『俺達のグレートなキャンプ14 素手で絞ってジュース作り』
海山純平
第14話 素手で絞ってジュース作り
俺達のグレートなキャンプ14 果物絞り
夏の太陽がカンカン照りつける山梨県のキャンプ場。セミの鳴き声がうるさいくらいに響き渡る中、石川、千葉、富山の三人が車から荷物を降ろしていた。
「おい、千葉!富山!今回のグレートなキャンプの内容をついに発表するぞ!」
石川は悪魔的な笑みを浮かべながら、妙に重そうな大きな段ボール箱を両手で持ち上げ、ドヤ顔で仲間たちの前に立ちはだかった。
「わあ!今回は何をするんだい?」と千葉が子犬のように目をキラキラさせて石川に駆け寄った。
一方、富山は微妙な距離を保ちながら警戒している。前回の「ドローンで木にテントを吊るす」企画でテントが途中で落下し、着替えを全て川に流された彼女にとって、石川の「グレートなキャンプ」という言葉はPTSDの引き金でしかなかった。
「今回はね…」石川は箱の中身をキャンプテーブルにドサッと出した。「素手で果物を絞ってジュース作り大会だ!イエーイ!」
そこには山盛りのオレンジ、リンゴ、パイナップル、ブドウ、スイカ、マンゴー、キウイなどがてんこ盛りに入っていた。
「え…それって…」富山は眉をひそめて箱の中身を見つめた。「普通にジューサーとか持ってきたほうが…その…効率的じゃない?」
「いやいやいやいやいやいや!」石川は両手を大きく振りながら否定する。「それじゃあグレートじゃないだろ!」石川は急に真面目な顔になり、指を立てて熱く語り始めた。「考えてみろよ!野生の大地で、文明の利器に頼らず、原始的な方法で果物の恵みを受ける!先人たちはこうやって生きてきたんだぞ!これこそがグレートなキャンプの神髄ってもんだろう!」
千葉は既に興奮して跳ね回っていた。「めっちゃ面白そう!僕、リンゴから挑戦してみたい!あの赤くてツヤツヤした果実から自分の手だけでジュースを作るなんて、なんかワイルドだね!」
「その意気だ!」石川は千葉の肩を力いっぱい叩いた。千葉が前のめりになりそうになる。「このキャンプ場には水道があるから手洗いもバッチリ!衛生面も問題なし!グレートだろ?」
富山は頭を抱えながらも、二人の異常な盛り上がりに徐々に巻き込まれていく。「まぁ…前回の『川で素手で魚を捕まえて料理する』企画よりはマシかな…」
テントを設営し、キャンプの準備が整った午後2時。
「じゃあ、素手でジュース作り大会、スタートだ!」
石川は赤いバンダナを頭に巻き、気合十分に腕をまくりながら宣言した。三人はそれぞれテーブルに向かい、自分が絞りたい果物を選んだ。
石川はオレンジ、千葉はリンゴ、富山はブドウを選んだ。
「まずはオレンジから行くぞ!」石川は果物ナイフでオレンジの皮を器用に剥き、両手で持ち上げた。「見ろよ!これからこのオレンジから俺の力だけでジュースを絞り出すぞ!ウォーーーッ!」
石川はまるで龍珠を放つかのような気合の入った掛け声とともに、オレンジを両手で全力で握りしめた。オレンジからはミシッという悲鳴のような音とともに、オレンジ色の液体が石川の指の間から滴り始めた。
「おおっ!出る出る!ジュースが出てくるぞ!」石川の顔には狂気じみた喜びが浮かんでいる。
「うおおおおおっ!」全力でオレンジを絞る石川の腕の筋肉が浮き出て、額には汗が流れ落ちていた。まるでボディビルダーのポーズを決めているかのような姿勢で、彼は果物との格闘を続けた。
果汁はプラスチックのカップに次々と絞り出されていく。石川の手はオレンジ色に染まり、果肉のカスが腕を伝って肘まで達している。
「ほら見ろ!これがグレートなキャンプだ!自然との一体感を感じるぜえええっ!」石川は絞りカスになったオレンジを高々と掲げ、勝利者のように叫んだ。
一方、千葉はリンゴに全く歯が立っていなかった。
「石川さん、リンゴ、全然出ないよ…」千葉は赤くなった顔で言った。彼の手はリンゴよりも赤くなり、指には痛々しい跡がついている。しかしリンゴはほとんど形を変えず、ジュースも数滴しか出ていなかった。
「うぐぐぐ…なんで出ないんだああ!」千葉は全体重をかけてリンゴを押しつぶそうとしたが、リンゴは微動だにしない。
「あー、リンゴは硬いからなぁ」石川は腕を組んで考え込む。「よし、じゃあリンゴは一度小さく切り刻んでから絞ろう!それなら原始人でもやってたはずだ!」
石川のアドバイスに従い、千葉はリンゴを小さく切り、今度は本気で絞り始めた。全力で力を込めると、少しずつジュースが出てきた。
「出た出た!これはリンゴジュースだ!」千葉は手が真っ赤に染まり、果汁と汗でびっしょりになりながらも嬉しそうに飛び跳ねた。
富山はブドウを一粒ずつ潰していた。最初は「こんなバカげたこと」と思っていたが、ブドウが指の間で弾ける感触に妙な満足感を覚え始めていた。
「意外と…楽しいかも」彼女は小声でつぶやいた。
そこへ突然、石川が大声を上げた。
「よーし!次はパイナップルに挑戦するぞ!」
「え、パイナップル?」富山は目を丸くした。「あの硬いトゲトゲの皮をどうやって…」
「もちろん皮は剥くさ!」石川はナイフを取り出し、パイナップルの皮を剥き始めた。「でも中身は生きた証として、この手の力だけで絞り出すんだ!」
皮を剥いたパイナップルは、黄色い果肉がむき出しになって輝いていた。石川はそれを前に、まるで宿敵と対峙するかのような緊張感のある表情を浮かべた。
「いくぞ…パイナップル…てめえの果汁、この石川が絞り出してやる!」
石川はパイナップルを両手で持ち上げ、全身の力を込めて握りしめた。
「ぐああああああっ!」
しかしパイナップルの表面の硬さと繊維質の中身は、簡単には負けてくれない。石川の手はパイナップルのトゲで傷つき、ジュースはほとんど出てこなかった。
「くそおっ!なめるなよパイナップル!」
石川は顔を真っ赤にして、さらに力を込めた。額の血管が浮き出るほどの力で、ついにパイナップルが「ミシッ」という音を立てた。
「おおっ!来たぞ来たぞ!」
パイナップルの繊維が少しずつ崩れ始め、甘酸っぱい香りが漂い始めた。石川は全力でパイナップルと格闘し、汗と果汁が混ざり合って滴り落ちる。
「俺は…負けない…!ウオオオオッ!」
ついにパイナップルが屈服し、黄色い果汁が石川の腕を伝って流れ始めた。
「勝ったあああ!」石川は勝利の雄叫びを上げた。しかし彼の手は傷だらけで、パイナップルの酸による痛みで顔をしかめていた。「いてててて…でもこれこそ男のロマンだ!」
千葉は感動で目を輝かせていた。「石川さん、すごい!僕もパイナップルに挑戦したい!」
「お前、自分の手の惨状を見てみろよ…」富山はため息をつきながら、千葉の傷だらけの手を指さした。
するとそこへ、隣のキャンプサイトから小さな男の子が興味津々で近づいてきた。
「おにいちゃんたち、なにしてるの?」
石川はパイナップルの果汁まみれの手で顔の汗を拭いながら、ニッコリと笑った。「僕たちは素手で果物を絞ってジュースを作ってるんだよ!やってみる?」
男の子の目が輝いた。「やりたい!」
男の子はオレンジを選び、小さな手で精一杯絞り始めた。顔を真っ赤にして力を入れる姿に、三人は思わず応援し始めた。
「がんばれ!もっと力入れて!」
「そうそう、そこを押すと出やすいよ!」
「ほら、出てきたじゃないか!」
男の子の手からポタポタとオレンジジュースが滴り落ち、彼は大喜びした。
そして驚くことに、男の子の両親も興味を示し、他のキャンプサイトの家族も次々と集まってきた。
「これ、子どもの夏休みの自由研究にいいかも!」
「自然の中で作るジュースって、なんか特別感あるよね!」
「私も挑戦してみようかな?」
石川のグレートなキャンプは、あっという間に周囲のキャンパーを巻き込む大イベントに発展していった。
「スイカ絞り大会、スタート!」
気がつけば、キャンプ場の中央に大きなブルーシートが広げられ、老若男女がスイカを持って格闘していた。石川は突如、司会者モードに変身していた。
「皆さん、力の限り絞りましょう!文明の利器に頼らないこの感覚、先祖返りしてませんか?これぞキャンプの醍醐味ですよ!」
石川の熱狂的な煽りに、みんな夢中になってスイカと格闘している。子どもたちは歓声を上げ、大人たちも童心に返って必死に絞っていた。
「僕の手からスイカジュースが出てる!」
「わあ、ブドウって潰すの気持ちいい!」
「パパ、見て見て!オレンジが出たよ!」
富山はそんな光景を見ながら、呆れつつも微笑んでいた。「石川って、本当にバカだけど…なんか周りを幸せにする才能あるよね」
そこへ千葉がやってきた。彼の腕はまるで戦場から戻ってきた兵士のように、様々な果物の汁で染まりあげられていた。
「富山さん!次はスイカに挑戦しようよ!」
「えっ、私?いや、私はブドウで十分…」
「遠慮しないで!」石川が大きなスイカを持ってきた。「せっかくのグレートなキャンプだぞ!思い出作りだ!」
意を決した富山は、スイカに向き合った。「よし…やってみる」
富山は両手をスイカに押し付け、全力で力を入れ始めた。最初は何も変化がなかったが、徐々に力を込めていくと、スイカから「ブシュッ」という音とともに赤い汁が噴き出した。
「わあっ!」富山は驚いて後ずさりしたが、その姿を見た周りのキャンパーから大きな拍手が沸き起こった。
「富山さん、すごい!」千葉が叫んだ。「スイカが降伏したよ!」
富山は照れくさそうにしながらも、達成感に満ちた表情を浮かべていた。「なんか…言われてみれば、原始的だけど面白いかも…」
夕暮れ時、キャンプ場は素手で絞ったカラフルなジュースでいっぱいのカップを持った人々であふれていた。皆の手は果物の色で染まり、服もジュースでシミだらけになっていたが、誰も気にしていない様子だった。
「皆さん、今日は遊びに来てくれてありがとうございました!」石川は即席で作ったダンボールの台の上に立ち、マイクを持っていないのに司会者のように話し始めた。「これが俺たちのグレートなキャンプの真髄なんです!自然と格闘し、自分の手の力だけで果実の恵みを受ける。そして何より、みんなで一緒に楽しむこと!」
拍手が沸き起こる。
「石川さん、またやっちゃいましたね」富山は半ば呆れ、半ば感心した表情で言った。彼女の前には自分で絞ったスイカジュースが入ったカップがあった。
「さすが石川!今回も大成功だな!」千葉は手が真っ赤に腫れあがり、バンドエイドを何枚も貼りながらも嬉しそうだ。「でも次は何をするの?」
「これこそがグレートなキャンプの真骨頂!」石川は誇らしげに胸を張る。「でも、次はもっとスケールアップするぞ!」
「次はどんなグレートなキャンプになるんだろう」千葉は期待に目を輝かせる。
「次回は…」石川は急に声を低くして、ミステリアスな雰囲気を醸し出した。「『キャンプ場で手作り竹筏で川下り』だ!」
富山のカップが落ちる音と悲鳴が同時に響いた。
「ええーーーっ!?冗談でしょ!?あの急流を!?」
しかし、既に石川と千葉は興奮して計画を立て始めていた。
「竹はあの林で調達して、ロープは…」
「僕、ライフジャケット持ってるよ!」
「よし!次回も絶対グレートなキャンプになるぞ!」
富山はため息をつきながらも、二人の楽しそうな様子に思わず微笑んでしまう。「まったく…懲りないんだから」
夜、三人はキャンプファイヤーを囲んでいた。炎の明かりに照らされた石川の顔は、まるで子供のように無邪気に輝いていた。
「今日のジュース作り、どうだった?」石川が尋ねた。
「最高だったよ!」千葉は自分の手を見せる。「傷だらけになったけど、それも思い出だよ!」
「私も…意外と楽しかった」富山は照れくさそうに認めた。「あの子どもたちの笑顔を見ると、やってよかったなって思う」
「そうだろ!」石川は満足そうに笑った。「ただ座ってビールを飲むだけがキャンプじゃない。みんなで一緒に汗を流して、何かを作り出す。それがグレートなキャンプなんだ!」
「でも次の竹筏はちょっと…」富山が心配そうに言いかけると、石川はすかさず割り込んだ。
「心配するな!俺がついてる!何が起きても全力でカバーするから!」
その言葉に富山はツッコミたかったが、石川の真剣な表情に言葉を飲み込んだ。結局、この男は自分たちを幸せにするためにバカなことを考え出すのだ。それが石川であり、彼らのグレートなキャンプの本質だった。
「じゃあ、今日の『素手で果物を絞ってジュース作り大会』の成功を祝して、乾杯だ!」
三人は自分で絞ったジュースが入ったカップを持ち上げた。
「かんぱーい!」
星空の下、彼らのカップが高らかに打ち合わされた。手は痛いし、服は汚れているし、明日の筋肉痛は確実だ。でも三人の顔には、どこにも行けないような満足感があふれていた。
翌朝、片付けを終えた三人は車に荷物を積み込んでいた。
「ね、石川さん」千葉が聞いた。「次回の竹筏川下りの計画、もう考えてるの?」
石川は意味深な笑みを浮かべた。「もちろん!素材調達から設計図まで、全部頭の中にあるぞ!」
「え、マジで!?」富山は驚いた。「あなた、本当に竹筏作ったことあるの?」
「ないけど、YouTubeで見たから大丈夫!」石川は自信満々に言った。
富山の顔から血の気が引いた。「YouTube…だけ…?」
「心配するな!グレートなキャンプに失敗はない!」石川は富山の肩を力強く叩いた。「それに、沈んだら泳げばいいだけだろ?」
「私、泳げないんですけど…」富山はか細い声で言った。
「えっ!?」石川と千葉が同時に驚いた顔で振り返る。
「だ、だから次回は私はちょっと…」
「よーし!それなら絶対に沈まない最高の竹筏を作ってやる!」石川は握りこぶしを作った。「富山のために、今までで一番グレートな竹筏を作るぞ!」
「僕も手伝うよ!」千葉も張り切った。
富山はため息をついた。「どうしてこうなるの…」
車に乗り込み、キャンプ場を後にする三人。石川はハンドルを握りながら、サングラスをかけてニヤリと笑った。
富山は既にライフジャケットをネットで検索し始めていた。
こうして、彼らのグレートなキャンプは続いていく—。
(完)
『俺達のグレートなキャンプ14 素手で絞ってジュース作り』 海山純平 @umiyama117
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