真を見つめながら呟く。

どこか楽しげで、その目にはまだ、余裕しかなかった。


 


「全部、僕に関係してる。

犯人は、僕のこと――ほんとによく知ってるんだね」



警察署。

新たな事件の情報が届く。


 


――被害者:藤崎亮。

理人が大学時代、研究室で同じプロジェクトに関わった男。


 


「……また、僕の“どうでもいい奴”だね」


 


現場は、郊外の古い劇場だった。

舞台上に横たえられた遺体。

顔には、劇場用の白塗りメイク。

そして――

額には、血で書かれた文字。


 


「Rihito, encore」


 


「アンコール、ね。

“まだまだ続けろ”ってことだ」



理人は、舞台に上がり、遺体の側に膝をつく。

その顔をじっと見つめ、指先で頬をなぞった。


 


「……君も、僕のこと、よく知ってたよね。

でも、特に思い入れもなかった。

それでも――君は“選ばれた”。」


 


背後から、片桐の声がする。


 


「理人――これで3人目だ。

全部、お前に関係ある奴らだ。

……犯人が何を狙ってるのか、もう分かってるよな?」


 


理人は、白塗りの顔を見つめたまま、答える。


 


「分かってるよ。

犯人は、僕を“完成”させたいんだ」


 


片桐が一歩近づいてきて、苦笑しながら言った。


 


「お前、ほんっとそういう言い方するよな。

……もっと普通に心配させてくれよ。

こういうの、冗談じゃ済まないんだからな?」


 


理人は振り返って、いたずらっぽく笑った。


 


「えー、心配してくれてるの?

ありがとう、片桐さん。

でも、僕、今のところは――

めちゃくちゃ楽しいからさ!」


 


片桐は、軽く理人の頭を小突く。


 


「バカ言え。

お前、ほんと……もうちょっと大事にしろ、自分のこと。」


 


「大事にしてるよ?

こう見えて、結構“自分ラブ”なんだよ?」


 


片桐は、ため息をつきながらも、少し笑った。


 


「はぁ……。

いいか、マジで何かあったらすぐ言えよ。

俺が、ちゃんと守ってやるから。」


 


理人は、指でくるくると髪をいじりながら答える。


 


「うん、分かった分かった。

でも、守られてるうちは、もっと楽しめそうだな~」


 


「お前な……!」


 


片桐はもう一度、軽く小突いた。

そのやり取りは、まるで普通の友人同士のようで――

けれど、背後には、確実に“続いている”ものがあった。


 


犯人からの挑発。

理人の狂気。

そして――

まだ、この“ショー”は、終わらない。




■第3話「つづく」 完


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