19.正面突破!

「あの人たちは何、誰がグリュックを連れ戻すかで もめてんの?」


 俺は崖の上の城から、目の前の人々の乱闘らんとうに視線を戻した。ラウラはくすりと笑った。


「そんなわけないでしょ? 捕らぬたぬきの皮算用かわざんようっていうやつだわ」


 なにそれ。

 俺は小首をかしげる。


「じゃあどうしたんだろうな?」

「よく聞いてみなよ。町人同士のやりあいじゃない」


 シヴァにそう言われて、言葉だと認識してなかった怒鳴り声に耳をすました。


「ここから先は通さねえって言ってんだろ!」

「なんでだよ⁉︎ ここにグリュックがいるんだろ⁉︎」

「グリュックを返せ!」

「よそ者を入れるわけねえだろうが!」


 なるほど。

 俺はシヴァとラウラを見た。


「侵入者の取り締まりか」


 真面目に答えたのに、二人にずっこけられた。


「言い方! これから俺たちも侵入者になるってわかってる⁉」

「ハウレンツェの人と盗賊がもめてるんだよ」

「わかってるよ!」


 わかってない人扱いするなよ!


 シヴァがうーんとうなる。


「これじゃあ俺たちも入れないな」


 盗賊と町人がもめているのは階段の前だ。崖をけずって、ガッタガタの階段が作られているのだ。たぶん、ここが唯一ゆいいつの城への入り口なんだろう。

 俺も思わずうなる。けれど、ラウラはきょとんと首をかしげた。


「正面突破しようとすれば無理だけど……やろうと思えば入れるわ」

「え?」

「どうやって?」


 今度は俺とシヴァがきょとんとする。ラウラもきょとんと俺を見た。


「あれ? カイ、さっき言ってたよね? 俺がハウレンツェの常識をひっくり返すって」

「あっ」


 そういうことか!


 ラウラはうなずいた。


「そう。つばさを隠すなら、ハウレンツェの人たちの前でこの方法は無理だけど、隠さず堂々と町に帰るなら話は別。だって私たちには」

「つばさがある!」


 そうだ。

 俺は舌なめずりをした。


「ここでつばさを使ってグリュックを放せば、きっと町の人たちの認識も!」

「いや、連れ戻さず放す時点で印象は最悪だと思うけど」

「……水差すなよ」


 認識を変えるのはそう簡単にはいかなさそうだ。気を取り直して俺は崖の上を見上げた。


「よし、飛ぼう」

「俺は?」


 シヴァが少し困ったように自分を指さした。俺は思わず眉根を寄せる。


「……俺が抱えてあげるよ」

「子猫ちゃんか……」

「ラウラがいいとか言ったらぶん殴るからな」

「ハイハイ」


 俺はシヴァを抱え、ラウラと目を合わせてうなずいた。同時につばさをバサリと広げる。体が宙に浮き、ごたごた真っ最中の盗賊と町人の頭の上を軽々と飛び越えた。


「おっ先に〜」


 軽やかに言うと、みんなはぎょっと俺たちを見上げた。


「は⁉︎ 人が飛んでっ……!」

「町長んとこの……!」

「広場で叫んでたガキじゃねえか!」


 バサバサと崖を上がっていく。崖の反対側は荒くれた海だった。波の音がうるさい。そして、俺たちの目の前には。


「ひゃっほぅ! すっげー‼︎」

「迫力すごいね……」


 巨大な岩からそのままけずり出したかのようなものすごく大きくてゴツい城が目の前に迫っていた。


 すげーな、マジで名前のまんまだ!


 感心する俺とラウラ。一方でシヴァはうなった。


「見張りがいるな」

「あれっ。さすがに飛び越えられないぞ?」


 城の入り口を見ると、崖の下で町人に怒鳴っていたのと似たような男二人が険しい顔で話していた。

 背後には門。彼らを飛び越えるには高さがない。


「どうする?」

「窓から侵入するか?」


 シヴァの提案に、ラウラは首を振った。


「気づかれてる」

「えっ」


 改めて見てみると、見張りの男二人は、チラチラと空の上の俺たちに視線を向けながら話していた。

 ラウラはそれを見つめながら言った。


「窓から侵入したとしても、あの見張りが城の中にいる仲間に私たちのことを知らせるでしょう。そうなったらすぐに捕まっちゃう」

「じゃあどうするんだよ?」

「決まってるでしょ?」


 ラウラはにっこりと笑った。


「正面突破よ!」


 ▲▽▲▽


「人の形したただの鳥だ! ち落とせ!」

「俺は銃がからっきしなんだが⁉︎」

「俺だってそうだ! つべこべ言うな!」


 彼らの真上に行くと、風に乗ってそんな言い合いが聞こえてきた。


 よかったー、銃がヘタクソみたいで。


 俺とラウラは顔を見合わせてうなずいた。

 同時につばさを一際大きく広げる。


「「ふっ飛べ!」」


 バサ‼︎


 二人分のつばさが巻き起こした、渾身こんしんの風。それはあたりの空気をかき乱し、男二人に直撃ちょくげきした!


「うわぁ⁉︎」

「なんじゃこりゃあ⁉︎」


 ガタイのいい男の体が簡単に飛んだ。


「もう一丁プレゼント!」


 またラウラとタイミングを合わせて風を巻き起こすと、男たちはさらに吹き飛び、城の入り口からかなり離れたところで倒れ込んだ。

 俺たちも崖の上に降り立つ。そろ〜と倒れた男二人の顔をのぞき込んだ。


「……気絶してるね。当分大丈夫そうだ」


 シヴァがうなずいた。俺はガッツポーズする。


「やったぜ! ラウラ、ナイスアイディアだったよ!」

「イエーイ!」


 ラウラとハイタッチを交わす。シヴァも笑った。


「さすがの発想だったよ。俺じゃ思いつかない。……よし、万が一にも起き出したりしたら危ないし、早く行こう」

「そうだな!」


 俺たちは城へとかけ出した。

 

 

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