第27話 萌萌の秘密

「お背中流しますね~、士郎君」

「あ、ああ、ありがとう。萌萌」

「あれ? 反応薄くない?」

「いや、そんな事はないさ……」


 俺は風呂椅子に座り。バスタオルを羽織はおっただけの萌萌に身体を洗ってもらっている。

 こんなクールビューティーで可愛い女の子に身体を洗ってもらうなんて、普通ならドキドキする筈なんだが全然そんな事はなかった。


 なんせ俺は萌萌と柊の本当の関係を知ってしまったからだ。


 リビングのソファーの下にあった数枚の写真。あの写真には、柊と萌萌の際どい服を着て抱き合っている場面が撮られていた。


 このお風呂の出来事もそれをカモフラージュさせる為の演技。


 ならば俺は柊が真なる幸せを掴む為に、凪に告白し晴れて恋人になれば良い。


 そうすれば萌萌も俺や凪に気を使わずに柊と添い遂げられるだろう。


「背中洗い終わったよ……前も洗ってあげようか? なーんちゃって」


 成る程。これも演技か。ならばそれにあえて乗ってやろう。それが萌萌の為になるならな。


「ん? 良いのか? ならやってもらおうかな。胸とか腰周りもさ」


 俺はそう告げると背中を回りして萌萌の入る方へと身体を移動させた。


「へ? 本当に言ってるの?」

「大丈夫だ。前はちゃんと隠してる。駄目だったかな?」

「い、いや。駄目じゃないけど……あれ? 男の子のそれってそんなに小さいの? 動画だっと皆、ギンギンだったのに」


 赤面しながら乙女の様な可愛らし声をあげる萌萌。いや、実際に乙女なんだがな。

 

 しかし動揺が凄いな。俺は逆、冷静だ。真実を知ったからな。


 萌萌の恥じらいを見ても、ナイスボディーを見ても。反応しなかった当然だな。俺の心は今、凪へと集中しているんだからな。


 謝ろう。凪に昨日の事やこれまでの事を。そして、応援しよう。柊と萌萌のゴールを。


「……何で握りこぶしを作りながら。天井を見上げてるの? そ、それよりさぁ。どうかな? ボクの身体。少しは魅力的とか思ったりしない?」


 萌萌は何故か身体をのけらせながら両腕を頭に乗せてポーズし始めた。モデルの真似事だろか?


「ん? ああ、肉付きの良い身体付きで、アスリートって感じがするよ。腹筋もちゃんと割れてるのがタオル越しでも分かる位だしな。凄いな。バキッバキッに……進撃のミサワみたいだ」


 あっ! やべ。余計な事を言ってしまった。


「進撃のミサワ? 誰それ?」

「……いや、何でもない。萌萌は綺麗な身体をしているなって事だよ」

「そ、そう。そう言ってくれるなんて嬉しいな」


 危なかった。萌萌にあまり漫画の知識がないのが、幸いしたな。もし、進撃のミサワが腹筋ヒロインなんて事がバレたら、彼女に何をされるか分からないからな。


「でも……何で全然立ってないの? 男の子って女の子の裸を見れば興奮して立つものじゃないの? もしかして。ボク、魅了ない?」


 今度は何故か落ち込み始める萌萌。年頃の乙女は大変なんだなと思いつつ、俺はある事を思ついた。


「萌萌。俺も君の背中を洗ってあげるよ。さっきのお返しにさ」

「へ? ボクの身体を士郎君が洗う?……何で?」


 それはたださっきの背中を流してもらった感謝の為の行動。けしてよこしまな気持ちなどない善意の行動だ。


 なんせ、彼女には人を愛する真理を教えてもらったんだから。


「君には大恩が出来たんだ。だからむくい指してくれ。安心してくれ、俺はこの通り全く興奮していない」

「……ボクで全く興奮してない? はぁ?! 何それ? 意味が分からないんだけど? それってつまりボクの身体に全く興奮しないって事? 士郎君」


 おや? 萌萌の様子が少し可笑しいぞ。何だか怒り始めた様な。


「ど、どうしたんだ? いきなり怒り始めて。あ、安心してくれ、俺は今後、萌萌と柊の邪魔はしないし、その逆で応援もするからさ。だからお互いちゃんと恋を成功する様に願って」

「ボクと柊の恋の成功?……もしかして士郎君。何か勘違いしてない? ボクが好きなのは男のき……」

「勘違い? いやいや。じゃあ。ソファーの下にあったあの写真や変な玩具はいったい何なんだ?」

「ソファーの下にあった玩具?………まさかあれを見つけたの?」

「ん? ああ、あのいかがわし証拠の数々は衝撃的な……」

「あれはコスプレの写真を取ってたんだよ。ボクも柊もコスプレが趣味なの。R18指定のね」


 コスプレが趣味? 萌萌と柊が? そんなの初耳だぞ。


「いや。だってあの写真には抱き合ってるシーンもあったぞ。あれは何で?」

「そういうシーンなの! あー、もう。また話がややこしくなっちゃったよ。せっかくここまで誘い込んだのにさあ……もう良いや。えいっ!」

「は? 萌萌。いきなり抱き付いてきて、何して……んぐ?!」


 数分間。萌萌に口を塞がれて息が上手く出来なり、更に鼻呼吸が上手くいかず、意識がだんだん遠退いていく。


「ぷはぁー、これで分かった? ボクの本当の気持ち。これでボクと柊が付き合ってないって事を理解できたかな? 士郎君……士郎君?」

「…………」

「し、士郎君。しっかりして! 何で気絶しているの? 士郎君! 士郎君!!」


 その数時間後、俺は例のソファーの上で意識を取り戻した。

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