夏服と缶コーヒー(2)

教室の窓際、夏の空気が入り込んできて、シャツの背中がじっとりする。

それでも、なぜかあの席の彼だけは、ずっと動かないまま。


「なに、夏バテ? 冴えない顔してるけど」


声をかけると、ゆっくりとこっちを向く。

思ってたより、反応が鈍くて少しおかしい。もしかして、真剣に暑さと戦ってたのかも。


「いや、エアコンのスイッチ入れてくれない担任に文句言ってた」

「ふーん、それにしてはずいぶん間抜けな顔だったけど」


言いながら、笑いを抑えるのが大変だった。

こういうときの表情、ほんとに飽きない。ずっと見てられる、なんて絶対に言わないけど。


「これあげる。お礼はあとでいいよ」


机に置いたのは、微糖の缶コーヒー。

購買で偶然見つけた最後の一本。見た瞬間、手が勝手に伸びてた。


「……いつの間に買ってきたんだよ」

「さっき。購買で最後の一本。運命感じるね」


少しだけ、期待した通りの反応。

ちゃんと驚いてくれた。それが、ちょっとだけうれしかった。ほんのちょっと。


「ま、ありがたく受け取っておくわ」

「うん。ちゃんと感謝して?」

「缶コーヒーの一本くらいで大げさだな」


会話は軽くて、すぐに流れていくけど、なんだか今日は、空気の温度が違っていた。

缶を開ける音と同時に目が合って、思わず息を止めた。


たぶん、彼も止めてた。

そのくらい、あの一瞬は、なんだか特別だった。


前を向いて、笑ってごまかす。

言葉にしたら終わりそうだから、黙っていた。


夏は、まだ終わらない。

それだけで、なんとなく嬉しかった。

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