第6話

空中に浮かぶ城塞都市——フェルナード。


それはかつて、神代の遺産と呼ばれた魔力浮遊石エリュシオン・コアを中心に築かれた、天空の特異点。

常時防衛機構と五層構造を持ち、周辺諸国の首脳ですら立ち入りを許されない、完全なる中立拠点。

だが──それはもう過去の話だった。


「ここも、例外ではない。……空に浮かぶなら、墜とすだけ」


アトワイトは、グロリアを強襲輸送モードに変形させ、

重力干渉兵器ラグナスフィアを起動。


彼女の足元には何もない。

ただ、どこまでも広がる“空”だけがある。


そしてその空に、無数の魔力式ロケットと飛行兵器が飛び交い、

上空ではフェルナードの防衛部隊ノウム・ウィングが迎撃態勢を取っていた。


「《グエルクス機関》、応答せよ!貴様らの行為は世界秩序への重大な挑戦とみなす! 直ちに撤退せよ!」


「命令拒否。撤退はあり得ない。——貴殿らの存在自体が、秩序の阻害要因」


その一言とともに、空が反転した。


アトワイトが起動したのは、限定戦術兵器:重力逆転フィールド《ゼノクラッシュ》。

フェルナードの第一外郭が、バラバラに崩壊する。


「な……!? 外郭が……もたない……ッ!!」


「……“浮いている”なら、まず“落とす”。それが最適解」


瞬間、グロリアが突貫。

十六の補助翼を展開しながら、超高出力の推進ユニットでフェルナード最下層へと突入する。


——その侵攻はまるで、神罰だった。



同時刻、遥か西の旧廃都市イル=ヴァルム


ユリウスは、ひとりの男と対峙していた。

灰色の外套をまとった、無表情の男。


「やはり来たか、《征服者》の片割れよ」


「君が《灰の錬金王》、ローデヴィン。フェルナードの背後にいた錬金術結社の首領ってわけか」


「我らは創り出す側であり、滅ぼす側ではない。だが、君たちは全てを否定する。調和も、思想も、境界も……」


「違うな。アトワイトは“壊す”だけだ。俺はその先に、“創る”を担当する」


ユリウスの目が光る。


「世界は、もう古い。——だから、僕たちが次をやる」


「……狂気の域だな。だが、魅せられる」


男は笑い、戦いが始まった。


ユリウスはまだ、アトワイトの物語には“加わらない”。


——だが、彼もまた世界征服の舞台を、着々と整えていた。



そして、空中都市フェルナードは、その日の夕刻には地上に叩き落とされた。

アトワイト・グエルクス、ただ一機の手で。


次なる標的は、神聖国家連合リュディア

宗教と神官騎士団の牙城。

世界最古の“神の名を騙る国家”。


アトワイトの目に、もはや迷いはない。


「次は……《神》を、是正する」


——物語は、いよいよ世界征服の“臨界”へ。


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