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私は、冷静にならないといけない。

しっかりしなくては。嫌なことは考えるな、できるだけ、正しく。…冷静に。

ルネさんは私に目を合わせず、少しうつむきがちに話しだした。

なにかに落胆したような顔だ。


「わたし、ダリアを刺した。それで、この本のとおりにしようとおもったの。…たおれたから、剣で首を切り落とした」


剣で首を切り落とした。鉄の剣で。

…鉄の剣、しかも首を切り落とせるサイズとなると、だいぶ大きなものになるだろう。

それはどこから用意されたもの?…ダリア、と言う使用人はどうやってそれを持ってきたのだろう?


「その剣は、どこから持ってきたものなか分かりますか?」

「わたしのいえにあるよろいの置物の手…からだとおもう。みためも同じだったし、重さも多分、同じ」


ふっと、笑みを浮かべている。

子供がするような笑みではなく、どこか悟ったような、何でもわかっているような笑みだった。


「持てたんですか?それに、振るうことはできたんですか?」

「うん」


(…怖…持ったし振るったし、私でも持てなさそうなのに)

この少女は本当に何者なんだ?


「びっくりしてるみたいだけど、わたしの家、戦争のおかげで地位をもったから、これくらいふつうなの」

「は、はぁ」


戦争で戦績を上げた家系、騎士団とかの偉い人とか…調べないと分からないけど、そんな家系なのか。なら、何故ルネさんのお兄さんは、使用人なんかに殺された?


「お兄さんは何故、ダリアさんに?」

「…隙のおおい人だった。それだけだよ」


それだけで…殺されたのか?

そこには何かあったはずだ、でも、それをルネさんは教える気が無いみたいだし。

(…分からないのかもしれないけれど。)

これ以上聞いても話してくれ無さそうだ。

他の質問を。…しよう。


「それで儀式に…つ、使うはずの…ぁ、あとの九人は…」


うわずった声を抑えて、続けて声を出す。


「…現場には、十人しか死体が無かったみたいですが」


十人しか死体は無かった。これはおかしいことで…ルネさんのお兄さんを含め、十人だったのだ。

1人分、足りない儀式は実行されないわけだ。


「それでじゅうぶんだった」

「どういうことですか?」

「甦るんだから、首がはなれててもへいきでしょ」


それはおかしい。何故ならお兄さんの首はつながっていたから。

(そう報告を受けているし。)


「でも、お兄さんの首は繋がっていましたよ」

「わたしが、ぬいあわせた」


(…繋がっていたってそういうことかよぉ)


「どうしてですか?」

「……バレたらまずいでしょ、おにいちゃんの首を切り落としたっていったら、ぱぱとままが怒る」


そんな理由で!?急に、

(あんなにぶっ飛んだこと言ってたのに…???)

なんて、子供らしい理由で。そんなことを…


「ぜーんぶ、ルネがやったの」

「……え?」

「みんなは、ぱぱやままを疑うの。他の使用人も疑う。わたしがやったのに」


本をきゅっと握りしめて、ルネさんは笑う。

哀しそうに。…初めて見る笑みだった。

大人がするような、複雑な笑みが、彼女にはできるようだった。


「ダリアが、おにいちゃんを殺した。おにいちゃんをいきかえらせなきゃって思った。」

「だから生贄にささげた…」

「でもね、それはまちがいだった」

「…まちがい?」


(急に何を言い出すんだ?)

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美少女カウンセリング 中田絵夢 @Lunaticm

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