第15話 腐った屍肉

「い、いただきます」


神力の塊を口に入れた瞬間、おぞましい腐敗臭が鼻を突き、全身に鳥肌が立って拒否反応が起きる。


次いで、どろっとした酸味が腐敗臭そのままの味が口の中に広がりはじめた。


とても咀嚼ができる代物じゃありません。


なんとか、小さくかみ切って飲み込む要領でしか無理です。


咳き込み、嘔吐いてしまうがクエストクリアと満腹度を回復させるため、私は果敢に挑戦して何とか食べきった。


何だか、人として大切なものを失ったような気がします。


でも、誰も見ていないから多分大丈夫……なはず。


「う、うぉぇ……。あの、S級ハンター達め。絶対、地上に戻ったらこの神力の塊を大量に口に押し込んでやります」


呪詛を吐いた次の瞬間、お腹を中心にして全身に激痛が走った。


この痛み、間違いなく『毒』です。


過去の似た経験から察すると、私は解毒すべく浄化魔法を発動した。


「うぐ……⁉ どうして、どうして痛みがひかないんですか……⁉」


激しい腹痛、全身から出る冷や汗、手と足に震えがきてまともに立っていられない。


自らの意思と関係なく歯までがちがちと鳴ってしまう。


私はたまらずその場で蹲ると、自身の状態を確認するべくステータス画面を呼び出した。


【ミシェル・ラウンデル ステータス一覧】

レベル:10【白ゲージ(経験値)】

振り分けポイント:0

状態:致死毒

体力:1444/1500【緑ゲージ】

魔力:520/5000(2000+3000)【青ゲージ】

スタミナ:1500/1500【黄色ゲージ】

満腹度:20/100%【橙ゲージ】

生命力:G(15)【体力量】

精神力:G(50)【魔力量】

持久力:G(15)【スタミナ】

筋力:G(15)【物理攻撃力】

健康力:G(10)【物理防御力+状態異常耐性】

技量:G(10)【武術全般の成長力率上昇、様々な要素にプラス補正】

敏捷:G(20)【身軽さ、攻撃速度】

知恵:G(11)【魔法攻撃力】

知識:G(10)【魔法防御力】

運:G(10)【幸運に巡りやすくなる】

根性:F(30)【経験値増加、自然回復力上昇。致命的な一撃を受けた際、まれに神の祝福が発動】


「なんですか、これ。致死、毒?」


見慣れない文字に目を瞬くが、すぐに意味を理解して顔から血の気が引いた。


「死に至る毒、ですか⁉ ふざけるのもいい加減にしてください」


根性で再び浄化魔法を発動するが、痛みは一向に治まらない。


このままだと、本当に死んでしまう。


私は止むなく『カイネ直通念話』を押した。


「カイネ。お願いします。質問に答えてください」


『おや、ミシェル。これはまた大変な時に呼び出しましたね。しかし、お伝えしたはずですよ。残念ながら私は力になれません』


念話が通じたかと思ったら開口一番、カイネの冷淡な口調が聞こえてきた。


でも、それは想定内です。


「わかっています。質問したいのは致死毒についてです。浄化魔法で解毒されない理由を教えてください」


『なるほど。それぐらいでしたら問題なさそうですね』


カイネは合点がいったような声で相槌を打ったらしく、次いで咳払いが聞こえてきた。


『致死毒とは文字通り、死に至る毒、です。通常の浄化魔法では毒や猛毒は解毒できても、致死毒は解毒できません。残念ながら現状のミシェルでは、どうすることもできないでしょう』


「そ、そうなんですね。じゃあ、さっさと石碑の部屋に移動させてくれませんか」


どうすることもできない。


つまり、私はこのまま死んでしまうということだ。


それなら、今から石碑のある部屋に戻って再スタートしても結果は同じなはず。


『残念ですが、それもできません』


「どうしてですか。死んで戻ろうが、今戻ろうが結果は一緒なはずです」


『一緒ではありませんよ。致死毒に苦しみ、耐え、死んでいく。これもまたある種の鍛錬。言ってしまえば経験です。個人的には、助けてあげたい気持ちはありますが、ネルヴィアは絶対に承知しないでしょう。頑張ってください』


「が、頑張れって。何をどう頑張ればいいんですか」


必死に声を荒らげるが、カイネから返事はない。


もう、どんだけ質が悪いんですか。


心の中で吐き捨てるが、どうにもならない。


でも、ゾンビ達の戦闘で体力が減っているはずだから、すぐに死ねるはず。


そう思った時、私は「あ……」と思い出してステータス画面を開いた。


【ミシェル・ラウンデル ステータス一覧】

レベル:10【白ゲージ(経験値)】

振り分けポイント:0

状態:致死毒

体力:1249/1500【緑ゲージ】

魔力:577/5000(2000+3000)【青ゲージ】

スタミナ:1500/1500【黄色ゲージ】

満腹度:20/100%【橙ゲージ】

生命力:G(15)【体力量】

精神力:G(50)【魔力量】

持久力:G(15)【スタミナ】

筋力:G(15)【物理攻撃力】

健康力:G(10)【物理防御力+状態異常耐性】

技量:G(10)【武術全般の成長力率上昇、様々な要素にプラス補正】

敏捷:G(20)【身軽さ、攻撃速度】

知恵:G(11)【魔法攻撃力】

知識:G(10)【魔法防御力】

運:G(10)【幸運に巡りやすくなる】

根性:F(30)【経験値増加、自然回復力上昇。致命的な一撃を受けた際、まれに神の祝福が発動】


「……そうでした。そうでしたね」

私は苦しみ、のたうち回りながら地面を殴りつけた。


グミ入りアイスの効果で体力が全回復していたことを忘れていたのだ。


どんだけ意地の悪いやり口ななんでしょうか。


私は深呼吸をすると、どこぞで聞き耳を立てているであろうネルヴィアに向けて力を込めて叫んだ。


「ふざけるのもいい加減してください。やるなら、ひと思いやれぇええええええ」


しかし、案の定返事はない。


私は体力を示す緑ゲージが空になるまで致死毒による激痛に悶え苦しみ、あえぎ、悶絶躄地【もんぜつびゃくじ】のなかでゆっくりと意識が薄れ、目の前が闇に包まれていった。


『おめでとうございます。ミシェル・ラウンデルは称号【屍肉を喰らった者】を取得しました』



「ん……うん?」


瞼を通して眩しさを感じ、意識が覚醒していく。


上半身を起こして呆然としていると、喉を鳴らす独特な笑い声が上から聞こえてきた。


「おぉ、祝福の没落令嬢ミシェル・ラウンデルよ。また死んでしまうとは情けない」


石碑の上からクソ神ことネルヴィアが不敵に笑っていた。


「は……。どの口が言っているんですか」


私は乾いた笑いを吐き捨て、ジト目を浮かべてクソ神から視線を逸らした。


満腹度ゼロで追い込んだ挙げ句、クエストでとどめを刺したのは貴方でしょう。


ネルヴィアはにやりと口角を上げて石碑の上から降り立つと、こちらに悠然とした足取りでやってきた。

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