第13話

「……ラセル、聞いたか?」

カミーユの声は、珍しく低かった。あいつは普段、能天気な皮肉屋で、真面目な話をするときだってどこかふざけてる。

でも今は違う。

それだけ、この情報が重すぎた。


「……《エウカリオン》が動いたって話か?」

「そうだよ。あの死地が……再起動した。しかも“ユリウス・ゼルファ”と共にだ」

「……あの、捨てられた第三皇子が……?」


俺は自分の拳を無意識に握っていた。


あの“世界が終わった日”から、まだ数週間しか経っていない。

だというのに世界は、もう次のフェーズに入っている。

《殺戮機神》の再稼働、《王都崩壊》、そして《アトワイト・グエルクス》の離反と逃亡。

それだけでも終わってるのに、今度は《ゼルファ家》の亡霊まで出てきやがった。


「なあ、カミーユ」

「なんだよ」

「俺たち、これから何を信じて戦えばいい?」

「……知るかよ。正義なんて、最初からどこにもなかったんだ。

でもよ、アトワイト様だけは、“自分の正義”を貫いた。俺には、そう見えた」

「……俺も、そう思った」



式場が沈んだあの日から、兵士たちは変わった。

高官の多くは行方不明か死亡、指揮系統は崩壊、部隊はバラバラ。

だが、不思議と“逃げ出す者”は少なかった。


むしろ……皆、静かに待っていた。

“もう一度、アトワイト様が現れるその時”を。


「なあ、ラセル。もし、アトワイト様が世界を征服するって言ったら……お前は、どうする?」

カミーユの声は冗談っぽかったけど、その奥には何か切実なものがあった。

俺は即答した。


「……従う。あの人には、その資格がある。俺たちの誰よりも、な」

「……だよな。俺も、同じだ」



その夜、野営地の焚き火の前で、俺たちは無言のまま空を見上げた。

星が静かに瞬いている。けど、どこか張り詰めていた。


“何か”が近づいてる。

歴史の書き換えとか、革命とか、そんな軽い言葉じゃ言い表せない“何か”が。


「ラセル」

「あ?」

「俺たち、もしかして……すげえ瞬間に、生きてるよな」

「……ああ。たぶん、歴史の教科書が書き変わる瞬間を、今、生きてる」


そう、きっとこれは“始まり”だ。

アトワイト様が創る、“新しい世界”の——


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る