04 砂場の乱暴者
【side:吉田一郎】
オレは、転生者を探して回った。
それまでオレは自分が成り上がって好き勝手やることしか考えてなかったが……探してみると、いるわ、いるわ。この異世界はチートなしがデフォルト仕様らしく、そういう面じゃ探しにくかった。でも、どいつもこいつもオレが地球の言語で友好的に話しかけると、嬉しそうに地球の言語で返してくれるから、そういう面じゃやりやすかった。
冒険者として頭角を現しつつある転生者は、真っ先に殺した。
そのうち英雄とか呼ばれだして、悪政をしいてるオレを倒すために挙兵して軍記物パートに突入するに決まってる。国家戦力なんて呼ばれるS級冒険者になられるのもマズい。在野に大量殺戮兵器が転がってるのを許す為政者なんて、いるか?
オレと同じような赤ん坊転生は、幼児のウチに殺した。
魔力を一番高められるのがこのパターン。どんな人間だろうが強大な魔力を持てばそれは、核兵器と同じだ。ヒロシマナガサキ、そしてオレ、強大な力を持てば人は、必ず一回は使いたがる。その対象として、オレみたいな王様は最適だろう。芽を摘んどくに超したことはない。
一見使えない技術や魔法に血道をあげてる連中も殺した。
生活魔法は便利だが、概念系魔法に発展する可能性があるってのはラプラシアがすでに研究済みだ。お掃除魔法で心をお掃除され、善良な王様になるなんてのは絶対ゴメンだ。人の心を自分のいいように操るなんて、殺すより悪じゃないか?
ぱっと見、悪役な貴族やその令嬢に転生してるやつも殺した。
政治の本流に関わらず暮らそうが、貴族や貴族令嬢という立場上、王様であるオレにどうやっても関わってくる。出奔して冒険者になったらなったで上のパターンになる。こいつらも生かしちゃおけない。
遠い島で魔物を仲間にスローライフしてるヤツは島ごと消した。
百話もいかないウチに建国って話になるのが定石だ。国、国だと!? 新たな国が増えるのを歓迎する王様なんてのはたぶん、地球にだっていない。プレイヤーが増えれば増えるだけ、危険度も増す。
なにやらこっちに転生してきたらしい織田信長や武田信玄も殺したし、レオナルドダヴィンチにヒトラーまでいたので残らず殺した。オレが王様でいるよりヤバい政治体制をやるに決まってる。
魔王以外の魔族転生連中も、魔大陸平定ついでに滅ぼした。人間と、人間を捕食することもある魔族が共生できるわけはない。
この異世界は、絶対に、誰にも渡さない。
砂の一粒にいたるまで、全部、全部、絶対に、オレのものだ。
もし転生を司ってる神がいたとして(この異世界にはいなかったが)、オレがこう思って色々やってることを見ても、それほど不自然には思わないはずだ。だって、そういうもんだろ!?
っていうか…………なあ! そういうもんじゃねえのかよ異世界転生って!?
オレが主人公、オレがプレイヤー、最優先されるべきはオレで、他の転生者がオレと同じように異世界をエンジョイしてるなんてのは、それこそNTR展開じゃねえか!? 最初からそういうのをやってくるならともかく、ノー警告ノータグでそういうのをぶち込んでくるなら、何をやられても文句は言えねえよなァ!?
それでも、地球からの転生者は絶えなくて、オレは辟易してた。いくら殺してもキリがない。年に十数人は、必ず、絶対、このオレの異世界にやってくる。なあ、基本的な質問だ、別の異世界はねえのかこの世には!? よそ行ってくれよ、なあ!? そしたらオレだって何も言わねえよ!
「ったく、めんどくせーなーもー! 転生者ってやつはこれだからよー! いくら現世で冴えない人生を送ってたからって異世界来てハシャぎやがってよー! 許せねーよなー! なーラプラシア!?」
オレはラプラシアの居室兼研究室ともなっている宮廷魔術研究所で、ソファに寝転びながら言った。最近は玉座よりこっちにいることが多い。
「オマエとの付き合いももう長いから、すこし、私にも分かってきたが……それはいわゆる、オマエが言う、ツッコマミマチ、というやつか?」
ラプラシアは興味があるのかないのか、よくわからない口調で、ビーカーを揺すりながら答える。
「さあ、なんて突っ込む?」
「ええと……そんなわけ、ないだろー……?」
「惜しい! 正解は……お、自己紹介か? でした!」
オレが笑いながら言うと、ラプラシアは少し息をついた。
「まったく、オマエらの文化はよくわからんな……それで、どうするんだ? 転生者を探知する呪文は、まあ……時間を貰えればできるとは思うが……あまり、作りたくはないな。つまらなさそうだ」
こいつに頼めば、たいていの便利呪文は作ってもらえる。呪文研究者、魔法学者としてはオレをも超える、世界一の腕前なのだ。もっともそれは、魔法のこと以外本当に何一つ興味がない、数千人を煮殺して新たな魔法を開発したとしても、次は数万人を煮殺してさらに新たな魔法を開発しよう、と思うだけ……という、ある意味オレ並みに終わってる性格とトレードオフ。
オレは答を保留したまま、天井を見上げため息をついた。
この異世界は、誰にも渡す気はない。
そのためならオレは、誰を何人殺そうが、なんとも思わない。
だって、そうだろ?
クソみたいな人生の揚げ句、ようやくたどり着いた、オレだけの居場所なんだ、ここは。そこを奪うヤツらがいるなら、どんな手段を使っても守る。誰だってそうだろ?
それでも……ここ数ヶ月の間、ずっと心に抱いてきた最終的解決の策を、オレは口に出せないままでいた。そして、それがどうしてなのかが、オレにはわからなかった。
「なあヨシダ、少し疑問なんだが……オマエはどうして、この異世界にそこまで固執するんだ?」
ラプラシアは、ビーカーを魔法陣の上にのせ、何かを手元のメモに書き付けながら尋ねてきた。
「固執してるように見えるのか?」
「まあ、普通はそう見るんじゃないか?」
「まあ、そうか……どうしてって、言われてもなあ…………なあ、小さい頃さ、砂場とか、おもちゃとか、自分のお気に入りのヤツをさ、年上の奴らにとられたことないか?」
「あいにく私は、五歳で師匠を殺した後、一人で研究だけを続けていたのでね、そういうのはないんだ」
「そりゃあなんとも素晴らしい幼少期だ、うらやましいね」
「オマエはどうなんだ? そういえば、オマエの家族の話は聞いたことがない気がする」
「家族? ……ああ、なんか、そういうのもあったなー」
「……ああ、なるほど、地球ではその程度のものなのか」
「いや、概ねここと似たようなもんだが……まあいいんだよ、中出ししただけのヤツらが偉いってんなら、オレなんか世界大統領様だっての」
「避妊魔法は万能じゃないぞ、言っておくが」
「できたらできたで、息子だか娘に似たような話をしてやるさ。年上の奴らに砂場とかおもちゃをとられたら…………お父さんはその気持ちがわかるよ、って。そういうときはまず、ずるい、って思うんだ。怒るとか、悲しいとか、そういうのより先に、ずるい、って」
「ずるい?」
「そう、ずるい、って。ボクにはこれしかないのに、他にもなにかある奴らが、ボクのをとるのは……許せないとか、悪いとかじゃなくて、ずるい、そうとしか言えない。今、そういう気持ちだよ、オレは。それで……迷ってる」
「迷ってる? 何についてだ?」
「最終的解決ってヤツを、本当にやっちまっていいのか」
「ああ、前に話してたヤツか。実行はまあ、たぶんできるぞ。開発はまだだが、見当はついている。やるか?」
「だから、それを迷ってるんだよ」
「どうして?」
「そりゃあ……流石のオレでもよ、ためらいはするぜ」
「わからんな。故郷……家族も、どうでもいいんじゃないのか?」
「そりゃあ、そうだが」
「ヨシダ、オマエはこの異世界が一番大切なんだろう?」
そう言われ、オレは気付いた。
オレが本当に大切に思っていたモノは、この異世界じゃない。
こうして……この異世界で、ソファに寝っ転がって、コイツと、こんなことを、だらだら話してる時間。そんなものが、本当に、心の底から……。
「…………よし、決めた。この際だ。根本からやっちまおう」
そう気付くと、ためらいは消えた。そして言った。
ラプラシアの返答の声は、少し、震えてた。
「ほ……本当か?」
しかし、その顔は、喜びに満ちていた。オレは苦笑して返す。
「……それは、どの、本当か、だ?」
「これは、本当に地球人を魔法の実験に使えるようになるのか!? の、本当か、だ。何人いる?」
「くぅ~、相変わらずオマエのヤバ女っぷりには痺れるね! まあ何人かはわからんが、マックス七十億……実際はもうちょっと減ってるかもだが。なあ、ラプラシア、この異世界は俺とオマエの遊び場だ、誰にも邪魔はさせねえ……だいたいよお! 砂場を占拠しにくる年上の乱暴者なんて許せねーよなまったくよお!?」
勢いよく立ち上がってそう言うと、ラプラシアは少し眉をしかめ、しかしすぐ何かに気付いたような顔になって、言った。
「…………あ! ごほん……お、自己紹介か?」
オレはゲラゲラ笑って、そして決めた。
転生者の元である、地球を、地球の人類を、滅ぼす。
二人でその計画を練ってく時間は、異世界に来てやったどんなことよりも、楽しかった。
………………。
何かを守るためには力が必要だ。
けれど、何かを大切にするためには、力はいらない。
オレは、そしてきっとラプラシアも、そのことをわかってなかった。
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