さよならの境界線

因数分解

さよならの境界線《上》

あの日のあの時、ああしていれば


今もあのまま2人で平和に暮らせていたのだろう




◇◇◇





遡ること半年前、俺と丹羽さんは些細な事で喧嘩をしてしまった。

普段は喧嘩など全くしないが、今回ばかりは意見のすれ違いにより起こってしまったのだ。



「何でそんな色んな人に対して愛想を振り撒くんですか。俺だけでいいじゃないですか」



『…愛想を振り撒いているのではなく、日頃から仲良くしてくれている方へのお礼として物を贈っただけです。』




原因が全て俺のせいという訳では無いが、元はというと俺の嫉妬から始まった喧嘩なのである。

丹羽さんも丹羽さんで人に優しすぎる、変に気を遣いすぎるという悪い所もあるが。

裏を返せばただのお人好しなだけだ。



『……すみません、少し頭を冷やして来ますね』



丹羽さんはそう言い残し、家を出て行った。

_少し散歩をしたらすぐ戻って来るだろう。


そんなちょっとした軽い気持ちが、今回の事態を引き起こしてしまったのだと今になっても思う。





◇◇◇





(少し言い過ぎてしまったかもしれない……)



久々に井間さんと喧嘩をしてしまった。いつもなら謝って仲直り…という流れなのだが、今回は少し違った。


お互いに変な意地を張って、まともに話し合いも出来なかったのだ。




何か買って帰って機嫌を取ろうかと思い、近くのスーパーへと向かう。

井間さんは甘い物が大の苦手だ。なのでデザートなどで機嫌を取る事は出来ないのである。




(これぐらいで大丈夫かな…食べ物で仲直り出来るとは思ってないけれど)



とりあえず、井間さんの好物の辛い物を沢山買った。あの人は食べる事が好きなのである程度は釣れるだろう。


誰も待っていない夜の信号機を前に、青に変わるのを待つ。

深夜に差し掛かっているのもあり、人気はないが車の通りは割と多めだ。

残業帰りのサラリーマンや犬の散歩をしている人など…見かけても1人か2人ぐらいだった。


信号機が青になり、横断歩道を渡ったその時。






信号無視をした車が私に向かって突っ込んで来る。

運転手も焦っているような表情をしていたが、もう手遅れだった。


___



轢かれた後の記憶はあまり無く、目の前も真っ暗だった。

辛うじて残っているのは運転手が必死に電話をしている声のみ。当たりどころが悪かったのか、私はその声を聞いた直後に意識を手放した。






◇◇◇







時計の針が11を指す手前の時間。22時頃に出て行った丹羽さんが一向に帰って来ない。


まさか事故か。誘拐の可能性もあるが、倉田の家に上がらせて貰っているという見込みもある。

とりあえず探しに行こうとした刹那、倉田から電話が掛かって来た。

ついでに丹羽さんの事についても聞こうと思い、電話に出る。



「もしもし。急にどうした」


〘繋がって良かったわ。ちょっと言わなアカン事あるから〙



聞きたい欲を抑え、軽く相槌を打ち相手からの言葉を待つ。


その時、倉田の口から告げられた事は自分の耳を疑うような内容だった。




〘丹羽ちゃんが轢かれたって。今近くの夜間病院運ばれたらしいから、今向かっとる最中〙




_あの人に限ってそんな事は無いだろうと思いたかったが、これは紛れもない事実だと電話越しでも伝わる程だった。



〘心肺停止とまでは行っとらんけど、どうなるか分からんぐらいには危ないらしいわ。頭の打ち所が悪くて。

すぐには目覚まされへん可能性高いって言うてた〙




正直、信じたくない。だが、ここで逃げたら何も変わらないのは分かっている。



「わざわざ申し訳無い、とりあえず俺も向かうから」


〘全然ええよ。ほんなら場所送っとくわ〙



電話を切られた直後、倉田から病院がある場所の地図サイトが送られて来る。

家からは然程遠くなく、車で行けばすぐ着くぐらいの距離だった。



必要最低限な物だけ持ち、俺は丹羽さんが運ばれた病院へと向かった。






《下に続く》

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さよならの境界線 因数分解 @Insuu_bunkai165

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