そこまで言うと、彼の顔が少し曇ってしまった。あまり聞いてはいけない、そんなふうに感じた。はっとなって、会話を無理やり元へと戻した。
「あのっ、ここはどう言った場所なんですか…?」
「あぁ…すみません、ご説明がまだでしたね。先ほど申し上げました通り、ここは”意識と死の狭間の世界”である”幽便局”です。資料にもある通り、あと20日で朝倉さんは目を覚ますことになる予定ですね。見た通り、現実世界の郵便局とほとんど変わりないと思います。ただ、来ていただいた方には”幽便局”で仕事をするかどうかを決めてもらっています」
「仕事…あるんですか?」
「はい。お願いするお仕事は主に配達です。現実世界では生きている人間同士で葉書のやり取りをしますよね。そしてそれを運ぶのが郵便局で働く人達の仕事です。ここでは”死んだ人間からの葉書を生きている人間の意識”に届けるのが仕事なんです」
生きている人間の意識に、葉書を届ける。
「…そんなことが、出来るんですか」
「この世界ならできちゃうんです。配達とは言っても、”意識”に届けるので、生きている人にはっきり伝わるわけではありません。日常生活で、何か今日はここに行かない方が良い気がする。とか、亡くなったあの人が夢でこんなことを言っていた。なんて経験ありませんか?」
「あぁ…まぁなくはないですね」
「全部とは言いませんが、そのほとんどは亡くなった方からのメッセージなんです。死者にもここと同じような空間があります。そこでの労働の対価として、生きている人間にハガキを送ることができるということです。その中間地点にいるのが我々という訳ですね」
「はぁ…」
死者にも世界があるんだ…そういう小説とかドラマとか良くあるし、作り物の世界だと思ってたけど、実際にあるものなんだ…いや、ここ自体が不確実な場所だった。
「もちろん、幽便局で働いても報酬はあります」
「えっ?」
「労働していただければ、意識が戻った後の体の回復を助けてくれるようです」
…そんないい話、あっていいの?
「ドキュメンタリーなどで“奇跡の回復!”などと驚かれている人、たまにいてますよね。リハビリを頑張ったというのもあるでしょうが、ほとんどの人は意識不明の間にこちらの世界で働いていた方になります」
「へぇ…凄い、」
「とてもいい話だと思います。そして、もう一つ選択肢がありまして…労働はせずに、そのまま眠り続けるという方法もあります」
「…でも、そんなのもったいなくないですか?せっかく報酬貰えるのに、」
「実は、そのまま眠りにつけば予定より幾分か早く目覚めることができるのです。早く家族に会いたい方や、急ぐ用がある方もいらっしゃるので、ここに来る8割くらいの人がこちらを選択します」
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