花火の残り香(1)
祭りの夜は、いつもより空が狭く感じる。
提灯の光が人混みに揺れて、甘ったるい屋台の匂いが鼻をついた。
俺は浴衣なんて柄じゃないから、Tシャツに短パンのまま。
「せめて形だけでも」って、浴衣を着込んだ玲奈が、すれ違う誰よりも眩しく見えた。
「そんなに見られると照れるんだけど」
玲奈が少し顔をそむけて笑った。
「いや、別に。珍しいだけ」
言葉を選んだつもりなのに、玲奈は目を細めた。
言わんでもいいことを口にするのは、昔からだ。
人波をかき分けながら、俺たちはたこ焼きの屋台にたどり着いた。
玲奈は迷うことなく「ソース多め」のたこ焼きを注文する。
そんなん、絶対口汚れるだろって思ったけど、何も言わなかった。
屋台の並びを抜けると、堤防沿いに静かなスペースが広がっていた。
誰もいないベンチに腰掛けると、玲奈がたこ焼きのパックを差し出してくる。
「ほら、食べなよ。熱いから気をつけて」
「子ども扱いすんな」
「そっちこそ、ね」
ああ、こういうとこだ。
言葉をぶつけ合うたびに、なんでか、すっと心が軽くなる。
ふたりでたこ焼きをつつきながら、打ち上げ花火を待った。
「ねえ」って玲奈が小声で呼んで、俺は横顔を盗み見る。
「花火、きれいに撮れたらさ、見せっこしない?」
俺は口を拭うフリをして、少しだけ笑った。
「お前、写真ヘタクソだろ」
「うるさいな、努力はするもん」
パーンと音がして、最初の花火が夜空に咲いた。
玲奈の目にも、赤や青が映り込んでいる。
スマホを構えながら、俺は思った。
——この夏のこと、たぶんずっと忘れない。
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