第10話 【幕間】憂いの長老エルフ
「イズナはまだ見つからないのかい?」
美術品の彫刻のように整った美貌の男がそう言った。
まだまだ若々しい姿を持ち、長老と呼ばれるような者には見えない。彫りの深い顔の中にあってまだ存在感のある切れ長の目に、憂いを浮かべている。
入り口に姿を現した若いエルフは首を垂れた。
「はい、ブーリン様。森の中をすみずみまで探したのですが」
そのテーブルを囲むのはブーリンの妻と、エルフには珍しい精悍さを持つ男。三人とも暗い表情を浮かべていた。
「そう……。あの子は町が好きだからねぇ。町にいるのかもしれないね」
不思議と
「町もひと通り見てきたのですが、もう一度見て来ましょうか」
「頼むね」
送り出すと、三人はため息をついた。
「ブーリン様、イズナは町に行っているのだろうか。あんな者たちなど放っておけばいいものを」
ブーリンとて、かつては自分たちが住んでいた町を追われたことを忘れてはいない。
だが、クローネに住む者が減ってきていることも気になっていたし、人間たちによってその心配がなくなってきたこともわかっていた。
「そう言うものじゃないよ、ヴァル。クローネも変わっていくのだよ。しかし、そろそろ次代の世界樹の管理者を任命しないとならない時期だというのに、どこに行っているのやらね」
最近の世界はおかしい。
世界樹の葉が枯れてきているかと思えば、ものすごい量の魔素がここクローネまで巻き上げられてきたりもする。
世界樹の管理人交代を要請する書状も、テラリスから届かない。
あの伝書リス、ラタトスクがどこかに寄り道でもしているのだろうか、
「もし——見つからなかったら、どうするんだ」
見つからない————?
見つからないとはどういう状況なのだろう。
クローネ自体も広くないし、その中でエルフが住むことのできる森は限られている。
探して見つからないわけがない。
クローネの他に行く場所もあるわけなく、界のどこかにいるはずなのだ。
だが、本当にいないとすれば————まさか、亡くなっている?
エルフは病気にかかることはほぼないし長命ではあるが、不老不死ではない。
怪我など命を摘み取るようなことがあれば、体の寿命が来なくても死ぬのだ。
その可能性に辿りつくと、ブーリンは顔色を悪くした。
エルフは亡くなったら体は残らない。
もしかしたら、魔殻を探してもらうことも考えなければならないのかもしれない。
となりに座る妻もそう考えたのか、夫の手にすがるように重ねてくる。
「——見つからなければ、もうひとり候補を決めるしかないだろうね」
「それなら、もうひとり決めておいた方がいい」
「そう簡単には決められないよ。次代のクローネの界長になる者なのだからね」
ここにいるヴァルと行方不明のイズナは、次代の世界樹の管理者とクローネの界長候補なのだ。
代わりが簡単に見つかるわけない。
どちらの職も魔素の管理が主な仕事となる。
決め手になるのは魔力の多さだ。
あとは、そこそこ若いこと。性格が偏屈過ぎないこと。エルフの人嫌いで頑固な部分が少ないこと。
イズナはどれも満たしている。
まさにうってつけだった。
人間やハーフエルフに偏見もないし、魔力の多さは多分、界一番だ。
ブーリンは、こんな分断したようなクローネをまとめることができそうなのは、イズナしかいないと思っていた。
ヴァルには世界樹の管理人を任せるつもりであった。
テラリスへ行くとはいえ、管理人の方は森から出て行かない限り、人と触れ合うことはない。多少人嫌いでもなんとかなる。
しかし、イズナが見つからなければ、状況は変わってくる。
他の者に世界樹の管理者を任せ、ヴァルをクローネの界長に据えることも考えなければないだろう。
どうするのが最適なのか。見極めて考える時間はあるだろうか。
世界樹の管理者の交代は差し迫っているはずだ。
最悪、クローネ界長を決めるのは後回しで、ヴァルをテラリスへ送るしかない。
救いなのは、少し前まで枯れが進んでいた世界樹の葉が、最近ではまた持ち直してきたことである。
交代の合図となるテラリス界長からの書状が届くまで、もうしばらくは時間がとれるだろうか。
——イズナが早く見つかってくれればいいが……。
ブーリンは祈るように町の方向を見た。
ブーリンは祈るように町の方向を見た。
まさかそのイズナが、ハーフエルフたちに追いやられてテラリスに下り、世界樹が枯れるのを食い止めていたとは知らずに。
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次話より二章に入ります!
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