好きなもの
空繰 巧
空
「自分らしさってなんだろう…」
青1色の天を仰ぎながらふと零す。
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうになった時、
すごく嫌なことがあった時高いビルの展望台に登っては空を仰ぎ言葉を投げかける。
悲しい時も、辛い時も、寂しい時も、
いつだって手を伸ばせば、空はそこにいてくれた。
空だけは何も変わらずただそこにあってくれた。
友人と呼べる人間は周りにいなくて、
家族は私に興味なんてなくて、
ずっとずっと独りだった。、
「今日、あなたって自分らしさが無いよねって言われちゃった…らしさってなんだろうね」
なんて些細な会話でさえも、あの空に向かって投げ掛けることしか出来ない。
それでも良かったそれで満足だった。
聞いて貰えなくても、答えが返って来なくとも
空に投げれば私の中から嫌なものは抜けて居なくなる。
そんな感覚があったから良かったんだ。
良かったんだ。
良かったのに。
ほんの少し空に近づいては
空から離れてみた
勢いよく空が遠のいていく
硝子に映る空を掴もうと惨めに藻掻く自分を見て、恐怖と涙でぐちゃぐちゃの顔みて、
「あぁ、私は怖かっただけなんだ、ただの臆病者だったんだ。ただそれだけのちっぽけな人間だったんだ」
嫌なことも嫌と言えず、怖い思いをしても糾弾することも許されなかった。
意志を、思想を封ずることしか出来なかった、それしか生きる道を知らなかった私は、1番大好きだった場所から離れた時に、最期の最期に初めて素直に怖いって嫌だって生きたいって言えた。心の内を初めて素直に解き放つことが出来た。
初めて「自分らしさ」を知ることが出来た
好きなもの 空繰 巧 @KarakuriTakumi
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