寄り道#11 「お盆」
「あらー賢ちゃん久しぶり」
賢が家の扉を開けると母と祖母が目の前にいた。
「久しぶり」
「大きくなったわねぇ」
二人は買い出しに行っていたみたいだった。
祖母が手を伸ばして賢の頭を撫でる。
「おばあさん戻りますよ」
母はこれから祖母の家での家族の集まりの準備で忙しそうだった。
母と祖母、そして賢は祖母の家へ向かった。
「先生。明後日から部活の合宿があるんですけど」
和は施設に帰っていた。
「費用は」
「2万円です」
先生は少し考え込んでから答えた。
「ちょっと厳しいわね。今回も顧問の先生にはそう伝えておいて」
「分かりました」
和はそう言ってすっと自分の部屋に行く。
今回もやっぱり無理か。
和は少し悲しいけどいつものことだからと切り替えはできる。
夕暮れの日差しが廊下の小さな窓から入り込んでいた。
埃が照らされて幻想的な雰囲気を出している廊下を和は歩く。
部屋についた和はカバンを下ろして椅子に座った。
机に賢からもらったプレゼントを置いた。
「おーい賢。お前も飲まないか」
「ちょっとお父さん。まだ賢未成年だから」
「おかーさんお茶持ってきてー」
「はいよー」
祖母の家には叔父さんと叔母さんや従兄弟など大勢が集まっていた。
「今年も賑やかですね」
賢は隣に座っている従兄弟の凛花さんに話しかけた。
「そうね。たまには騒がしいのも良いわよね」
凛花さんは去年結婚して、今はお腹に子供がいる。
「凛花ー。旦那さんとのエピソードないの」
「またですか」
大人たちは寄ってたかって彼女に詰め寄る。
毎年の恒例だった。
賢は彼女の新婚話を横目に、目の前に注がれたコーヒー牛乳を飲む。
「そういや賢。彼女できたか」
賢はぴくっと止まった。
「賢もお年頃だもんねー」
叔父さんと叔母さんは口を揃えた。
「いないですよ」
賢はそう言ってオードブルに手をつける。
「えーほんと?」
「隠さなくてもいいんだぞ」
賢は唐揚げを口に入れながら苦笑いをする。
「ちょっと。賢困ってるじゃない」
凛花さんがそう言って庇ってくれた。
叔父さんはキンキンに冷えたビールをごくごくと飲み、叔母さんとの出会いを語り始める。
これも毎年恒例だった。
皆んなが賑やかに楽しむ、一年に一回のお盆休み。
賢はこの空間が好きだった。
「賢もいつか彼女ができてここに連れて来れると良いね」
凛花さんは賑やかなみんなを見ながらそう言った。
「努力します」
賢は忙しそうに口を動かしながら答えた。
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