「…このお兄ちゃんは、無くなっているという事、ですよね…しかも、栄養失調…」
「このような配達は案外多いものなんです。悲しい事ですが…」
「これ、言ったら虐待ですよね!?兄弟そろって、そんな、」
「そうですね…あと、この”届け出はされていない”というのは、おそらく亡くなったことをこの家族以外知らないんじゃないでしょうか。おそらく、本当に届け出をしていない、救急車も呼んでいない…警察も知らない」
「親が、隠していると…?」
「そういう事だと思いますよ。少なくとも亡くなってから1年もたっていないという事ですから…。すみません朝倉さん、わざと子供への配達を選んだわけではないのですが…」
どうしてか、田所さんが申し訳なさそうにしている。あぁ、私のトラウマを心配して責任を感じてしまったのだろうか。
「大丈夫ですよ。私、なんだかんだ子供は好きですから」
この言葉に嘘はない。もし、恵まれた環境で子供と接する仕事をもらえたのならば、私はきっと楽しそうにしていると思う。今すぎは無理かもしれないけれど…
でも目が覚めて仕事に戻った時、私は平常心でいられるだろうか。クラスの子供たちの顔を見た途端に投げ出してしまうかもしれない。この世界で冷静になってしまったから、もう戻れないかもしれない…
「そうですか…では、配達をしましょうか」
地図通りに進んでいくと、古びたアパートが見えた。お世辞にも綺麗とは呼べない建物の前に、1人の女の子がしゃがみこんでいた。動く地図は、この女の子を指している。この子が、渡辺凛…
「…細いですね」
「えぇ…お兄さんと同じく、栄養失調に近いでしょう」
地面に木の枝で絵らしきものを描いている彼女の腕は、びっくりするほど細い。ランドセルを持っただけで折れてしまいそうな程だ。貧しさというより、虐待というくらい文字が見え隠れするのは、顔にできた痣のせいだろう。現実世界で出会っていたら、思わず自分の家に呼び寄せてしまっていたかもしれない。
「ここから、どうするんですか?」
「葉書をもらってもいいですか、これを彼女の額に当てます」
田所さんは封筒から取り出した葉書を、彼女の薄汚れた額にあて、何やら呪文のような言葉を並べ始めた。
「難ある日々、ご苦労様です。
どうかあなたに、幸運が訪れますように。
私の時間に代えて、あなたに幸あれ」
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