03-01 猫の気持ちを考えて pt.01
それから、三日後。
アマネの部屋、中央のローテーブルが片付けられ、洗面器が一つ。その上に氷の塊がいくつも入れられ、中にGlyPhoneが収まっている。
その隣にバグぴが立ち……いかにも魔法使いという三角帽子にローブという格好をして、いかにも魔法使いという節くれだった長い杖を持ち、いかにも魔法使いという深刻な顔で……マシン語のような言葉を呟いていた。
「
----------
」
彼の唇が言葉を結ぶたび、ちゃぽ、ちゃぷん、という音がする。同時に、彼の周囲に魔法陣が投射される。だがそれは、それまでの魔法陣とはまるで違った。図形に曲線は時間とともに移り変わり、時にカクつきながらも、ねじれ、くびれ、裏返り、実在する騙し絵のような、四次元図形の魔法陣。三次元に暮らす生命体――つまり地球の人間にとっては、見ているだけで脳が歪むような光景だった。
「
----------
」
詠唱がそこにさしかかると、さらに、じゅう、という音がした。氷の中のGlyPhoneが熱を発し、周囲の氷が溶け、水分が蒸発さえしている。その湯気の中〈k=0.284〉という数列が踊る。それを見たアマネはごくりとツバを飲み、勉強机の前に座るルフィアをちらりと見る。うろたえていないことからすると通常の手順らしい。
:えこれなに?
:中二詠唱いきなり見せられても
:ってかマジでこの配信なんなん?通報できないんですけど?ハッカー?
:おうおう新規がうろたえとるww
:三日見てるだけで古参顔やめてねw
視界の端をスクロールしていくコメントにはまだ少し慣れないけれど、今はこれでいい。
やがてバグぴは、目を見開く。大きく息を吸い、そして叫ぶ
「
【
----------
」
四次元図形によって構成された魔法陣が、バグぴが杖を構えた先の一点に収束していく。ライトブルーのレーザーじみた光が、自ら意思を持っているかのようにうねり、絡まり、渦をなし、やがて、一つの白い光になる。その光はさながら、あの核融合の光にも似ていたが、しかし、熱は発していなかった。
光は徐々に収束していく、小さくなっていく、輝きを内側に向けていく。やがて、そのシルエットが一つの形をとる。その形が、なにかの生き物のようだ、とアマネが思うと……形は伸び、縮み、また伸び………………寝転ぶ。
そして、光が収まるとそれがあらわになる。
艷やかな毛並みの一匹の猫が、部屋の床に寝転がり、ざりざりと腕の毛を舐めていた。
ぱたん、ぱたん、ぺちん、床に尻尾を軽く打ち付けながら、目を細め、毛繕いを続けている。どこからどう見ても、ただの猫だ。猫は毛繕いを終えると、ぐぐぐ、と伸びを、して、それからバグぴを見つめる。
そして、言った。
「よお人間。満足か? オレを呼び出せて満足なのか、ええ?」
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