第19話 ドラゴンの行方
柱のようにすくっと高く伸びる木。
そういえば神というのは一柱二柱と数えるのであったなとイズナは高くにある樹冠を見上げた。
目的地に辿り着いたのでギターを弾く。
ここで弾いたらさらに外側に濃い魔素が流れていくのだろうかなどということは、一旦頭の隅から消した。
魔素は一応上空へ逃しているのだから、薄くなっているはず。
逃しきれてない分の少量がまわりに追いやられているだけ。
そう思いこませて、ジャカジャカ弾いていると、上空がかげった。
「ん……?」
見上げれば、リントヴルムとフェンリルがはしゃぎながら下りてくるところだった。
「あー、下りられる広さがあるなら、乗せてきてもらえばよかったのですね」
管理者の庭へ帰る時に、二匹は揉めた。
どちらがイズナを乗せるかで、神木前の空き地が広くなる勢いだった。
試しに乗せてもらうと、リントヴルムは翼を羽ばたかせて飛ぶので上下の揺れがひどい。
乗せてもらうのはフェンリルに頼むことにした。
「ワォーン!」
「クロロロロ……」
「フェンリルさん、煽っちゃいけません。リントヴルムさんには、歩く時に乗せてもらいますね」
「ガゥ」
「クォーゥ!」
フェンリルは魔力を体にまとわせて、魔法を使って飛ぶのでふんわりと上空へと上がった。
イズナも魔力でフェンリルにつかまっているので、落ちる心配はない。
森の木々が邪魔にならないぎりぎりのところまで上がった。
神木はそれよりも高い。それが、遠くにも見えていた。
「神木って何本くらいあるのでしょう」
「ガゥガゥガゥ……」
あそことあそことあそこと……などと言っているうちにめんどうになったのか、フェンリルは向こうへ見えていた神木の方まで飛んだ。
うしろからリントヴルムもついてくる。
次の神木の上まできたらまた次の神木へ。
魔鹿たちが見上げる神木まで戻ってくるまで、全部で九本あった。
世界樹を中心に円形に九本の神木が立っている。
神木と呼ばれているだけの背の高い木かとも疑っていたのだが、こうもきっちりと並んでいると、神木なのだと納得せざるえない。
この神木が立っているあたりまでくると、森の端が現実的になってくる。
フェンリルの背の上から、森の端が見えたのだ。
——その先に人間の町がある……!
妖精の道を使わなくても、町に行けそうな現実が見えてきた。
食糧不足の心配は早くも解消しそうだ。
管理者の庭から神木までフェンリルに乗って行き。神木から神木へもフェンリルに乗って行ったら一日で全部の神木の根本でギターを弾くことができた。
ついでにフェンリルの背に乗って空中から奏でてみたところ、上から外側に向かって流れるのが速くなったようだ。
「これでだいぶ薄くなったでしょうかね」
「クォオ」
「ガゥ〜」
もしかしたら、さらに外側の森の外が濃くなっているかもしれないから、確認に行った方がいいかもしれない。
世界樹の森の上を飛んでいる時、ドラゴンが上へ飛んでいくのが見えた。
「あれ……リントヴルムさんじゃない方のドラゴン」
アジアで珠を持って描かれていたりする龍に似た方のドラゴン、
遠くから見ても
あちらは飛び方としてはフェンリルに近い。魔法でふわふわ浮いているように見える。でも、もっと動きが少ない。天に呼ばれるように、吸い込まれていくように、すーっと上昇している。
魔獣と呼んではいけない、神獣と自然と呼んでしまいそうな姿だった。
「あのドラゴン、
ということは、あれに乗って次の世界樹の管理者が降りてくるのか。
——やっぱりわたしは偽物の世界樹の管理者だったのですね。
イズナ的には微妙な気持ちである。
ただ何かの間違いで落とされただけ、落とされ損というものである。
新しい管理者が来ても、ログハウスに住ませてもらえるだろうか。
それともやはり人間の町に出ていくべきか。
「あなたたちは人間の町に行ったことがありますか?」
リントヴルムもフェンリルもないらしい。それはそう。こんなゾウみたいな魔獣が町に現れたら大騒ぎになる。
ただ森の上空から見たことはあると言う。
「……ぐしゃぐしゃしていた、と。そうですか……。教えてくれてありがとうございます。大変参考になりました……」
二匹は得意気に鼻をプスプスさせた。
イズナは前世の街並みを思い出しつつ、人間の住む場所というのはそう変わらないのだろうと異世界の街を想像した。
一度人間の町を見てくるしかない。
魔素の濃さの確認もした方がいいだろうし、食料だって買ってこれるなら買ってきた方がいい。食料がなくなっても森の魔獣を狩って捌いて食べるとか、箱入りエルフには無理なので。
神木まではフェンリルに乗せていってもらえる。
そこから先は歩きで。
管理者の庭から神木まで二日ほどだから、あと一日寝ずに歩けば森の外まで出るはずである。
世界樹周りの魔素はもうだいぶ薄くなったし、リントヴルムとフェンリルが飛んでいてくれれば、それなりに魔素はかき混ぜられるから、何日か離れても大丈夫のはずだ。
ドラゴンが管理者の庭に下りてきたら、新しい世界樹の管理者にフレイアの話などをして、旅に出よう。
イズナはログハウスに戻って、旅支度を始めた。
だが、何日経ってもどれだけ待っても、新しい世界樹の管理者を乗せたドラゴンが降りてくることはなかった————。
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