第14話

「……ラセル、見ろ。あれ……信号弾か?」

カミーユの声に空を見上げた。夜の帳が降りきらぬ蒼に、一筋、赤く裂ける光。


「間違いねえ。あれは王都南部方面、第三廃区の方角だ」

「廃区って……まさか、あそこに残党が?」

「いや、違う。あれは……《味方》の信号だ」



俺たちが“あの人”に従うと決めてから、兵士たちは自主的に再編を始めていた。

中央の命令系統が死んでいる今、各地の部隊はばらばらの判断で動いている。

だが、その中でも“アトワイト派”と呼ばれる、彼女の動向を追う動きは密かに広がりつつあった。


俺とカミーユも、そんな部隊の一つ、《第三暫定師団》の構成員だ。

正式な任務は存在しない。だが、共通する目的はただ一つ——


「アトワイト・グエルクスの意志を継ぎ、世界を見届けること」


それだけが、今の俺たちの“軍規”だ。



信号弾の落下地点へ急行すると、そこには数名の兵士たちが待っていた。

見知った顔もあるが、見慣れぬ服装の者もいる。

——帝国系の亡命者か。


「合流班か?」俺が声をかけると、背の高い男が頷いた。

「俺たちは《新・グエルクス派》、南方第七残存隊だ。アトワイト様の情報を追っている」

「新・グエルクス派……初耳だな」

「内々で動いているからな。現段階では各隊の統合は予定されていないが……“あの方”が姿を現すまでは、行動は一致している」


カミーユが小声で俺に囁いた。

「おい、ラセル……これ、ヤバくないか? マジで軍が一つできる勢いじゃねぇか?」

「ああ……わかる。もう、“ただの反乱”じゃない」


この世界には、まだ誰も気づいていないかもしれない。

でも、俺たちは知っている。

歴史が、“アトワイト”という名のもとに収束し始めている。



その夜、廃区の地下に身を潜めながら、報告書をまとめていた兵士が一人、震える手で紙を差し出してきた。


「これを……見てください。新たな座標が……“アトワイト様”の機神の、飛行航跡です」


地図に刻まれた、不可解な線。

だがそれは、確かに――世界を一周していた。


「……これは……」

「まさか、もう……次の舞台に?」


カミーユが呟いた。

俺もその言葉を否定できなかった。


世界征服の序章は、すでに始まっていたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る