花火の残り香(2)

人混みをかきわけながら、悠斗と歩くのは、ちょっとした冒険みたいだった。

慣れない浴衣は足元がもたつくし、屋台の甘い匂いでくらっとする。


「そんなに見られると照れるんだけど」

冗談半分に言ったら、悠斗はそっぽを向いた。


「いや、別に。珍しいだけ」


ふふ、かわいい。

口数少ないくせに、たまにこういう素直なとこ出すから、油断できない。


たこ焼き屋台にたどり着くと、すぐに「ソース多め」を注文する。

こういうときの迷いのなさは、昔からだ。


ふたり並んで歩くと、屋台の喧騒が遠ざかっていく。

堤防沿いのベンチを見つけたのは、悠斗。

言葉にはしないけど、きっと私の浴衣を気遣ってくれたんだと思う。


たこ焼きのパックを差し出す。

「ほら、食べなよ。熱いから気をつけて」

「子ども扱いすんな」

「そっちこそ、ね」


こうして言い合ってる時間が、すごく好きだった。

あったかくて、すこしだけくすぐったい。


たこ焼きを分け合いながら、打ち上げ花火を待つ。

時間はゆっくり流れてるはずなのに、どんどん夜が深くなっていく。


勇気を出して、声をかけた。

「花火、きれいに撮れたらさ、見せっこしない?」


悠斗は口元をぬぐうふりをして、目を細める。

「お前、写真ヘタクソだろ」

「うるさいな、努力はするもん」


夜空に咲く大きな花。

パーンという音と一緒に、胸の奥が揺れる。


スマホ越しに見える花火も、横にいる悠斗も、どちらも、眩しかった。

——この夏のこと、きっと忘れない。

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