「朝倉さんは学校の先生でいらっしゃいますね」
「はい…わたし、どうしたらいいんですか?授業に穴なんて開けられないし…」
「熱中症で意識不明ですからね、かなり重度だったんだと思いますよ。それに、心身ともに弱っていたのではないですか…?色んな要因が相まって重症になったんだと思います」
「えっ…?」
「かなり、表情が沈んで見えます。教師という職業は、いろいろ神経を使うでしょう。幼児とは違ってちゃんとした会話ができる分、心無い言葉や行動をしてしまう子も多いですからね。本当に、お疲れ様です」
まるで私の心の中を見透かしているような言葉にドキリとしてしまう。でも、なんだろう…体の中に溜まっているものを掻き出そうとしてくれるこの優しい声は。まだ出会って数分足らずだというのに、田所さんは私の気持ちを落ち着かせてくれた。
「…さっき目が覚めた時、ほっとしたんです。学校じゃなくて良かった、子供が目の前にいなくて良かったって…憧れて、子供が好きで小学校の先生になったのに、今は…この仕事が、怖いんです、」
…言葉が、勝手にあふれてくる。どうしよう、止まらない…
「先生に対するいじめなんて、ニュースの中の話だって勝手に思ってた。世の中には大変な思いをする先生もいるんだなぁ…最初はそう思ってました…教師初めてだいぶ経ちますが、ここ2年は、もう、毎日…生きた心地がしませんでした…
子供の成長を見ていたくて教師になったのに…毎日何も感じられなくなって、何も見たくなくて、それでも仕事は止まってくれないし、突然休んだら、他の先生たちに迷惑掛かっちゃうし、どうしたらいいのか、分からなくて、」
無理だ。言葉も涙も、止まらない…私が涙と言葉をボロボロと溢すのを、田所さんは静かに頷きながら聞いてくれた。
「子供って、私たちが思っているより賢いですよね。これをしたらあの人は困った顔をする、注意を無視し続けたらいつかなにも言わなくなる。それが面白いって、一度それを覚えてしまうと、大人の手に負えないこともありますよね。だからと言ってこんなご時世ですから、手を出してわからせることもできないですし、本当大変ですよね…」
「大変、です…すみません突然こんなこと言われて、面倒ですよね、」
初対面の男性に、自分のことをこんなにも話すなんて申し訳ない。こんな話、聞いていても楽しくないのに。
「とんでもごさいません。ここに来られる方のお話を聞くのも、私の役目ですから。それに、私も子供と関わることが多かったんです。少しはお気持ち、わかります」
「そうなんですか?」
「えぇ…」
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