第二の書き手・ユリウスとの言語戦争

──白紙世界フォーマット・ゼロ


そこは、定義もスキルも、存在の意味すら許されない、“完全初期化空間”。


レイとユリウスは、それぞれ一冊の本と一本の筆を持ち、対峙していた。


「書き手同士が交わる時、戦いは“力”ではなく、“構文”になる」


ユリウスは、筆を走らせた。


【定義:レイ・アルスターは一時的に存在を喪失する】

【理由:言語空間において存在証明が未確立のため】


ズギィンッ!


レイの輪郭が一瞬、滲む。


(……こいつ、マジで“書いて”くる……!)


レイはすかさず、自らの本に文字を刻む。


【反定義発動:レイ・アルスターは“未定義であるがゆえに存在する”】

【構文衝突:自己否定型逆接論理による存在証明】


ゴオォッ!


ユリウスの定義文が、言語構造の中で崩壊した。


「なるほど……“存在は、定義されなくても在り得る”か」


ユリウスが筆をくるくると回す。


「でも、それは読者にとって不親切だ。“理解できる物語”は、常に明快な役割と起承転結を持つもの。

君の物語は、“選ばれた読者しか理解できない”排他的世界だ」


「だったら、お前の物語は、“理解しか許さない”不自由な牢獄だ」


レイも、筆を振るう。


【物語構造変更:因果より“問い”を優先する】

【展開:読者が“読みながら問う”物語構造へシフト】


空間に“疑問文の嵐”が走る。


「誰が正義なのか? なぜ主人公である必要があるのか?

そもそも、物語に意味はあるのか?」


ユリウスが一歩下がりながら、静かに笑う。


「……まさか、ここまで徹底して“自由”を肯定するとは。

君は物語という器そのものに“牙を剥いている”んだな」


「違う。“器”が嫌なんじゃない。“中身を誰かに決められる”ことが嫌なんだ」


再び、筆が交差する。


【展開接続:ヒロイン・エリス、強制召喚】

【理由:読者の共感ポイントを強制挿入】


エリスの姿が、空間の裂け目から強制的に現れる。


「レイ!!」


「エリス!? くそっ……こいつ、読者操作までしてきやがった!」


ユリウスは言う。


「物語は、“共感”という回路を通して強くなる。

君の物語がいくら自由でも、孤独なままでは“神話”にはならない」


その瞬間、レイの脳裏に過ったのは――


村でマリーが、信じるだけで《光命》を得たあの場面。


“信じられる関係”こそが、“物語”の核なのではないか――?


レイの筆が止まる。


ユリウスは、静かに追い討ちをかける。


「さあ、選べ。

“完全な自由”か、“他者とつながる意味”か。

それを選べなければ、君の物語は崩壊する」

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