扉の先には、まるで市役所のような…いや、どちらかというと郵便局の様な空間になっていた。


①幽便

②貯金

③保険

④その他


 ④の窓口では、男の人が年配の女性に何やら説明をしている。ここは、私が今まで見て来た郵便局そのものだった。何、私郵便局の中で寝てたの!?もしかして、ここで急に倒れて介抱してもらっていたとか…?だとしたら、とんでもない迷惑を…


「では、お大事になさってください」

「ご親切に、ありがとうございました」

「…あ、すみません気づけなくてっ。お疲れ様です」

「え、えと…あの…お疲れ様、です?」

「朝倉美佳さんですね、資料は届いています。立ちっぱなしもなんですから、④の窓口へどうぞ。今お茶入れますね」

「は、はぁ…」

 言われるがままに④の窓口へ座ったはいいものの、不可解なことが多すぎる。どうして名前を知られているの?というか書類って何?さっきの女性は音も出さず、いつの間にかいなくなっていた…歩いて行った方には扉なんてなかったような気がするんだけど。

「お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます、」

「私、ここの管理をしております田所と申します」

 ワイシャツにカーディガンを羽織った彼は結構背が高く、ニコニコと柔らかい笑顔で名札を見せてくれた。

「田所さん…えぇっと…」

「あ、すみません色々ご説明しますね。朝倉美佳さん、あなたは昨日の午前11時ごろに学校の校庭で熱中症が原因で意識不明となりました」

「意識、不明…?でもいま、普通に歩けてますけど、」

「ここは”ゆうびんきょく”なんです。とは言いましてもこういう字を書きます」


”幽便局”


「…なんですかここは。私っ、学校に戻らないと…」

「残念ですが、戻るのは少し後になりそうです」

「どうしてっ…!私、元気ですよ?」

「ここは”幽便局”です。現実世界とは別物なんです。幽便局は”意識と死の狭間の世界”に存在します。何かしらの要因で意識不明となった人のみが来ることのできる場所なのです」

 目の前の彼は柔らかな表情を崩さないでそう告げた。意識と死の狭間の世界?そんなものが存在するなんて信じられない…でも、夢を見ているにしてはすべてがリアルで、現実味を帯びている。頭では反論したいのに、体がその事実を受け入れようとしている。

「信じられないかもしれないですが、事実です。朝倉さんは、あと20日で目を覚ます予定となっていますので、それまでの間こちらの世界で過ごしてもらう事になります」

 差し出された資料には、確かに私の名前と目覚める予定日が記入されていた。意識不明の原因は熱中症…11時ってことは…あぁそうか、体育の授業の途中だったんだっけ。

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