第20話強さと優しさって両立するんだ

タニヤマ「あーイライラする!あたい、もうどうにかなっちゃいそう!」


ソトナカ「もう既になってるやん。」


タ「聞いてくれるか、あたいのストレスフルライフを。」


ソ「聞きたくねぇ~…。」


タ「最近バイト先でクレームが多いんよ。やれ料理の提供が遅いだの、店員の接客が無愛想だの。それで、バイトリーダーの俺がちゃんと教育してへんからやろって、店長にめちゃくちゃ怒られんねん。」


ソ「ん?ミスした個々人に怒るんじゃなくて、お前が怒られるん?」


タ「そう、一旦俺が全てを受け止めて、その後に俺が各々に注意すんねん。」


ソ「そんな中間管理職みたいなことやってんだ。」


タ「そう、だからめっちゃストレス溜まるねん。」


ソ「なるほどなぁ。」


タ「そんで、今度本部から視察が来るから、絶対にその日だけはヘマすんなよって日にな、新人がボヤ騒ぎ起こしたんや。」


ソ「ヘマっていうか、事件やん。」


タ「マジでやばかった。本部の人、カツラ燃えてたし。」


ソ「おもろ。」


タ「なんもおもろくないわ。そのミスも俺が怒られたし。だから今日という今日は俺も堪忍袋の緒が切れてな。そいつの肩を叩いて…。」


ソ「おお。」


タ「あんま気にすんなよって言って、後処理を手伝ってやったんや。」


ソ「え、優し。ぶん殴ったんかと思ったわ。」


タ「そんなことせんよ。確かに俺小中高と空手やってたけど、この両手は人を傷つけるためではなく、人を守るために鍛えたから。」


ソ「強さと優しさって両立するんだ。」


タ「でもまあ、このくらいだったら別に大したことないのよ。もっとムカつくことがあって。」


ソ「これ以上があるんかい。」


タ「さっきのは1週間前の話でな。昨日、俺がちょっと釣り銭ミスってしもうてん。でもまあ、いつもみんなのミスカバーしてるからドンマイって言われるかと思ったわけよ。」


ソ「まあ普通はそうやな。」


タ「でも店長ときたら、いつも以上にブチぎれるわけよ。バイトリーダーのお前が何してんねんって。あんまりやろこんなん。」


ソ「あ~それは確かに辛いな。」


タ「しかもここで終わらんねん。説教終わった後に、前にかばってあげた新人がな、『しっかりしてくださいよ。』とか言ってくんねん。」


ソ「めっちゃ腹立つやん。なんやねんそいつ。」


タ「しかもニヤニヤしながら肩叩いてくるわけよ。せやから流石に我慢の限界がきて…。」


ソ「おう、いてもーたれ!」


タ「次からは気を付けるわ、ごめりんちょ☆っておどけて言ってやったんや。」


ソ「いや大人かよ。そこはなめんなよってどつきまわすとこやろ。」


タ「いやいや、冷静に考えていちいち怒っても損やん。多少嫌味言われても我慢した方が上手くいくよ。」


ソ「ひょうきんさと冷静さって両立するんだ。」


タ「でもまあ、こっからもっとムカつくことがあって。」


ソ「まだあんの?」


タ「今日はなんと、その嫌味言ってきた新人がミスしてん。俺が昨日注意されたのと全く同じことをやで。流石に店長も俺じゃなくて新人に直接キレてな。」


ソ「おお、因果応報ってやつやん。」


タ「そうは言っても、まだ新人やし可哀想やん?だから俺が間に入って一緒に謝ってあげたんよ。」


ソ「優しいなぁ。」


タ「そしたら説教終わった後になんて言ったと思う?『余計なことせんでください。』って言ってきたわけよ。」


ソ「流石にクソすぎるやろそいつ。」


タ「せやろ、流石に俺も我慢の限界がきてな…。」


ソ「やったれやったれ。そんなやつ痛い目見た方がいいわ。」


タ「ごめんな。また困ったことがあったら頼ってなって言ってやったんよ。」


ソ「いや優しすぎるやろ!神様の域に達しとるやん、お前の精神。」


タ「いやいや、まだ道半ばの後輩を助けるのが先輩の務めやん。ま、かく言う俺もまだまだ人に助けてもらってばかりやけど。」


ソ「神聖さと人間らしさって両立するんだ。」


タ「ま、そんなこんなで俺はストレスフルな生活を送ってるわけよ。」


ソ「想像以上だったわ。話の内容もお前の懐の深さも。」


タ「今月からはお店も繫忙期で、今まで以上に頑張ってくれって言われてるしな。」


ソ「すごいな。めっちゃ頼りにされてるやん。」


タ「でも今月からテスト期間に入るやん?せやから言うてやったんよ。」


ソ「お、精一杯頑張りますとかか?」


タ「いや、しばらくバイト休みますって。」


ソ「そこは両立せんのかい。」

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ショートショート集:タニヤマとソトナカ @anki_igarashi

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