寄り道#12 「家族」

和は細長い箱を見つめていた。


賢からもらった誕生日プレゼント。


いつぶりなんだろう。


和は思い出せないほど前に親から誕生日プレゼントをもらっていた気がする。


和は思わず口角をあげる。


和は恐る恐るその箱を手に取り、ゆっくりと開けた。


銀の光が和の目に入る。


ボールペンだった。


和は取り出して握ってみる。


重い。


和は小声で笑った。


あまりにも賢っぽいチョイスというか。


和はボールペンを胸に近づける。


溜まっていた息を大きく吐いた。







“いただきます”


皆んなが声を揃えてそう言う。


今日のメニューは焼き魚とじゃがいもの味噌汁。


和は魚の食べ方を隣の小さい子に教える。


施設では頻繁にいじめが起こることがある。


最近はそんな噂は聞かない。


基本的にいつも皆んな黙々と目の前のご飯を口にしている。


カフェテリアに響く箸と食器の音。


“ごちそうさまでした”


夕飯の時間が終わり、皆んな自分の部屋へ入っていく。


和も同じように部屋へと廊下を歩いていた。


「和」


後ろから低い声がした。


子供達は皆んな部屋に入り終わった。


「もう勤務時間おわってますよ」


和は声がした方には目を向けず歩き続ける。


「合宿あるんだろう」


和は立ち止まった。


カウンセラーは和の手を引いて一万円札2枚を置いた。


和はカウンセラーの方を向いた。


「なんですか。何も僕は出せませんよ」


「合宿行ってこい」


和は眉をひそめてカウンセラーの顔を見たがよく見えなかった。


「......ありがとうござます」


和はそう言って立ち去った。






「賢スイカ持ってきてー」


皆んなはご飯を食べ終えこの集まりの最終プログラムを楽しんでいた。


「ちょっとちいちゃん危ない」

「おかーさんのどかわいた。お茶ー」


お母さんの妹の娘、ちいちゃんが線香花火を手に持ちながら軒下に上がってきた。


賢は重いスイカを母がいる台所に運んだ。


「ありがと。賢も花火してきて良いわよ」


「僕はいいや。勉強するよ」


そう言うと軒下から体を伸ばして台所を覗いていたちいちゃんがえーーと声を出した。


そんなこと言わずにと凛花さんが手招きをした。




パチパチと光る花火を見つめる。


勢いよく光る手持ちの花火は一瞬で力尽きたかのように光を消す。


「賢は今年の花火誰と行くの」


凛花さんが輝き燃える光を見ながらそう言った。


「友達と行きます」


凛花さんは何も答えず光を見続ける。


「えなんですか」


賢がそう聞き返すと凛花さんはごめんごめんと賢の方を向いた。


「ちょっとだけ期待しちゃったけど、そんなにはっきりと友達って言うから」


賢は目を逸らして頭をかいた。


「さっきは庇ってみたけど私もちょっぴり期待してるかな」


「そんなに気になります」


賢は燃え尽きた手持ち花火をバケツにつける。


「だって、こんな堅物な賢のことだもん。どんな彼女ができるんだろうって」


賢は照れながら新しい花火を手に取った。


「どんな人でも、賢が好きになった人なんだから絶対良い人だよね」


賢はいまいち恋愛の話にピンと来ない。


賢は燃え光り始めた花火を見つめる。


「けんー」


ちいちゃんが火を向けながら駆け寄ってきた。


「こらっあぶない」


賢は自分の体によじ登ってきたちいちゃんの花火を取り上げて小さな体を抱き抱える。


そんな賢を見ていた凛花は頬に手を当てて、にっこりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る