第7話 数千年ぶりの――

 これは俺が捕らわれる直前の話。


 その日は朝から気持ちの良い快晴だった。 

 もともと山の天気は変わりやすく。

 快適な陽気というのは実はあまり多くはない。

 けれどこの人は久しぶりに朝から気持ちの良い天気。気候だった。


 朝起きて小屋を開けるとすがすがしい風が室内を抜ける。

 余計なことを言うと。窓を開けるともれなく洞窟に向かって風が流れるため。ほこりなども洞窟方面へ――と、自然と掃除ができる便利な家だったりする。

 まあその代わりとは言ったが。洞窟内で何か(噴火とか。その他怪しいガスとか発生して寝ていたらドカン!)ということがあるかもしれない。

 幸い俺が住んでいる間ではそんなことは起こっていないが――起こっていたら俺生きていないか。それに両親もそんなことは一度も言っていなかったので。多分洞窟内から何か起こる――と言うことはそう簡単にはないと思うが。

 

 その後は着替えをしつつ外へと移動する。

 冷たい湧き水(貯めている水とはまた別に少量だが小屋の近くで水が湧いている。)こちらの方がはるかに冷たい水。一気に目が覚める)で顔を洗い目を覚ました後。

 軽く朝食を食べ。いつもの日課。小屋近くの森の様子見へと向かおうとした時だった。

 「――うん?森が――静か?なんで?」

 毎日見ている森。

 数百年。数千年付き合ってきた森。

 もちろん小さな変化も見落とさない自信がある。

 そんな俺が――森に入った瞬間生まれて初めて大きな違和感を感じた。


 それは何か。

 ここ数千年で初めて森が静まり返っていた。


 確かに今まで生活してきた中で、森が静かになるというのは実は初めてではなく。地震災害のあった時の数日前に森が静かになったということがあったのだが。

 それ以上だった。

 森の朝と言えばにぎやかな鳥の鳴き声などがあるのだが。

 鳥の鳴き声も。その他生き物の気配も全くなかった。

 本当に何もない。普通の人なら感じることがないだろう。小さな生き物の気配すら何もない。

 地震の時でも確かに静かになった。静かになったが小さな生き物は一部いたはずだが。それが今回は一切合切いない。

 通常なら俺が森に入ると(昔なら俺と限らず山頂で暮らす人すべてだが。今は俺だけ)。ちらほらと野生動物の方からやって来ることがあるのに、その様子も気配も一切なかった。

「なんだ?また揺れるか?」

 森の異変を感じてすぐに思ったのはやはり地震などの災害。

 しかしそれにしては何もいない。

 まるでこの地に見知らぬ誰かが入って慌てて逃げたかのように何もいない。

 キョロキョロとあたりを見回すが本当に一切の生き物がいない。

 まるで山全体から生き物が夜逃げでもしたのかというくらい静かだ。

 

 ――ドドン――ドドン……。


「?」

 するとかすかだったが遠くで何か音が聞こえて来た。

 そして注意深く周囲を確認すれば、自然のものではない小刻みな揺れが時たま起こっていた。

「――下か。下だな。山の下の方で――何かが起こっているのか?」

 原因となりそうな場所が分かった俺は小走りで獣道を抜けていく。

 この辺りの道はすべて把握しているので問題なく道なき道も抜けていくことができる。

 そしてこの先には高台。崖があり山の麓の方まで見ることが出来る場所がある。

 まあそれでも一番近い町は山の向こうになってしまうので見えないが。それでもある程度遠くまでは見ることが出来る場所がある。


 タタタッと、しばらく小走りに走り森を抜ける。

 そして服に付いた枯葉などを落としつつ。

 高台へと抜けた俺が見たのは――。

「――な、なんだよ。これは――こんな事今までになかったことだぞ」

 まだ遠くと言えばかなり遠くなのだが。でも確かに俺の目には山からずっと続く森から今はまだ小さいが煙が上がっているのと。この山へと何かが進んできている。木々が一本道を作るように倒れている光景(本当にまだちらっと見える程度)を見つけた。

「もしかすると冬の間に何か来ていたのか――確認を怠ったか。なんだあれ?」

 基本山奥での生活は冬になると洞窟内の生活ばかりとなる。

 雪が多ければ昔なら近所にある家にも数日。数週間行かないなどが当たり前のようにある。

 そして今は俺一人。特に外に出ずとも冬となれば洞窟内の作業を黙々とする日々となっていたので、実は今はまだ全部の方向。森の状況を確認できていない時期だった。

 なので俺はこの光景を見たとき。

 数千年生きている俺の知らない現象が何か起きている――などと考えたりしていたので。

 まさかこの時の俺は、人が森へと攻めてきている(正確には生活の場を着実に広げてきていた)とは思うこと。考えることもしていなかった。


 そもそも俺は自分が今までしてきたことは、同じ人の生活の助けになっていると思っており。

 まさかまさか森を壊しながら山へと向かって来るのが自分が助けていた人とは夢にも思わず。何か自分の知らない生き物。それこそ数千年に1度しか現れないようなとてつもない何かが森を破壊し近付いて来ている。

 または災害級の何かが起こっていると思い。慌てて自然を守るため(この山の下で済む人々の安全のために)何かが起きている方向へと急いで向かうのだった。

 

 そして俺がこの時は自分が知らない何か。と思いつつ探していたこの異変の原因を見つけ。人の集団と遭遇するのは数日後のことだった。

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