第26話 君との追憶
(士郎君。何で泣いているの?)
(……凪にどうしても追いつけないんだ。何をやっても勝てないんだ。僕には、凪みたい凄いものがないんだよ)
(そうなんだ。じゃあ、いっぱい頑張らないとね)
(いっぱい頑張る?)
(凪ちゃんに置いて行かれないよう。追い越せる様に。いっぱい、いっぱい努力しようボクも一緒に隣で励ましてあげるからさ)
▽
小さい時の記憶だった。小さい。本当に小さい4才か5才位の記憶。忘れていた……何故か忘れようとしていた記憶。
チャポンっと風呂に
「俺は幼少の時、西蓮寺萌ちゃんと会っていた。いや、一緒にずっと過ごしていた
現在、萌萌の家にお邪魔している。何故、風呂に入って入るかというと、俺にも良く分からない。西蓮寺家に着いた途端に────
「少しリビングで待っててね。お風呂の準備してくるからさ」
「お、お風呂? まだ夕方位だろう? 早くないか?」
「練習試合で汗かいているんだよ。先に済ましておきたいんだ……
「風呂の準備している時に
「そう? 柊なんて家に泊まりに来る時や、部活帰りで遊びに来ている時は、いつも。ボクのお風呂の準備をしていると、後ろから襲いかかって来て。そのまま一緒に入るんだけどね」
…………なんだ? 今、柊のあれ方面の話を聞かされた気がしたぞ。
「あの天使がそんな変態な事するかよ。冗談は凪だけお腹いっぱいなんだ」
「いやいや。事実なんだけど。あの娘、かなりの変……」
ピッピッピッ!!!
萌萌が柊について何か言おうとした瞬間。萌萌のスマホから大音量で着信が流れた。
「この着信は……柊? 何でこのタイミングで?」
「………俺達。どっちかの荷物に盗聴機とGPSでも付けられてたりしてな。夏、辺りがこっそりと付けてて。まぁ、そんな事あるわけ……」
バキッ! ボキッ!
「うん。士郎君のポケットと、ボクの鞄の中に仕込まれてたね。盗聴機の方は公園で勢い良く走ったせいかな? 壊れてるね。」
「マジかよ……」
萌萌は俺のYシャツのポケットと自分の鞄から小型の機械を取り出し、両手で握り粉砕した。
……萌萌の握力は凪並みに強いみたいだ。絶対に逆らわない様にしよう。
「まぁ、居場所がバレても。このマンションには絶対に入って来れないけどね。それに確かこのマンションには、士郎君の中学同級生の男の子が居るよね?」
「ん? ああ、長岡って言う仲が良い奴がいたな。最近、会って無いけど」
「じゃあ。その長岡君って子の家に泊まったっていえば大丈夫だね。帰る時はマンションの裏口から出れば良いしさ」
「あ、ああ。そうしてくれると助かるよ。ありがとう」
頭の回転が早い娘だな。盗聴機とGPSで居場所がバレたと慌てた俺と違って。直ぐに打開策を打ち出していく。
その打開策も、そんな無茶苦茶通じるわけないだろうと思っても。ちゃんと
西蓮寺萌と言う娘は運動だけでなく、知性も凪や柊レベルみたいだな。ちなみに柊は運動は苦手だ。
「解決策も浮かんだし、ボクはお風呂の準備をしてくるね。ああ、そうだ。ボクの部屋には絶対に入っちゃ駄目だよ。見られたくない物とかあるしね」
「あ、ああ。分かったここで大人しくしてるよ。一晩泊めてもらうんだしな」
「うんうん。相変わらず。素直でよろしい。それじゃあ、お風呂の準備が終わったら先に士郎君が入って良いからね。楽しみにしておいて」
「え? 何で俺が先にって行っちまったし。他にもなんかと気になる事を言ってたな相変わらず。素直とか、楽しみにしておいて? 何の事だか。ん? 何だソファーの下に何かあるぞ」
俺はソファーの下に手を突っ込み。取り出してみる事にした。
「…………何だこれ? 小型のマッサージ機? いや、それにしては変な形だな。さっきちょが丸形で2つ付いてて……何かの動画で見たことある形だ。それに更に置くにも何か……」
俺はソファーの奥にも手に突っ込んで、その何かを取り出した。
「いかがわし本に柊と萌萌が一緒に何かをやっている写真?……何だこれ。何でこの2人風呂場とベッドで……」
「お待たせー! お風呂の準備出来たから。先に入って良いよー」
「オラアァァ!!」
俺は手に持っていた。アンタチャブルの数々を自分の鞄の中に咄嗟に入れてしまった。
「ど、どうしたの? 突然、叫びだして? お腹でも痛くなった?」
「い、いや。何でもない。そ、それよりも風呂。先に入って来て、良いんだよな。い、行かせてもらうわ。ありがとう」
「う、うん。ゆっくり入って来なよ」
「ああ、分かった……」
俺はその場から逃げる様に風呂場へと向かった。あんな代アンタチャブルな物。何で俺は自分の鞄に入れてしまったんだろうか?
「フ、フ、フ……素直にお風呂に行ってくれたね。士郎君。待ってて、直ぐに準備を済まして来るからさ」
◇
「なんて事があって。ボーッとしてたら昔の事を思い出してたんだよな」
西蓮寺萌。本当の俺の幼馴染みにして、ボーイッシュ少女、頭の回転が速い、カッコ可愛い、凪の親友………そして、柊の真の恋人か。
萌萌と柊が一緒に写ってる写真、いかがわしそっち方面の本、変な形の道具。
成る程。我、心理を得たり………柊は俺と付き合っている事を隠れ
萌萌と柊が。いやわからないけどな。柊は萌萌の家にかなりの
「俺は多様性を大事にするタイプの男。応援しよう、そうしよう。そして、俺と凪は晴れて付き合え……」
ガラガラ……
凪ルートの確定の喜びを叫ぼうとした瞬間。お風呂場の扉が突然、開いた。
「お、お待たせ。士郎くん。君の萌ちゃんがお、お背中を流しに来てあげたよ」
「………は?」
裸の状態でバスタオルを巻き付けた萌萌が、赤面しながら立っていた。
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