第19話ベンツベンツうるせーな急に説教してくんじゃねえよ

タニヤマ「失礼。タバコを吸ってもよろしいかな?」


ソトナカ「は?」


タ「タバコ、吸ってもよろしいかな?」


ソ「いや…この部屋禁煙なんでダメです。」


タ「…話し進まんから、どうぞって言って。」


ソ「なんで?」


タ「いいから。」


ソ「…どうぞ。」


タ「どうも。ところで一日に何本くらいお吸いに?」


ソ「いや、吸ったことないです。」


タ「…話し進まんから、適当に合わせて。」


ソ「…ふた箱くらいですね。」


タ「喫煙年数はどれくらいですか?」


ソ「いやだから…30年くらいです。」


タ「なるほどなるほど。ところで、窓の外にベンツが停まってますね。」


ソ「あれは軽自動車ですね。」


タ「…。」


ソ「…ベンツが停まってますね。」


タ「もしあなたが煙草を吸わなければ、あれくらい買えたんですよ。」


ソ「いやグダグダやんけ。何がしたいんや。」


タ「いや…ベンツが買えたんだなって…。」


ソ「どっからどう見ても薄汚れた中古の軽やろ。」


タ「いや、でも、ベンツが…。」


ソ「ベンツベンツうるせーな。なんで急に説教しようと思ってん。」


タ「日常に隠れた無駄な消費を指摘するとともに得られたであろう輝かしい未来を見せることで他人に気付きを与えたかったんや。」


ソ「急に饒舌やん。こわっ。」


タ「なんかネットでこんな感じで偉そうに言ってる人見て、俺もやってみたいなって。」


ソ「だとしたら、もうちょいアレンジしろや。なんで喫煙者じゃない俺にタバコの話題持ってきてん。」


タ「シーシャの方がよかったか…。」


ソ「いやシーシャも吸ってないんだわ。」


タ「あー、なんかいい感じにウィットに富んだこと言って他人にマウント取りてー。そんでなんか不特定多数に知識人として認知されて一目置かれてー。」


ソ「性根が腐りきっとるやん。自爆する前のセル並みに承認欲求が膨らんでるやん。俺とお前の2人しかいないこの部屋でマウントとっても意味ないやろ。」


タ「あーつまんな。ネトフリ見よ。」


ソ「フリーダムすぎるやろ。」


タ「やっぱ地面師おもろいな。ネットでイキってるやつの真似はやめて、俺も最もフィジカルで最もプリミティブで最もフェティッシュな地面師を目指すか。」


ソ「洗脳レベルで物事からの影響を受けるやん。…てかお前ネトフリ以外にもサブスク入ってなかったっけ?」


タ「ん?ああ、アマプラとHulu入ってるな。」


ソ「動画配信サービス以外のサブスクは?」


タ「推しのメンバーシップとか、noteのコミュニティとかかな。…ん?」


ソ「なるほどなるほど。入会して何年くらいですかな?」


タ「2年くらいやけど…おい、まさか…。」


ソ「なるほど。ここにセイコーの時計がありますね。」


タ「やめろ…やめろ…!」


ソ「もしあなたがサブスクを契約しなければ、これくらい買えたんですよ。」


タ「ぐわあああああああああ!」


ソ「遊戯王のライフ削られるときみたいに叫ぶやん。ま、お前は人にマウント取る前に、自分自身を見つめなおすことやな。」


タ「うぅ…。ソトナカ…。」


ソ「なんや。少しは学んだか?」


タ「その時計、リースで貸してくれん?」


ソ「性根が腐りきっとるやん。」

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