03-02 猫の気持ちを考えて pt.02

:しゃべったぁぁぁ!

:シャベッタァァァァ!!!

:え、この三毛、オス?

:白猫を三毛っていう地方の人?

:は?ジジでしょ?リボンつけてるし

:いやウチのおもちなんだけど




 気づけば、コメントの勢いが数倍近くなっている。何か解説したほうがいいかな、とも思うけど、とりあえずは置いておこう。それに、この猫については自分もまだ、よく分かっていない。




 魔王の力、権能は、同種の支配。その称号が同種を支配するための力を自動的に編み出し、魔王はそれを生得的な力として振るうことが可能だ。異世界においてそれは、あらゆる魔族に自分の言葉や見ているものを瞬時に伝えられる、種族限定、距離無制限のテレパシーのような力だった。




:どういうこと?見る人によって違う姿?

:おーいアマちゃん説明ないの?

:ってかバグぴじゃなくてアマちゃん見たい

:あの、この配信なんなんですか?

:あ~~~新規が困惑する様からしかとれない栄養〜

:害悪古参ムーブやめろ、アマちゃんが困るだろ

:説明文の通り、としか言えないんだよ……知ったかしてる古参ヅラもなんもわかってないよ




 だが地球に来ると魔王の力は、配信の力に変質していた。自分の五感を、スマホやPC上に映像として配信する。なんでそうなるの、とアマネは少しツッコミたくなってしまったが、しかし納得してしまった。今の人間を支配するということは、思想を動かす、影響を及ぼす、ということだ。それなら宗教より政治より、配信にまつわる力になるに決まってる。




:とりあえず新規は初日のアーカイブにバグぴが魔法で核融合やらブラックホールやら作ってるところあるからまずはそれがオススメ、アマちゃんも出てくる

:今来た、ルフィアさん今日いないの?

:さっきバグぴを褒めてたよ、量子魔法? の訓練を三日でこなせた奴は今までいなかったって

:バグぴはなろう系主人公だった……?

:これどういう設定なんですか?中二異能バトル?

:まあ外れてはない。魔法を使うには、魔法陣と詠唱が必要って感じ

:ルー姉うつして




 ルフィアから魔王の力をあっさり譲り受けたアマネは、バグぴの魔法訓練を配信し始めた。そう、かつて自分が見ていたように。どうやら、人に話せる話せない、なんてところまで気分次第にいじれるようだ。配信が盛り上がれば盛り上がるほど通知を送れる人数が増え、視聴者が増えるほどアマネの力も増すらしい。今のところはまだ三十人程度だが、それでも得られた身体能力強化で、アニメで見たようなバトルシーンをルフィアと繰り広げられるほど。




:ってか、詳細は誰にもわかってない、アマちゃんもあんまり語らない

:でも誰にも話せない配信ってね、魔法で洗脳されてんのかなおれら

:ディープフェイク?じゃないんですか?

:ためしにどっかにこの配信のこと書き込んでみ、誰かに言うのでもいいけど

:なにこ

:なん

:あ~~~(中略)栄養〜〜〜




 盛り上がるコメント欄に、少し笑ってしまう。けど、たしかに説明はもう少しした方がいいかな、と思って説明文を修正。思っただけでできるのは便利だ。


〈女子高生アマネが魔王力を持つ配信の騎士を目指し、記憶喪失の少年バグぴが一流の量子の魔法使いを目指す、不思議な配信です! 目指せ同接100万人!


 いま出てきた猫は私にもわかっていません! なにやら、量子魔法の入門魔法だそうですが……〉




:二日目のアマちゃんの格闘訓練もオススメ、とりあえずそれでこの配信の異常さはわかる

:まあフェイクでも美少女JKと高身長美女がドラゴンボールみたいに殴り合ってるさまは見といて損はなし

:概要欄更新来た!

:いぇ~いアマちゃん見てる〜?オジサンはキミを見てるよ〜

:オバサンも見てるよ〜

:お巡りさんこいつらです

:お兄さんも忘れてもらっちゃ困るぜ!

:あーらお姉さんのことも忘れちゃや~よ!

:お巡りさんこいつらもです

:本官も見てるであります!

:昭和のお巡りさん……!?




 コメント欄に少し笑ったアマネは、視線をルフィアに。これで配信画面にも彼女が映るはず。


「さて……これであなたたちは、量子魔法の入り口に立ったことになる。おめでとう」


 どこか芝居がかった口調でルフィアが言って、コメントが湧いた。


 どんな企画よりも強いのは、やっぱり、美人。人間のアホさに少し嫌気もさすけれど、数字は正直だ。ルフィアが出ると、コメントの時速が十キロは増すような気がする。彼女にもバグぴのような、魔法使いっぽい格好をしてもらうほうがいいかなとも思ったけれど……夏の屋内なのに深紫のロングコートを着ていて、けれどそれがこの上なく似合っている様は、それだけで絵になる。彼女がただ佇んでいるだけで、あらゆる物語が頭に浮かんでくる。


 けれど、そんな彼女が言ったのは……どうにも締まらないセリフだった。


 


「まず最初に言っておかなければならないが、この猫についてわかっていることは、ほとんどない。というか……何もわからないに等しい。だから聞かないでくれ」





※※※※※※※※※※※※

短いので本日は2話更新です。

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