第3話 「幼馴染」

 その後の俺の生活は今までとは全く違うものとなった。1時間目の授業の前に体育館へと行き、週に1度自分はろくに使いもしないフロアにモップをかけ、それとは別に毎朝体育館裏をランニングする。体育館が使えない日は1年生だけでなく、チーム全員で学校の外に走りに行ったり、補強運動をしたりする。つまり、1週間のほとんどを俺は走って過ごしている。


 中学時代帰宅部だった俺は当然未だに1年の中で一番体力がないので、いつもビリだ。たまに新澤に嫌味を言われながらもなんとか毎日やっていられるのは、やっぱり小倉がいるからだった。

 部活での彼女は先輩たちのジャージを畳んだり、タイマーで時間を測ったりしている。体育館を覗いてたまに目が合うと、こっそり手を振ってくれたりするからたまらない。俺はそれに手を振り返すこともなく、なんとなく目を逸らす。もっと素直になりたいところだけど、他のやつも側にいるから仕方ない。見られたら恥ずかしいしな。(前野は自分に手を振ってくれたと思って振り替えしてたけど)


 部活が終わった後は小倉と2人でチャリで下校する。前野や他の部員はほとんどバス通学なので、このときだけは2人の時間だ。正直言ってこのためにバスケ部に入ったと言っても過言ではない。何しろ、バスケのことはほとんどわからないしな。


「それでね、今日の奥野先輩のシュートが凄かったの!」

「やっぱりキャプテンだけあって奥野先輩、上手いんだな」

「ディフェンス2人の上から綺麗に決めちゃったんだよ!」


 それにしても楽しそうに話すなぁ。この顔が毎日見られるだけでも入部した甲斐があるってもんだ。


「あーあ、明日も掃除してランニングかぁ。 毎日大変だよ」

「体力づくりが重要って奥野先輩も言ってたでしょ? 文句言わないの」

「つっても、もうフラフラだよ」

「基礎が肝心だよ。 私もテニス部のときにそうだったからわかる。 基礎がちゃんとしてれば、きっとコートに入ってからすぐに動けるよ」

「そんなもんかなぁ」


 元々球技をやっていた小倉が言うのならそうなんだろう。夏頃になればコートにも入れるようになるだろうし、もう少し頑張ってみるか。


「じゃあ、また明日ね。 サボっちゃダメだよ」

「わかってるよ。 また明日」


 チャリで走り去る小さい背中を見送って、家へと帰る。そういや、明日小テストあるって言ってなかったか? 毎日部活しながら勉強もしなくちゃなんてみんなどれだけ体力余ってるんだよ。そのとき、ポケットの中のスマホが震えた。


「軽音部での生活はどうだ? 俺の方は秋の試合に向けて練習中だよ」


 差出人は龍だった。中学の終わり以来数ヶ月ぶりの連絡だ。


「軽音部は廃部だってさ。 代わりに友達に誘われてバスケ部に入ったよ。 毎日走ってる。」


 ここ最近の生活の要約を打ちこんで帰路に着く。自分の部屋に着いたところで返信が来ていた。


「軽音部の件は残念だったな。 この後少し時間あるか? メールだと返ってくるまでの時間が無駄だし、いつも練習終わりに行ってた河川敷で話そうぜ」


 明日は小テストがあるし、勉強してすぐ寝ないとだけど、龍にはずっと会ってないし少しなら会いたい気がする。


「いいよ。 すぐ着くし、チャリで向かうわ」


 10分程で例の河川敷に着いた。申し訳程度に設置してあるペンキの剥げたベンチにこっちに手を振る懐かしい顔がある。数年ぶりの再会なのに俺たちは先週も会ったかのように話始める。


「じゃあ、お前その愛美ちゃんって子がいるからってだけで毎日走らされてんの?」

「いや別に小倉がいるからってだけじゃないけどさ」

「ちゃんとアタックしてんだろうな? そうじゃなきゃ全く意味ないじゃんか」

「ぐっ……。 まぁ、向こうも手ぇ振ったりしてくれてるし大丈夫かなと」

「どうせそれ無視してんだろ? お前周りにカッコつけようとするとこあるもんな」

「うるせえわ!」


 流石は幼稚園児の頃からの幼馴染。めちゃくちゃ話に花が咲いた。気づいたら3時間も経過していて明日のことが心配になったけど、とりあえずは良しとする。その後は小学生の頃の道場でのキツい練習や練習後に二人でアイスを食べながら帰ったことを思い出しては二人で懐かしんだ。


「大輔、お前本当に戻ってくるつもりないのか?」

「何度も言ってるだろ? 俺は空手はやらないよ。 もちろん他の格闘技もな」

「なんでそんなに嫌がるんだ? 5歳の頃から7年も続けてたのに」

「なんでって……。 やっぱり人に殴られたり蹴られたりするのは嫌だよ。 それに相手と対面すると怖くて足が震えるんだ」

「そうか……。 それじゃあ仕方ないな」


 嫌なことを思い出してしまった。勝負をすることが怖くなり、試合で結果を残すこともなく空手から背を向けた過去を。何事も成し遂げることなく逃げた自分自身の弱さを。話をこのまま続けるのはなんとなく気まずいな。


「そろそろ帰るわ。 久々に龍と話せて楽しかったよ」

「お、おう。 またそのうち話そうぜ」

「うん、今日はありがとう。 それじゃ」


 龍と別れた俺はノロノロとチャリを漕ぐ。サッカー、絵画教室、空手。思えば昔から長続きしたことなど1つもなかったな。俺ってこの先もなんでも中途半端なまま生きていくんだろうなぁ。

 そんなことを考えながら家に着いた。風呂に入り、ベッドに倒れ込む。朝練も小テストの勉強も忘れ、意識が遠のいて行った。


第4話に続く

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ストライク・ファースト @noriben10dayo

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