ストレートネック

さくらい まもる

-ストレートネック-

彼はそこに立っていた。

微動だにせずに。立っていた。

私が彼の存在を知ったのは、6才の頃だった。


「至誠 勤労 分度 推譲」

当時の私には、どれも難しくて、

よく分からなかった。


薪なのか柴なのか。どちらかはっきりしないが重たい荷物を背負いながら、なんだか難しそうな本を読む彼の姿に憧れていたことだけは覚えている。でもそれはきっと、本を読んでいるってことがとっても賢い人にしかできないことだって本気で思っていたからだと思う。


彼のことが分かるようになってきた頃には

彼の居場所は奪われるようになっていた。

ビジネスバックを持って、スマホを片手に歩く人が増えた。働いたら負け。静かな退職。子どもは嗜好品。超高齢化社会。奨学金問題。


暗い言葉が飛び交う中

社会に還元するという思考は

もはや幻想なのかもしれない。


彼がもし現代にいたとしたら

どんな策を打つのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ストレートネック さくらい まもる @sakurai25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ