第18話 外へ
庭でギターを鳴らす。
駆け回る魔獣たちに、空を飛ぶ魔獣たち。みな元気そうで、ぐったりとしていたのが昔のことのようだ。
リントヴルムとフェンリルは追いかけっこしている。
そういえば『婚約破棄された悪役令嬢は、学園のドラゴンに溺愛される 〜もう婚約なんてこりごりです! 世界樹の森でスローライフします!〜』のドラゴンは、そこに見えている
フェンリルを追いかけて飛ぶリントヴルムをジロジロと見る。
学園で溺愛しだすようにはとても見えない。まず第一に、学園に行くタイプに見えない。
視線に気づいたのか、溺愛しなさそうなタイプのドラゴンがイズナを見た。
「グゥオ?」
「なんでもありませんよ。美しいなと思っただけです」
「クロロロロ——————!!」
「ガゥウウウウ!!」
「あっ、フェンリルさんもかっこいいですよ。モフモフですし」
「キャウ〜ン〜〜〜〜」
魔獣も照れるようだ。
グネグネと飛ぶ二匹。
魔素がかき混ぜられていくのがわかる。
大きい魔獣が動くと魔素は動く。
「魔素もだいぶ薄くなってきましたかね」
「ガゥガゥ」
「えっ、ここが薄くなった分、少し外側が濃くなっているんですか」
どうりで動物が増えているはずだ。周囲の魔獣たちが避難してきているのか。
魔鹿だの魔イノシシだのが森のぽっかり拓けた庭で寝そべっている。
大きい木のあたりに溜まっているのだとフェンリルは言う。
リントヴルムが大きい木ではなく、あれは神木なんだと言っている。
「世界樹の他に神木があるのですか」
森に何本か立って立っているらしい。
そういえば、上から降りてくる時に高い木が見えていた。
あれがご神木というものだろうか。それが何本もあると。
「ではとりあえずそこまで行ってみましょうか」
気軽にそんなことを言ったが、実際に森に入ると道が悪すぎた。
足元は悪くて歩きづらいし、枝や蔓が先を阻む。
リントヴルムが背中に乗る? と聞いてきたが、枝にぶつかっても気にしないで歩く生き物の背には乗りたくない。
フェンリルは乗って飛んでいく?と聞いてくるが、離着陸の際は枝を気にせず飛ぶ生き物にも乗りたくなかった。
「というか、あなたたちが普段歩いて通っている道はないのですか?」
二匹とも小川を行くのだと言った。
小川沿いなら歩きやすいのかもしれない。そう思ってついて行ったら、魔獣たちは小川の中をざぶざぶと歩きだしたので断念した。
「地道に歩いていきましょうか」
作戦としては、細長いリントヴルムが先にいき、低い場所と地面をならす。
その次にフェンリルが高い枝などをバキバキ折りながら進む。
それでしばらく進んだが、枝がバキバキあたるのに耐えかねたフェンリルがキレた。
「ガゥゥゥウウウ!!」
高圧の風を前方に放った。
細い枝や蔓などが吹き飛んでいった。
森にトンネルができた。
「おお……。魔獣ブロアー」
これぞまさに獣道。
いや、獣道にしては立派すぎる。魔獣道。
さすが、森の大物魔獣フェンリルである。
なるほど、その手があったかと、イズナはリントヴルムの前に出た。
森林破壊になるだろうかと少し考えたが、こんな暗い森は少し間引いても大丈夫だろうと勝手に決めた。
前世で見た枯葉を吹き飛ばすブロアーを思い浮かべて、それを大きく想定して魔力を込めた手を前に押し出す。
ドォン!
フェンリルの穴を上書きするように、もっと大きくしっかりとした道ができた。
「歩きやすくなりましたね」
機嫌良く歩きながら、自分の言った言葉に何かひっかかった。
——あれ? 歩きやすくしていいのでしょうか……。
今までだってここから出ていったり外から帰ってくるエルフがいたにもかかわらず、閉じた森の姿をしている。誰かが歩きやすくしようとした形跡はない。
もしかして、侵入者を拒むためでは?
そういえば、結界も見当たらない。
今は魔素が濃くて人間は入って来られないが、薄くなったら入って来られる者も出てくるかもしれない。
歩きやすい道なんて作ったら、そういう者を管理者の庭まで案内してしまうことになる。
「……作戦は破棄ですね……」
ただ、魔獣でも他の生き物でも、魔力を持った者が動くだけで魔素は動くのだ。
森を生き物が歩いてまわるようになれば、世界樹の管理者がひとりでがんばらなくてもよくなるのではないか。
今は薄くすることをがんばらなくてはならないけど、今後は濃くしないための予防を考えてもいいのではとイズナは思うのだった。
強力ブロアーでぶっとばせ作戦は失敗に終わった。
次の作戦は、獣道作戦だ。
文字通り、魔鹿やワイルドロックボアなどの小さい生き物たちに、獣道を作ってもらう作戦である。
大変地味な作戦だった。
イズナが歩く足元だけ、ほんの少しだけ歩きやすくなっているようないないようなという感じ。
ないよりマシだろう。多分。
リントヴルムとフェンリルはおともに加えていない。
あの二匹がいるとどうしても歩きやすい道になってしまうから。
森の中へ少し入ってはギターを弾いて戻り、また次の日にもう少し先まで歩いてはギターを弾いて戻りを繰り返す。
そのうち動物の数が増えてきて、足元には立派な獣道ができつつあった。
はじめからずっと先頭を歩いてくれている魔鹿がふと振り向いた。
少しだけ開けたところに出た時、そこが神木の前だった。
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