第8話 祝福

「クックク、神の祝福を得たのだぞ。そう簡単に地上に戻れるわけがなかろう。お前はその祝福を使い、この神域を出るべくもがき、苦しみ、最深部のここから地上を目指すしかない。お前は私を楽しませる玩具なのだ」


「ちょ、ちょっと待ってください。こんなの祝福じゃなくて呪いじゃありませんか」


「何を言っている。祝福も呪いも本質はどちらも同じ。お前達人間が、自らに都合が良ければ祝福、悪ければ呪いとほざいているだけだ。さぁ、我を楽しませてくれ」


「ふざけないでください。この、この……陰険クソ神!」


「クックク。いいぞ、神に向かってその暴言。お前を選んだのは間違いではなかった」


ネルヴィアの笑い声が聞こえなくなると、途端に辺りが光に覆われていく。


眩しさのあまりに目を瞑る。


そして、ゆっくり目を開くと私は愕然とした。


「なによこれ、趣味の悪いダンジョンに戻ってきてるじゃないの」


がっくりと膝から崩れ落ちるが、地面から次々と手が生え出てくる様子に私はハッとして立ち上がった。


「あのクソ神。与えた祝福の内容も教えずに去るなんて。せめて祝福の説明書ぐらい寄越しなさいよ」


もう、どうにでもなれ。


杖を構えて愚痴ったその時、頭の中で何やら明るく楽しげな音楽が響きはじめた。


今度はなにごとよ。


とうとう私、頭の中までおかしくなっちゃったの⁉ 頭を抱え込んでしまうが『おめでとうございます』と透き通った綺麗な声が脳裏に聞こえてきた。


『この度、ミシェル・ラウンデルは武具と鍛錬の祝福を得ました。祝福の詳細について説明が必要でしょうか』


「え、あ、説明ですか。お、お願いします。何でもいいから全部説明してください」


『畏まりました。では、一時的に神域内の時間を停止いたします』


「え、時間を停止……⁉」


わけがわからず首を傾げたその時、硝子を割ったような音が轟いた。


なに、なに。


今度はなんなのよ。


もう何が何だかわからない。


頭を抱え込んで俯くと、地面から顔を出そうとしているゾンビと目が合ってしまった。


「あれ……。このゾンビ動かないわね」


最早、親の顔より見たかもしれないゾンビ。


驚くよりも先にきたのは違和感だった。


『神域内の時間は無事に停止されました。それでは、ミシェル・ラウンデルに与えられた武具と鍛錬の祝福について説明をいたします』


「え、本当に時間を停止したの? あなたも、あの性格の悪いクソ神……」


しまった、余計なことを口走ってしまった。


ネルヴィアが性格の悪いクソ神であることは間違いないが、相手は一応神様だ。


発言としては不敬極まりない。


声の主が同等の存在であれば機嫌を損ねてしまうかもしれない。


慌てて口を押さえるが、『ふふ、ネルヴィアが性格の悪いクソ神ですか。言い得て妙ですね』と返ってきたのは笑い声だった。


あら、この感じ。


ひょっとして声の主もネルヴィアには振り回されているのかしら。


私は咳払いをすると、とりあえず空を見ながら言葉を発することにした。


「失礼な発言をして申し訳ありませんでした。それで、脳裏に聞こえる声の主様もネルヴィア様と同じ神様なんですか」


『えぇ、そのようなものです。しかし、私に畏まる必要はありません。もっと気さくに話して下さい。私は神々から祝福を与えられた者達へ簡単な説明をするだけの役割ですから』


「そうなんですね。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。早速なんですが、お名前はなんてお呼びすればいいですか」


ネルヴィアと同じ神様でも、この声の主は信用できそうな気がした。


『名前、ですか』


「あ、もしかして名乗るのは禁止でしたか?」


神様となれば、私達が知らない常識や礼儀作法があるのかも。


人間相手に名乗ってはいけないとか。


『いえ、祝福を授けられた方に名前を聞かれるのは珍しかったので少し驚いただけです。私のことは『カイネ』とお呼びください。敬称も不要です』


神様だから名前を呼ぶときは敬称をつけようと思ったけれど、先に『不要』と言われてしまった。


この場合、先方の言うことに従ったほうがよさそうね。


「カイネ、ですね。では、私のことはミシェルと呼んでください」


『わかりました。では、ミシェル。早速ですが本題に移りましょう』


「はい。お願いします」


私が頷くと、カイネの咳払いが聞こえた。


『まずは魔力を意識しながら【メニュー】と発してください』


メニューと発しろ、ですって。


献立表でも出てくるの?


ちょっとでも期待した私が馬鹿だったわ。


やっぱりカイネも碌な神ではないのね。


私は小さくため息を吐き、訝しみながら「メニュー」と呆れながら呟いた。


【メニュー画面】

・メッセージボックス

・クエスト

・ステータス(能力振り分け)

・武術一覧

・装備一覧

・魔法一覧

・祝福一覧

・所持アイテム一覧

・アイテムボックス(精神力、知識、知恵の三項目が六十以上で解放)

・ショップ(レベル二十以上で解放)

・武具作製(レベル二十以上で解放)

・武具修理(レベル二十以上で解放)

・アイテム作製(レベル二十以上で解放)

・アイテム修復(レベル二十以上で解放)

・武具・アイテム分解(レベル二十以上で解放)

・神力異界通信(レベル百以上かつ精神力、知識、知恵の三項目が百四十以上で解放)

・称号

・オプション

・ヘルプ


「……何、これ」


私は唖然として目を丸くした。


メニューと呟くと、目の前に忽然と白の額縁と青一色の絵に白い文字が羅列された絵が現れたからだ。


魔法だろうか。


でも、こんな魔法、見たこともなければ聞いたこともない。


羅列されている白い文字も意味がよくわからない。


装備、魔法、祝福一覧とかならまだ何となくわかるけれど、メッセージボックス、ショップ、オプションは意味不明だわ。


『では、順番に説明します。少し長くなりますが重要なことなのでちゃんと聞いてくださいね』


「わかりました」


私は一言一句、聞き漏らさないように深呼吸をして集中する。


もう、カイネを訝しむ気持ちは消え去っていた。


『あ、ちなみにヘルプという項目を使えば自分で勉強することもできます。ご希望でしたら、私からの説明を省くこともできますが如何しましょう』


「いいえ、説明をお願いします。私が理解できる範疇をとうに超えていますから。聞いてから調べるならまだしも、全部自分で調べるなんて時間が掛かりすぎますし」


 肩を竦めると、カイネの「ふふ」というちょっと意地悪そうな笑い声が聞こえてきた。


「……どうしたんですか」


『過去には私の説明を拒否し、与えられた祝福の力を使い切れずに死んでいった方々も数多くおりました。ミシェルは、良い判断力を持っていると思っただけです』


「そ、そうなんですね」


ネルヴィアと違うと思ったけれど、カイネはカイネで冷徹かつ冷淡だ。


多分、今の問いかけは私を試してきたのね。


気をつけよう。


『では、説明をはじめます。まずはその【メニュー画面】ですが、そちらは神々と祝福を受けたミシェル様しかご覧になれません。地上に出てお使いになる際、周囲に人がいると不審者扱いされる恐れがあるのでご注意ください』


「はい、わかりました」


『そして、次に【ステータス(能力振り分け)】を指先で触ってみてください』


「こうですか?」


言われるがまま、恐る恐る人差し指で白文字に触れると、青背景に浮かぶ白文字が一瞬で変わった。

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