ぱちぱち、君のとなり(1)
火の粉が、ぱちぱち空に飛んでいく。
俺と千夏は、後夜祭の輪っかからちょっと外れたベンチに並んで座ってた。
「なあ千夏、キャンプファイヤー燃えすぎじゃね?」
「湊が薪盛りすぎたからでしょ」
千夏がじと目で俺を見る。
たしかに、調子に乗って薪を追加しすぎた気はする。
「いや、ほら。盛り上がったほうが思い出になるって」
「顔、あっついんだけど」
「俺のせいかよ」
「湊のせいだよ」
千夏はプログラムをうちわ代わりに、ばっさばっさ仰いでる。
鼻の頭がうっすら赤いのを、火のせいだってことにしておく。
「でもまあ、楽しかったよな。文化祭」
「うん。なんだかんだ、楽しかった」
隣から聞こえる千夏の声が、妙に自然で、ちょっとくすぐったい。
「特に俺と回ったときな」
「……は?そんなこと言ったっけ?」
「言ってねーけど顔に書いてあった」
ニヤつきながら言うと、千夏はあきれた顔をする。
「それ、湊の願望でしょ」
「ちげーし。お前、めっちゃ楽しそうだったし」
「湊が勝手に盛り上がってたんでしょ」
「いやいや。俺、クレープ二個も買わされた記憶あるけど?」
「二個も食べたっけ?」
「食べた。バナナとチョコのやつと、あとイチゴ爆弾」
「イチゴ爆弾てなに」
「なんかめっちゃイチゴ乗ってたやつ」
言いながら笑ったら、千夏も吹き出した。
火の粉が、またパチンとはじける。
「覚えてる湊、怖くない?」
「覚えてるっつーか、インパクト強すぎただけな」
千夏はまたプログラムで顔をあおいで、わざとらしくため息をついた。
「優しい〜湊、優しい〜」
「やめろ、バカにすんな」
「褒めたんだよ、たぶん」
たぶん、がめちゃくちゃ引っかかるけど、まあいい。
空を見上げると、黒い夜空に火の粉が小さく消えていった。
「……あれだな」
「なにが?」
「お前と、こうして座ってるの。悪くないなって」
「ふーん。まあ、悪くはないね」
千夏は、小さな声でそう言った。
その声が、やけにあったかく聞こえた。
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