第11話 性格が腐ってる
「私、痩せてるから美味しくありません。やめて、食べるのやめて……ってあれ、死んでない?」
慌てて上半身を起こしてゾンビ達に噛まれ、爪で切り裂かれた場所を確認するも傷はない。
まさか全て悪夢だったのだろうか。
周囲を見渡してみれば白を基軸とした建物内にいるらしく、見覚えのあるそびえ立つ碑石もあった。
「おぉ、祝福の没落令嬢ミシェル・ラウンデルよ。死んでしまうとは情けない」
「は……?」
突然聞こえてきた声にハッとして見上げれば、石碑の上に誰かが座っていた。
いや、この性格の悪い声、口調は聞き覚えがある。
「仕方がないから、お前にはもう一度。いや、何度でも機会を与えようじゃないか」
「こ、このド畜生のクソ神め。私は貴方の玩具じゃありません」
ビシッと指を指して睨み付けると、ネルヴィアは肩を震わせて「クックク……」と喉を鳴らして笑い始めた。
「我がド畜生のクソ神か。では、ド畜生のクソ神がいては気分を害するであろう。さらばだ」
「え、あ、ちょっと待ってください。まだ、聞きたいことがあるんですけど⁉」
「我は話すことなどない。再び地上を目指すには、あの白い扉の先に進むことだ。健闘を祈っているぞ」
慌てて駆け寄るが、ネルヴィアはにやりと口元を緩めるとすっと消えてしまった。
あのド畜生め。
きっとどこかで私が四苦八苦する姿を見て楽しんでいたのね。
なんて奴だ。
深いため息を吐いた私は、そういえばと、石碑に刻まれた古代文字をまじまじと見つめた。
「ここに来たばかりの時、ちゃんと読む時間がありませんでしたね。これ、なんて書いてあるんでしょうか」
令嬢時代に勉強した内容のなかに、歴史を学ぶ一環として『古代文字』があった。
当時は家庭教師の趣味的要素も強かったような気もするけれど、今となっては感謝ね。
現代に使われる文字の原点と言われる古代文字。
今となっては日常で使うことはなく、古代遺跡の歴史調査や遺物【オーパーツ】の使用方法解明に使われるぐらいだ。
『ここに迷い込み地上に帰りたいと強く願う者のため、神域である呪いと祝福の鍛錬場について簡単に書き残す。
神域は全部で五階層となっており、階層が上がるごとに魔物が強くなっていく。
各階層には、次の階層に繋がる扉の鍵を持つ特別な『守護者【ガーディアン】』が存在する。
地上に戻るためには『守護者』を倒し、鍵を得て階層を上がっていくしかない。
鍵を守る守護者は屈強であり、生半可な強さではたちまち返り討ちに遭うことだろう。
しかし、ここは神域であり、どのような死に方をしても、たちまちこの石碑がそびえ立つ場所で幸か不幸か復活させられる。
望む、望まないにかかわらず死から強制的に復活させられる神の呪い、本人次第でどこまでも強くなれるという神の祝福。
この二つこそ、呪いと祝福の鍛錬場、という名の所以である。
だが、肉体がどんなに綺麗に復活しようとも、人の心や魂はべつだ。
余程の強き不屈の心を持つ者でなければたちまち心は折れ、魂が疲弊していくだろう。
度重なる失敗、敗北、おぞましい死によって神域への挑戦に心が恐怖し、石碑がそびえ立つこの部屋に引き籠もるようなことがあれば、神は容赦なく我らを切り捨てる。
ここに迷い込み、地上を目指す者に告ぐ。
どんなことが起こっても心が折れてはならない、魂を疲弊させてはならない。
私や他の者達はそれができなかった。
地上に戻れず、部屋に引きこもった私達は神に切り捨てられ、石碑や神域内を彷徨う亡者となってしまった。
迷い込んだ者に告ぐ。私達のようになりたくなければ心を強く持つのだ。
最後になるが神域内には、私達が使っていた様々な武具、装飾品などの道具が多々眠っているだろう。
それらがこれを読んだ者の力になることを願っている』
「……何ですか、これ。私以外にも沢山の人達がここに挑戦して皆失敗したってことですか? あの、クソ神。どんだけ性格悪いんですか」
私は呆気に取られて力が抜けてしまい、思わずその場にへたり込んでしまった。
過去に沢山の人達が挑戦したのであれば、A級やS級ハンターぐらいに強かった人もいるはず。
そうした人達が全員、心が折れて、魂が疲弊して石碑や神域を彷徨う亡者になった、ということ。
あのクソ神、この神域をどんな難易度にしたんでしょうか。
「……でも、どれだけ困難な道だろうとやるありません」
私は深呼吸をすると、自身の両頬をパチンと叩いて気合いを入れた。
「多額の借金で家が没落、幼くして両親を亡くし、身内に騙され、婚約者からは婚約破棄、挙げ句の果てS級ハンター達に捨て駒された私には、もう怖いモノなんてありません」
唯一、私に残されたのは、頭が良くてしっかり者の弟アウラと、無邪気で可愛らしい妹レイチェル。
二人に会うためなら、どんな困難や絶望が相手でも魂がすり減らされることなんてない。
そしてこの神域を出た暁には、S級ハンターどもと私を足蹴にした奴等への鉄槌を下す。
それを思えば、私の心が折れることなんてありません。
「さて、まずはしないといけないことは……」
私はゾンビ溢れる世界に続く白い扉を見つめると、「メニュー」と呟いた。
【メニュー画面】
・メッセージボックス
・クエスト
・ステータス(能力振り分け)
・武術一覧
・装備一覧
・魔法一覧
・祝福一覧
・所持アイテム一覧
・アイテムボックス(精神力、知識、知恵の三項目が六十以上で解放)
・ショップ(レベル二十以上で解放)
・武具作製(レベル二十以上で解放)
・武具修理(レベル二十以上で解放)
・武具・アイテム分解(レベル二十以上で解放)
・アイテム作製(レベル二十以上で解放)
・アイテム修復(レベル二十以上で解放)
・武具・アイテム分解(レベル二十以上で解放)
・神力異界通信(レベル百以上かつ精神力、知識、知恵の三項目が百四十以上で解放)
・称号
・オプション
・ヘルプ
・カイネ直通念話
「これですね」
私は目の前に並んだ項目を一つ選んで触った。
脳裏に呼び鈴のような音が響き、透明感のある澄んだ綺麗な声が聞こえてくる。
『ミシェル、呼びましたか』
「えぇ、カイネ。ちょっと尋ねたいことがあるんです」
『はい、私に答えられることなら構いませんよ』
「じゃあ、聞きますけれど、この石碑に書いてあることは事実なんですか」
『石碑……? あぁ、ミシェルの目の前にある石碑ですね。そうですよ、そこに書いてあることは概ね事実です。だから言ったでしょ、大変なのはこれからだと』
あっけからんとした答えに、逆に背筋が寒くなる。ネルヴィアことクソ神といい、カイネといい。
神にとって、人の命なんてさぞ軽いものなんでしょう。
でも、ここで臆するわけにはいかない。
「そうなんですね。じゃあ、彼等のやった失敗。心が折れたり、魂がすり減った原因を教えてもらうことは可能でしょうか。ダンジョンの攻略情報を事前に調べるのは、ハンターにとって常識なんですが……」
『なるほど、良い着眼点ですね。しかし、それは認められません』
「え、どうして?」
『ネルヴィア曰く、それはネタバレになるからつまらん、とのことです』
「ね、ネタバレ……⁉ 皆様はお遊びかもしれないけれど、こっちは命がけなんですよ」
小説や演劇をはじめとした物語を楽しむにあたって、ネタバレは確かに好ましくないだろう。
でも、神域攻略は私にとってそんな楽しむようなものではない。
『言わんとしていることはわかりますが、ネルヴィア曰く、その命もここではいくらでも復活できるから問題ない、ということです』
「ぐ、ぐぐぐ……⁉ クソ神です。本当に性格が腐ってます」
私はあまりの憤りにその場で地団駄を踏むが、すぐに力が抜けてがっくりと肩を落とした。
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