闘技場にエントリーせよ

「よし、できたぞ」


輝真が作り上げたのは、新型ドローンを模した物を複数使った装飾品だった。完成した装飾品を一希が覗き込んでくる。


「…明らかに1つだけ空けてるね」


一希の言う通り、輝真が作った装飾品は不自然に1つだけ欠けているように見せかけているのだ。輝真はふふんと笑いながら説明する。


「1つ空きがあるのはわざとだ。昨日、新型ドローンを放っただろ?これを拾った貴族と接触する」


「なるほど、その貴族を利用してあの闘技場に潜入すると?」


「そうだな。貴族ってやつはこういうのに目がないし強欲は実に利用しやすい」


「テマも悪だねえ」


一希は輝真に便乗するようにクスクスと笑う。輝真はフンッと鼻で笑う。


「悪者上等。生憎、俺は最早手段を選んでいる余裕はない。利用できるものならなんだって利用する」


『あまり度が過ぎないようにしてくださいね』


ローウェルが忠告してきたが輝真はわかっていると聞き流す。そしてピクセルに新型ドローンを拾った貴族の様子を聞いていると、一希が口を開く。


「ねえ、テマ。僕も着いていきたい」


「何?」


一希が着いていきたいと言い出し、輝真は目を見開く。危険なのはわかっているはずだった。


「テマは天使や人工知能の手助けがあるとはいえ、ほとんど誰にも頼らず、1人で僕達を連れ戻そうとしている。そんな姿を見ていたら僕も怯えて閉じ籠もっているわけにはいかないと思うようになってきたんだ」


確かに天使や人工知能の力を借りているといっても、ほとんどのことを輝真1人でこなしている。それは彼が生きていることがガレット帝国に知られれば思うように行動できなくなり、彼女達を辱めた生徒達に知られるかもしれないと考えの上だった。天使や人工知能の存在を隠すためにも、大人数での行動を避けるためでもあったのだ。


「このままテマに任せっぱなしていうのも悪いっていう理由もあるけどね。だから、お願い……」


「……」


輝真はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……ダメだ。ただでさえ片足が義足なのに今の状態で行ったらまたあの時の二の舞になるだけだ」


「……そうだよね」


「どうしても行きたいなら、身を守る術を身に付けないといけない」


「…テマ?」


「ピクセル、トレーニングルームの権限を一希も登録して」


輝真がピクセルに指示を出すと小型ゴーレムのピクセルが一希に近づき、彼女の顔を認証する。


【……登録完了しました】


「これでトレーニングルームが一希でも自由に使用可能になった」


「…ここで鍛えろってこと?」


「近いうちに使って貰うつもりだった。俺がいないときにもしものことがあったりしたらってな…」


「そういうことか…」


一希は輝真の考えていることを理解し、隠れ家に残ることにした。その代わり、輝真はいつも以上に一希に求められた。



「ふーむ、それにしてもこれはいったいなんなんだろうな?」


新型ドローンを拾った貴族の男は新型ドローンを手に持ち、色んな角度から見ていた。すると、声をかけられる。


「そこの紳士、少しよろしいか?」


貴族の男は振り向くと、そこにはマントを羽織った人物だった。顔は見えず、下を向いた矢印のような装飾が水色に光っていた。


(よしよし、ここまでは順調だな)


マントの人物の正体はカオスギアを纏い、その上からマントを羽織った輝真であった。しかも声まで変えている。貴族の男は不審な人物に見えるのか警戒していた。


「そう警戒しないで欲しい。私はあなたの持つそれ、私が落としたものに似ている」


輝真はそう言うと、例の不自然に1つ欠けた装飾品を取り出した。


「まさか、これの持ち主か…?」


「そうだ」


貴族の男は戸惑う様子を見せる。その反応を見た輝真は提案を持ちかけた。


「欲しいなら譲ってやろうか?」


「ホ、ホントか!?」


「あぁ、その代わり1つ条件がある」


「条件…とは…?」


「この街の地下にあるという闘技場に参加したい。案内してほしい」


「そ、それでいいのか?」


「あぁ、俺の欲しいものはそこにある」


「それならお安いご用だ。こっちだ、着いてきてくれ」


「わかった(ふん、チョロいな)」


闘技場に案内して貰えることになった輝真は貴族の男に気付かれないように鼻で笑う。しばらく貴族の男に着いていくと、狭い路地を曲がる。その先は行き止まりだった。すると貴族の男は壁に手をかざすと魔法陣が展開し、壁がみるみる変形して地下に続く長い階段が姿を現した。


「ここにこんな場所が…」


「この下があの闘技場の場所だ」


貴族の男と共に長い階段を降りていくと徐々に騒がしくなってきた。そして広い空間に出る。


「ここが秘密の闘技場だ」


「……」


輝真は周囲を見渡す。そこは円形の巨大な建物になっており、中も外側も全て岩で出来ているように見える。


「どうだい?すごいだろう?確か君は選手として参加したいんだったな。エントリーの手続きはこっちだ」


貴族の男の指示に従い、受付に案内される。


「やあ、そこの彼が選手になりたいみたいでね、手続きを頼むよ」


「わかりました。こちらにお名前をお願いします」


輝真は差し出された紙にカオスファイターと書いた。


「ありがとうございます。後、試合のルールですが基本的には何でもありとなっています。少々お待ちください。それと言っておきますが、この闘技場で亡くなられても一切責任は負いませんので…」


(まさに違法らしい闘技場だな)


受付の説明に輝真はやや呆れながら心の中でそう呟く。待っている間に輝真は周囲を見回した。よくよく見てみればそれは古代ローマのコロッセオを彷彿させる構造だった。


(タイムスリップをした気分だ)


輝真がそう思っていると受付が戻って来る。受付は空いていた試合トーナメントに登録できたと報告してきた。


「控室に案内いたします。試合の時間になれば案内の者お呼びいたします」


「…わかった」


輝真は控室に案内される。そこは個室だった。案内人は広い控えの場所もあるが騒動を起こさないようにと忠告して去っていった。すると貴族の男が話しかけてくる。


「なぁ、約束の…」


「あぁ、そうだったな。あんたが拾った一部を一旦俺に渡してくれ。直すから」


貴族の男は輝真に新型ドローンを一旦渡すという形で返してもらうと、気づかれないようにあらかじめ作っておいたそっくりなものとすり替えて装飾品と組み合わせると貴族の男に渡した。


「おぉ、ありがとう。ひひ…いいものを貰ったぜ」


貴族の男は不敵な笑みを浮かべてその場を去っていく。だがその装飾品は金でもない、パチモンを掴まされて喜んでいる貴族の男を馬鹿なやつだと鼻で笑った。すると今まで黙っていたローウェルが口を開く。


『取り敢えず、潜入に成功しましたね』


「あぁ、…インフィニットリングの気配は感じるか?」


『はい、感じます。間違いなくこの闘技場にあるようです』


ローウェルはインフィニットリングは間違いなくこの闘技場にあると断定する。輝真は控え室を出て少し闘技場内を探索しようとした瞬間、怒号が聞こえた。


「……なんだ?」


何事かと思った輝真は控え室から出ると、闘技場の選手であろう大柄な体格の男が鎖で繋がれた首輪をしている女性に早く歩けと怒鳴っているようだった。輝真はその女性に見覚えがあった。


「玲衣…!」


輝真が探している人物の1人、井本玲衣だった。玲衣は服を着せられておらず体中が傷と痣だらけで立つことさえ辛そうだった。何より彼女は右腕の肘から先がなかった。


「……!」


大柄な体格の選手は玲衣をそのまま引きずって連れていった。輝真は玲衣も一希と同じように酷い仕打ちをうけていることに拳を握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アドベンチャー・TEMA ~囚われの7人ヒロインズ ~ Naniro @naniro726

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ