パート18:嵐の後(?)と胃痛の報告
部屋に一人、どれくらいの時間が経ったんだろう。
窓の外は、さっきよりも少しだけ暗くなってきている気がする。
相変わらず訓練の声は聞こえるけど、私の不安は募るばかりだ。
(団長さんと大神官様……どうなったのかな……)
最悪の事態ばかりが頭をよぎる。
もう、生きた心地がしない。
コンコン。
その時、控えめなノックの音がして、私の肩がビクッと跳ねた。
今度は誰!? まさか、また団長さん!?
「アリア様、レオンです。入ってもよろしいでしょうか?」
聞こえてきたのは、レオンさんの声だった。
よかった……団長さんじゃなかった……。
でも、その声は、なんだかすごく疲れているように聞こえる。
「は、はい! どうぞ!」
扉が開いて、レオンさんが入ってきた。
その姿を見て、私は思わず息をのんだ。
顔色が、さっきよりもさらに真っ白になっている。目の下にはうっすらクマができているような気もするし、立っているのがやっと、という感じで、なんだかフラフラしているように見える。
「レオンさん! だ、大丈夫ですか!?」
思わず駆け寄って、そう尋ねてしまった。
彼は私の心配そうな顔を見て、力なく、本当に力なく微笑んだ。
「……だ、大丈夫です、アリア様。少し……疲れただけですので……お気遣いなく……」
そう言いながら、彼は無意識なのか、そっと胃のあたりを押さえている。
……絶対、大丈夫じゃないよね!?
あの二人の間で、一体どれだけ大変な目に遭ったんだろう……。
「あの……大神官様は……」
心配で尋ねると、レオンさんは少しだけほっとしたような表情になった。
「大神官様は、先ほど……お帰りになりました」
(帰ったんだ……! よかった……!)
全身から力が抜けるような、大きな安堵感に包まれる。
とりあえず、今すぐ私に何かされる、ということはなさそうだ。
「そ、そうですか……。あの、それで、何か……お話は……?」
恐る恐る、ゼノンさんとアグナス様が何を話したのか聞いてみる。
レオンさんは、一瞬、すごく遠い目をした。
「……その……。まあ……色々とお話が……ありました……が……」
彼は言葉を濁した。
その表情と口調から、「思い出したくもない」「聞かないでくれ」という心の声が駄々洩れになっている。
これは、聞かない方がよさそうだ。きっと、ものすごく大変だったんだろう。
「……と、とにかく!」
レオンさんは、気を取り直すように咳払いをした。
「本日はもう遅いですし、アリア様もお疲れでしょう。どうぞ、ごゆっくりお休みください」
彼は、側仕えとしての顔に戻って続ける。
「替えのお召し物などは、明日にはお届けできるかと存じます。今後のことにつきましても……また、改めてご説明、ご相談させていただければと……」
その言葉には、「今日はもうこれ以上何も考えたくないし、何も起こってほしくない」という、彼の切実な願いが込められている気がした。
「……はい。分かりました。ありがとうございます、レオンさん」
私も、もう今日は何も考えたくなかった。
レオンさんの気遣いに素直に感謝して、頷く。
「では、失礼いたします。お休みなさいませ、アリア様」
レオンさんは、丁寧にお辞儀をすると、今度こそ本当にフラフラとした足取りで部屋を出て行った。
最後の最後に見た彼の背中は、なんだかすごく小さく見えた。
(本当に、お疲れ様です……)
一人残された部屋で、私は改めて大きなため息をついた。
嵐は……とりあえず、今日のところは過ぎ去ったみたいだ。
でも、レオンさんのあの様子だと、明日からも絶対に何かある。
(もう、なるようにしかならない、か……)
今日は、とにかく寝よう。
私は、ふらふらとベッドに向かい、そのまま倒れ込むように横になった。
目を閉じると、すぐにどっと疲れが押し寄せてくる。
窓の外の騒がしさも、もう気にならない。
私は、深く、深く、眠りに落ちていった。
波乱の一日目が、ようやく本当に終わったのだ。
→【第3章 了】
→【第4章 聖女様の(物理)訓練とプロテイン伝説・序 へ続く】
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