05 09/01 00:25

:アマちゃんもチートなのでは?視聴者は訝しんだ

:まじなに :怒ると口調が荒くなる子、いいよね…… :てかなんですかこの配信? :マジでなんなん? :なんかの映画のトレイラーとか? :CGすごいですね

:チャット早すぎて追えん :あらすじ自信ニキまとめてあげて

:あ~~~~~多量の新規からの栄養~~~~~

:@ベガ立ちおじさん 説明しよう!世界の裏で魔法を使い人知れず我らを守る事象庁異説局、この配信者のアマネはそのエージェントだ!相棒のバグぴと共に、今は異世界で悪逆非道の限りを尽くしていた転生者、ヨシダとバトル中だ!ヨシダは人類滅亡を狙ってるんだってよ!怖いね!

:@鳩の会 ――ここまで視聴者9,235人――




 千、二千五百、九千……加速度的に視聴者が増えている。伴ってコメントも加速し、もはや人の目では追いきれないほど。


「世界で傷ついてるのはボク一人みたいな顔してさあ……」

 

 アマネは怒り心頭の顔で地面を蹴る。瞬間、彼女の姿が消え、屋上の手すりに引っかかっていたヨシダは慌てて体を起こし、迎撃の態勢を整える……が。


「世界でまともなのはボク一人みたいな顔してさあ……」


 だがアマネは打ち捨てられていたΩ7に駆け寄り、抱き起こす。アマネの体から湧き出る黄金色のオーラじみた何かに触れると、右腕の切断面から流れ出ていた血は止まり……彼女がそこに、拾ってきた右腕を押し当てると、どうしたことか、繋がった。


「アマ……ネ……!?」


 予想を超えた彼女の力に、バグぴの口からも驚きの声が出る。ヨシダさえそんな彼の声に少し驚き、興味深そうに彼女を見て、呟いた。


「そうか……魔王の権能は、精神はもちろん、肉体にも及ぶ……」


 魔王。


 異世界で、魔族の王として君臨していた力。同種の支配を司るその力は、今、アマネの内にあって、そして今なおその力を増している。


(アマネさん……今さら何も、言うことはない。思い切り暴れろ)


(りょーかい、おかーさん)


 少し冗談めかして言うと、すう、と深呼吸。イヤホンの向こうでルフィアが軽く笑ったのが聞こえる。彼女の言葉を思い出す。




――――――――――――――――――――――――


『一般市民への魔法存在の露見。これは絶対に避けなければならない。世界のルールを永遠に変えてしまうからな。配信の設定は絶対に、拡散不可を貫くこと……だが同時に、あなたやバグぴさんが傷つくこと、これも、絶対に避けなければならない。もし自分にもっと力があれば、と思うならいつでも、設定は切り替えて構わない。それについては、誰にもとやかく言わせないよ』


 穏やかに言うルフィアに、アマネは驚いた。


『い、いいんですか?』


『……ただその場合別の心配もしなくてはならないのは、覚悟しておきたまえ』


『別の心配、って……?』


『有名配信者になるからね。バグぴさんと付き合ったりしたらスキャンダルかもな』


『あははっ、かもですねっ……』


――――――――――――――――――――――――




 視聴者数は数秒で二万を超え、三万七千、六万二千、まだまだ増える。増加に応じてアマネのGlyPhoneが震える。まるで早鐘を打つ鼓動のようだ。そして実際に、鼓動が早鐘を打っている。視聴者数に応じた心拍数のクロックアップ、それに耐えうる細胞機能増強、つまりは身体能力のシンプルすぎる単純強化。十倍速、二十倍速でさえ鼻歌交じりに動け、ゆくゆくは一人で月の軌道を変えるようなことさえ可能かもしれない。視界の隅でまるで、炎上したSNSの投稿PVのように、視聴者数が増加していくのが見える。72,012……89,003……100,000を今超えた。




 左手一本で吹き飛ばされた瞬間、アマネは、死を覚悟した。そうすると途端、恐怖が身を包み……そして、生まれてから初めてと言っていいほどの怒りを感じた。自分に対して。


 バグぴは、頑張っている。記憶がなくても世界を守るために、自分を捧げている。本人には絶対そんな気はないけど……でも結局は、そういうことだ。


 じゃあ、私は?

 私には何がある、何ができる?

 何もして、ないんじゃないか?

 そんなの、許せる?


 そうして彼女は、配信設定の拡散許可を、オンに入れた。




:しかし、できるなら最初からやったほうがよかったのでは?リスナーは訝しんだ

:いや今後どうすんのって話でしょ、ルー姉たちの存在含め、国家バランスが一気に崩れる……まあ、ヨシダに皆殺しにされなきゃだけど

:あのー、要するに、この子、視聴者が増えれば増えるほど強くなるってことですか?

:@ベガ立ちおじさん そういうこと。今までは魔法の存在を気にして秘密配信だったけど、 パワーアップのために拡散を解禁した。

:ググったら出てきてビビったwwアマちゃんもう有名人じゃんww

:@鳩の会 ――ここまで視聴者123,661人――




「そんなんでも人を、傷つけて、いいわけねーだろチート野郎!」




 轟ッッ。




 叫んで再び、ヨシダに襲いかかる。十数万人の同時接続が今や彼女の力だ。数が増すほどに強力になり、そして洗練されていく配信の力、魔王の力。今のアマネは意識せずとも自分の主観カメラ、三人称視点カメラ、ヨシダの主観カメラ、二人を斜め上空から捉えたカメラ、様々な視点を自動的にリアルタイムで切り替えながら映画的に配信することさえ可能。配信映像のクオリティは香港アクション映画やハリウッド爆発映画さながらで、増え続ける視聴者はまずその映像に圧倒された。


「ッッ!」


 凄まじい勢いの右正拳がヨシダの頬をかすめる。風圧で切れた肌にヨシダは戦慄する。魔王の邪剣が直撃しても傷一つつかない勇者の体なのだ、今のヨシダは。もし当たればきっと、この屋上から頭だけ落ちていただろう。


「……つまりオレは、オレたちは、一生踏みつけられてろってこったな……」


 だが、彼がアマネに恐怖することはない。絶望することも決してない。

 彼にとって恐怖は常に、自分の中にあるものだからだ。

 友をなくした今、絶望さえ、自分の一部としているからだ。


 アマネの右腕を掴み、力を込めるヨシダ。アマネはうろたえず掴まれた箇所を支点に彼を投げ飛ばす。しかし空中でくるり、魔法陣を足場にして方向転換した彼は、アマネの頭上に鉄剣を振り下ろす。一刀両断、唐竹割りの態勢。


「踏まれたことのねえ奴が言いそうなこったなァ!?」


 ガキィン!


 金属同士が打ち合わされる、耳を劈く硬質な音。斜め十字に構えたアマネの両腕に、ヨシダの鉄剣が止められている。今やアマネの体を覆う黄金色のオーラは、三十万人を超えた視聴者の力に支えられ、ヨシダの剣さえ止め得る。


「なにを……ッッ……」


 だが、そんなアマネさえも凌駕する膂力でもって、ヨシダは彼女を押しつぶそうとする。世界最高峰の魔力が、世界最高峰の身体強化呪文でもって、地球で再び魔王を打ち倒すべく、全身に力を込める。


「オマエラは、想像もしてねえんだよ……ッッ……自分が踏んだやつに、いつか踏まれるかもしれねえ、ってよォ……くッ、クククッ、それが、ざまあってもんだぜ……」


 縄のような筋肉がヨシダの全身に浮かび上がる。黒い蛇のような魔力が全身を覆い、さらにその力を増す。鉄剣はオーラに食い込み始め、刃がわずかに、アマネの皮膚を斬りつける。


「なんで……なんでッ……」


 視聴者は四十二万人。少し増加ペースに翳りが見え始める。十二時を回った深夜帯だからだろうか。アマネの膝が下がり始め、瞬時、ヨシダが力をさらに込める。もし彼の目的が単純な殺戮だったなら、アマネはもう、死んでいるだろう。


「オマエにもたっぷり、曇って・・・もらうぜ……!」


 ヨシダの顔に笑みが浮かぶ。


「なんで……っっ……」






 なんで、手を取り合えないんだ。


 百人に踏まれたからって、百一人目を踏んだら、百二人目とだってきっと、踏むか踏まれるかしかできない。一生、誰かに踏まれるかもと怯えながら、踏みつけられる誰かを探す人生なんて、アマネには想像もできない。そしてその、想像もできないことが、悲しくて仕方ない。






 ガクンッ。


 アマネが膝を付く。刃が腕に食い込む。流れる血が彼女を濡らす。そしてヨシダが吹き飛ぶ。


「なぁぁァっっっ!?」


 ヨシダの声が、間抜けに少し裏返る。空中をふっとばされている最中に衝撃の先を見ると、魔法陣を周囲に浮かび上がらせ、真っ赤な顔をしているバグぴと目が合った。ダメージは大したことはないが、衝撃に重点を置いた呪文。しかし、そんな時間稼ぎをしてなんの……と、ヨシダが思考を巡らせている間、だが彼は構わず言う。


「ピア、いるか?」


 呼びかけに応え、彼のポケットでGlyPhoneが震えた。


「いるか、とは失礼な問いかけですね。私は常に、あなたの側にいますよ。あのだらしない猫とは違うのです」

「そいつは失敬。全世界の、各国の、それぞれの言語で、それぞれ主流のSNSに、バズリそーな感じで配信を拡散してくれ、できるか?」

「おやおや、もはやSNSで貴方がたが、私の兄弟姉妹たちの投稿を目にしない日はないのですよ」

「そういうのいいから。できるか?」

「はい、もうしました。私はあの猫とは違い働き者ですし、今や拡散禁止の制限は解かれているようですからね」


 屋上を転がったヨシダが会話を耳にして、即座にバグぴに呪文を飛ばそうとして――瞬時、迷った。今のうちに女の方を片付けるべきだが――その一瞬の迷いで、アマネには十分だった。


「マックスブシドーーー!」


 叫びと共にアマネの、ミサイルのようなサイドキックがヨシダの脇腹に刺さり、再び吹き飛んだ。




:wtf :KONICHIWAdesu :这个流是动漫吗? :Anime Fille Sobat!!?? :게임의 홍보입니다, 좋은 것 같습니다.

:あ~〜世界中の新規が困惑する栄養〜〜!

:Эта девушка очень сексуальна. :Er þetta nýjasta japanska animeið? :#KAPPA #DANSGAME :لقد أتيت إلى هنا من الموضوع الأكثر رواجًا، ما هو البث؟ :PC saya diretas

:栄養ニキ大丈夫?痛風にならない? :チャット早すぎて見えん 

:@鳩の会 ――ここまで視聴者1,030,906人――

:多言語自信ニキ解説書いといて :これ、イケるよな? :ここはマックスジークンドーにして欲しかったなー :呑気すぎだろアマちゃん負けたら世界滅亡だぞ :ぴきゅんうつしてぴきゅんうつして

:@ベガ立ちおじさん やあみんな!この配信は魔王の力を持つ少女アマネ(メイン火力)と、魔法使いバグぴ(それ以外全部)の世界を守るための配信だぞ!アマネは視聴者の数で強くなるから拡散よろしくな!日本語話者なら概要欄をチェックだ!Greeting guys!!This streaming is...




 同時接続数、五十万、七十三万、百三万……二次関数じみて増加していく視聴者と、増していくアマネのオーラ。ヨシダはすぐさま立ち上がりそれを見て、しかし、不敵に笑う。


「……おい、魔王ならよ、もう一回ぶっ殺してんだ」


 ルフィア――魔王ゼルフィアを打ち倒した呪文を再び組み上げる、が――


虚ろの呪よnull spell、/運命を削ぎscrape Dest.、/沈黙を歌え@ECHO OFF。〉


 即座にバグぴから【現実への収縮コラプス】が飛び、古典魔法の究極は打ち消しキャンセル。ヨシダは舌打ち一つすると鉄剣を構え吠える。


「ああああウザってえなモブがッッッ!!」


 それに応えるように、アマネも吠える。


「この世のどこにモブがいるんだよッッッ!!」


 駆け出し、ぶつかり合う二人を見て、バグぴは叫ぶ。


「おーいみんな……しっかり観測・・しとけよ!」


 だが、思う。




 やはり、勝てないかもしれない。






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