扉をくぐった先にあったのは、お世辞にも綺麗とは言えない街だった。現実世界、だよね…?自販機の横のごみ箱からはペットボトル以外のごみがあふれ、その中から老人が缶を仕分けている。古びたアパートには電気がついているが、2階へ上がる外階段は今にも崩れ落ちそう。
「現実世界は今、夕方の5時です。夏のこの時間はまだまだ明るいですね。朝倉さん、封筒の中の書類出してもらえますか?」
「あっはい」
中にはA4サイズの紙が2枚と、葉書が1枚入っていた。
「…これ、地図…ですか?」
「はい。配達先の人物の近くまでは来ることが出来るのですが、細かい場所までは送り届けられないんです。この地図は現実世界で言うGPS機能のような役割を果たしてくれているので、相手が動いても追っていくことが出来ます」
「え、葉書ってポストに届けるんじゃないんですか?」
てっきり家の郵便受けに投函するものだとばかり思っていた…人に直接届けるとは。
「えぇ。これは生きている人の”意識”に届けるんです。もちろん葉書そのものがその人の手に取られることもありません。そのため、私たちが直接”意識”に届けに行くのです。今のところ、その人は動いていなさそうですね」
「そうですね…ん?これは…」
「そちらが、今回の送り主と届け先の人物について書かれた書類です」
『渡辺凛(わたなべりん) 8歳
家族構成:渡辺実里(わたなべみのり) 30歳
渡辺亮(わたなべりょう) 12歳 12歳の時に栄養失調により死亡。届け出はされていない。
現在母親とその恋人と暮らしている。町内の小学校に通っていたが………
こちらの世界での労働の対価として、渡辺亮から妹・渡辺凛に葉書を送付する。』
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